包丁など使わない料理に限定…障害者の社会進出を応援する「普通のカフェ」“福祉”謳わないオーナーの願い
2021年10月、名古屋市瑞穂区に、障がいがある若者たちの就労支援を目的としたカフェがオープンしました。店では、オーナーの思いに賛同した名店が監修した、こだわりのドリンクやランチがお値打ちに楽しめると、たくさんの人で賑わっています。
■地元の名店がメニューを監修…障がいを持つ若者たちの就労訓練のためのカフェ
名古屋市瑞穂区の名城線「堀田駅」から徒歩2分のところにある「カフェ magnet(マグネット)」は、2021年10月にオープンしました。店内は開放的な大きな窓があり、明るい雰囲気です。
【画像で見る】ケガ防ぐため包丁など使わない料理に限定…障がい者の社会進出を応援するカフェ
男性客:
「シンプルでオシャレ。ゆったりできる感じが好き」
女性客:
「落ち着く感じで、とてもいい」
別の女性客:
「素敵な空間になっていて、何回も足を運びたい」
淹れたての自家焙煎のコーヒーが人気の『ダブルトールカフェ』監修の「渋谷ブレンド」(500円)や…。
日本茶専門店『妙香園』監修の「抹茶オレ」(500円)…。
名古屋で20年前から紅茶の専門店として人気の『ラティス』監修の「フレイバーティー ライチ」(500円)など、ドリンクはすべて一杯500円です。
ランチは、昭和区で人気の老舗『比呂野』監修の「カレーランチセット」(1000円)や…。
醤油ベースのソースでボリューム満点の「大きな和風ハンバーグランチセット」(1000円)などを、1000円で楽しむことができます。
この店は一見普通のカフェに見えますが、実は発達障がいや知的障がいのある若者たちが、仕事の訓練をするためのカフェです。店を営むのは、竹内亜沙美さんです。
竹内さん:
「精神障がいがある方たちが社会に出て、就職を目指すための就労訓練のカフェ。コミュニケーション力をつけていきたいと思ったのでカフェに」
オーナーの竹内さんの思いに賛同した地元の名店が、無償でレシピを提供。調理指導までしてくれたといいます。その名店のメニューをお値打ちに楽しめます。
■キッチンスタッフがケガをしないように…メニューは全て包丁や直火を使わない料理に限定
このカフェには、お客さんにも、働く障がいがある人たちにも嬉しい様々な工夫があります。
男性スタッフ:
「お水とおしぼりお使い下さい。ご注文が決まりましたら、お伺いします。失礼いたしました」
この店では、18歳~24歳の障がいがある若者およそ15人が、ホールやキッチンスタッフとして働いています。
女性スタッフ:
「いろんな人と関わって、一緒にドリンクを作ったり、お客さんと会話をしながらオーダーとって…。お客さんから『ありがとう』と言ってもらえると嬉しい」
別の男性スタッフ:
「お客さんがたくさん入るときもオーダーがいっぱい入ってきて、ドリンクとか作るのが大変。がんばってます」
ホールを担当する人は胸に初心者マークを着けて、お客さんの出迎えに、オーダー取りからお会計までを行います。その仕事ぶりを、オーナーの竹内さんやブラウンのエプロンをつけたサポートスタッフが見守ることで運営をしています。
竹内さん:
「オープン当初は本当に大変でした。『いらっしゃいませ』と誘導してもらうこととか、お水が出てくることも知らない人が多かったので、そこからやりました」
小銭を扱うことが難しい人でも働けるように、ドリンクとデザートは500円、ランチは全て1000円に設定しました。
またキッチンスタッフのケガなどを防ぐために、全てのメニューは包丁や直火を使わなくても調理できるものに限定。
例えば、「クロッフルランチセット」(1000円)もその一つで、安全に調理ができ、見た目も華やかになるように考えられました。
竹内さん:
