1人暮らしや核家族が多くなった時代に家族の負担を減らしたいと、三重県の仏壇店と寺と石材店がコンパクトな一人用の墓石を開発しました。移動が可能で、寺の管理費用が月額制のこの墓石は、新しい供養の形となるかもしれません。

■妻と次男を続けて亡くし…困り果てた男性がたどり着いた小さな墓石

 この日、名古屋・金山総合駅の南口で毎月開催される「金山にぎわいマルシェ」に、新しいタイプのお墓を紹介するブースがありました。

【画像20枚で見る】移動可能で月額制…『1人用墓石』仏壇店×寺×石材店で開発 核家族多い時代の“供養のカタチ”

このブースでは、妻と次男を立て続けに亡くしたという80代の男性が、家族の供養について熱心に質問をしていました。

男性(80代):
「長男がいるけど、横浜で所帯を持っている。話をしたら、『墓を作っても面倒見切れない』と…」

苦楽を共にした妻と次男の死。残りの人生を2人の供養にと考えている男性ですが、頼みの長男は地元を離れて横浜で生活。先祖の墓も遠い場所にあり、80歳を超えた男性には、新しく墓を建てる余裕もありません。

困り果てた男性がたどり着いたのが、ブースで紹介されていた高さ23センチ、縦・横20センチほどの小さな墓石。骨壺と一体になった「偲墓(しぼ)」という名の一人用のこの墓石には、費用や墓地など様々な悩みを解決に導く新しい供養の形が備わっています。

男性(80代):
「核家族になってきているので、これは自然の流れ。移動できる墓を買って、あとは(月に)3300円のお世話料。寺に行かなくても弔ってもらえるなら、妻は喜ぶだろう」

■仏壇店と寺と石材店が開発…負担の少ない「移動可能」「月額制」の新しい時代の墓石

 偲墓は、三重県の仏壇店と寺の住職、そして石材店がタッグを組んで開発されました。供養を知り尽くす三者が掲げる特徴が、“負担の軽減”です。

 偲墓の特徴の1つが「移動できる」こと。普段は、提携する寺で安置して供養してもらいますが、寺から寺へ移動させることも可能。例えば転勤で引っ越す時も、転居先から行きやすい寺に移して供養してもらうことができます。

もう1つの特徴は「明朗会計」。偲墓の購入費27万5000円の他に、寺の管理費用として毎月3300円。納骨や永代供養などの費用も含まれているので、追加料金は一切かかりません。さらに、必要な期間だけ利用できるシステムで、いつでも解約が可能。解約すると墓石は廃棄され、遺骨は永代供養墓へ。その際の埋葬費用も必要ありません。

 偲墓を開発した1人の三重県松阪市にある仏壇店「佛英堂(ぶつえいどう)」の5代目・野呂英旦さんは、お寺や石材店から年々減り続ける供養についての相談にのっているうちに、この仕組みを考えつきました。

野呂さん:
「供養してあげたい、でも遠方にいるとか、年を取ってきたからとか…。無理のない形で寺にもお布施をお支払いして、うちにも利益があって、利用者にも低額でご利用いただける仕組みを作りたかった」

いまや全世帯の9割以上が一人暮らしや核家族。少子高齢化が進むこの時代に、墓や仏壇の新たな所有は難しいと考える人が増えたと野呂さんは話します。そこで誕生したのが、関わる全ての人の負担が少ない供養の形でした。

■硬く丈夫な石で作られ壊しにくい…産廃業者も引き取りたがらない放置された墓石

 偲墓にはもう1つ、これまでの墓石にはない大きな特徴があります。

野呂さん:
「最後に永代供養墓にお骨を移した後、お寺で砕いて崩していただけるようになっている」

この墓石がハンマーで砕くことができるのには、あるワケがありました。

 三重県津市にある「浄誓寺(じょうせいじ)」は、300年以上の歴史を持つ真宗高田派の寺院です。この寺の住職・稲森栄政さんも偲墓を生み出したメンバーの1人で、稲森住職が長年頭を悩ませているのが、持ち主不明の墓石です。

稲森住職:
「もともとうちの檀家だった方々、多分。消息がわからない人たち。『墓じまい』してもらえればこうはならなかったけど、ほったらかしにされて…」

供養する人がいなくなり置き去りにされた墓石が寺の隅に積まれていました。仕方なく寺で供養をして処分をしようとしても、そもそも墓石は硬く丈夫な石でできているため機械でも砕きにくく…。産廃業者も引き取りたがらないため、多くが野ざらしに。

稲森住職:
「転勤イコール、ほったらかされる。墓のことは頭にない、どこにお墓があるか分からない。そもそも、法事に子供を連れてくる親御さんが減っている。もう大きく文化が変わってきている」

 1999年に6万7270件だった全国の「墓じまい」の件数は、2020年には12万490件と、20年でほぼ倍に。

特に愛知県の件数は、10倍近くになっているといいます。最後に壊すことが可能で再利用も視野に入れた偲墓は、放置される墓石の増加に一石を投じる仕組みでもあります。

■供養の仕組みが評価され「グッドデザイン賞」受賞…それぞれの事情に合わせて選べる一人用の墓石

 浄誓寺にはこの日、2021年に夫を亡くした女性がお参りに来ていました。この女性は、熟慮の末に偲墓を選んだといいます。

女性:
「(亡くなったのが)急だったので…。お互いの両親がお墓を持っていなくて。子供もいますけど負担にならないように。亡くなってしまったけど、思う気持ちは大切にしたい」

人の思いに寄り添い、それぞれの事情に合わせて選べる偲墓は、2021年に「グッドデザイン賞」を受賞。コンパクトなデザインだけでなく、これまでの供養の形を大きく変えた仕組みが評価されました。

野呂さん:
「先祖の墓を継ぐ時代じゃなく、人それぞれがお墓を選ぶ時代になってくる。これからも、どんどん改善を重ねていきたい」

家族の負担を減らしたいと開発された偲墓は、新しい供養の形になっていくかもしれません。