「野菜は、自分たちで切るのではなくカットしてある野菜を購入することで、ムラなく焼けるように。調理器で『6の火力で何分焼こうね』と、全て数字でわかりやすく」
■お客さんに一緒に育てて欲しい…初対面の人への接客で社会人としての自覚を身に付ける
竹内さんは、就労支援の場をなぜカフェにしたのでしょうか。
竹内さん:
「この先、健常の方たちと社会で働いていかなければならないのに、支援者と障がい者だけの空間って…。疑問に思ったので、カフェにしようと」
竹内さんは、色んなお客さんに来てもらい、一緒に育てて欲しいとカフェを選びました。いつも顔を合わせるサポートスタッフには甘えてしまう子も、初対面のお客さんを相手にすることで、社会人としての自覚が育つといいます。
また、健常者との架け橋になって欲しいという願いから、「就労支援」や「福祉」といったことは謳わずに、“一般のカフェ”として運営しています。
竹内さん:
「福祉の事業所が運営するカフェは、福祉がやっているってわかりやすいところが多い。福祉の看板ついているから『これくらいの商品でいい』『こういう接客をしてもいい』とならないためにも、普通のカフェとして運営していこうと」
こうした竹内さんの思いに賛同した名店が、メニューやレシピを提供。スタッフたちも無理なく仕事ができ、お客さんもお値打ちに名店の味を楽しめる、両者にプラス効果を持たせることで、お店も賑わい、障がいがある人たちの社会進出を応援する場にもなっています。
女性客:
「知らずに来たけど、そういう場があるのはすごくいい。皆さんに働ける機会があるのは」
男性客:
「一つの職場として成立するのであれば、広がってほしい」
竹内さん:
「お客様に愛を持っている、それぞれが。『こういう料理をお届けしたい』『また来ていただきたい』っていう誰かの役に立つことが自然にできるようになって、喜びになっています」
若者たちはここで働く中で、働く責任や金銭管理など、実際に働いてみないとわからないことが自然と身に付いていると竹内さんは話します。
■チラシの折り込みや通販商品の梱包など…人前が苦手な人は2階で内職の仕事
カフェの2階には、内職をする人たちの姿がありました。
竹内さん:
「『人前は苦手』『カフェやりたくない』という方は上(2階)で仕事を」
チラシの折り込みや通販商品の梱包、自社商品の紅茶のギフトセットなどを作っています。まだ人前に出る自信がない人や、カフェだけでなく色んな仕事をやりたい人たちはここで働いています。
働く男性:
「時にはちょっと難しいと感じるけど、けっこう楽しめている」
別の働く男性:
「将来は自分のお店を建てたい、(車の)カスタム専門のお店。そのために整備士の資格を取りたい」
■自立した人生を送ってほしい…障がいがある弟の存在がきっかけで就労支援を始めた竹内さん
竹内さんが障がいがある若者を支援するきっかけは、重度の知的障がいと身体障がいがある弟の存在でした。
竹内さん:
「小さい時から障がいがある子がいるのは普通の感覚で。教員採用試験を受けたときに、養護学校の先生になろうと」
養護学校の先生になった竹内さんですが、その後、様々な問題があることに気が付きました。
竹内さん:
「障害者年金を全員もらえると思っていたら、手帳があるだけではもらえなかったり…。国ってお金の保障してくれない場合もあるんだって」
十分な保障がされていない障がいのある人たちが就職し、自分で稼ぐことができるように…。竹内さんは、高校生のうちに就労訓練をしたり、インターンに連れて行ったりと、企業と社会が身近に感じられるような活動をしています。
健常者同様に可能な限り自立した人生を送ってほしい。その願いを形にしたのが、このカフェでした。
たくさんのお客さんと一緒に彼らを見守り、そして自分のやりたいことを見つけて巣立っていく…。竹内さんは、障がいがある人たちが、活躍できる社会になることを願っています。