岐阜県各務原市に、生まれつき左手の指がない中学生の野球選手がいます。小学3年で野球を始めた少年は、今ではエースと外野手の「二刀流」で活躍しています。

■「他の子と違うけど違うとは思っていない」…左手の指がないまま生まれた少年

 岐阜県各務原市の中学3年生・横山温大(はると)くん(14)は、生まれつき左手の指がありません。

【動画で見る】生まれつき左手の指なくても…エースで3番の野球少年「他の子と違うけど違うとは思ってない」

温大くん:
「他の子と違うけど、違うと自分では思っていない」

障害を乗り越えて、今ではチームの主力として活躍する野球少年です。

 温大くんについて、クラスメイトは…。

男子生徒:
「みんなが温大についていく。すごい温大は大きい存在。(弱気なところを見せることは)ないです」

別の男子生徒:
「小学校の頃から、(弱気なところを)全然感じさせなかった」

3人兄弟の末っ子として生まれた温大くん。

父の直樹さん:
「生まれてすぐに先生(医師)から呼ばれて、実はこういう風で(左手の指がない)と言われて…。ショックというか」

母の尚美さん:
「野球をやらせたいから、男の子がもう一人ほしいって…。指がない事を知って、真っ先に旦那には『野球できないね』と言ったと思う」

左手の指がないのは、先天性で原因はわかりません。

母の尚美さん:
「幼稚園の年中か年長くらいの時は、『小学校行ってもこのままなの?』って言った時がありました」

父の直樹さん:
「『小学校入ったらみんなと一緒の手になるんだよね』って言っていたので…」

■ブルペンで投げ込んだ後は外野の守備へ…ハンデを感じさせない「二刀流」で活躍

 温大くんは、野球をしていたお兄ちゃんとお姉ちゃんに憧れ、5歳で家の中でバッティング練習を始めました。

不安を抱えながらも、小学3年で地元のスポーツ少年団に入り、義手をつけてプレー。中学生になると先輩たちと一緒に試合に出るまでに成長しました。

温大くん:
「手が不自由だけど、それをハンデとせず、逆に武器として」

 現在は、ボーイズリーグ「江南ボーイズ」でエースを任されている温大くんは、ブルペンで快速球を投げ込んだ後、外野のノックに。投手と外野手の二刀流です。使っているグローブを見せてもらうと…。

温大くん:
「ピッチャーをやる時は普通に左手にはめてそのまま捕るけど、外野をやるときは左手だと掴めないので、右手で掴んで握り変えてやる」

現在は、義手を使っていません。ピッチャーの時は手首をマジックテープで固定する特注のグローブを左手に。

そして、外野では普通のグローブを右手につけ、捕球したら素早くグローブを外し右手で投げています。

温大くん:
「(グローブを)取ったりはめたりする時間があるので、最初は苦労しました」

 バッティングは、力強いスイングで、主軸の3番を任されています。期待される温大くんが、左バッターなのには、ある理由がありました。

温大くん:
「左打ちの方が右手で振りぬきやすい。左手は、球が当たるところで押し込むくらいで、あとは右手一本で」

激しい練習で手が痛くなることはないのでしょうか。

温大くん:
「最初の方は結構痛かったけど、今はもう慣れました」

ハンデを感じさせない「二刀流」です。

■野球が強い高校で活躍したい…自宅でもお父さんとバッティング練習

 この日、温大くんを訪ねてきたのは、バッテリーを組む同じ中学の川上洸晶(こうせい)くん。叔父さんは、元ドラゴンズの川上憲伸さんです。

チームの練習がない日は、週に2日ほど一緒に練習をしています。

洸晶くん:
「温大は狙っていない球が来ても対応できるので、それがすごい」

 川上くんが帰った後も、仕事終わりのお父さんとバッティング練習と、タオルを使ってシャドーピッチング。人一倍努力しなければと、黙々と腕を振ります。

そして、そんな温大くんのために、お母さんが夕食を準備していました。

母の尚美さん:
「気持ち多めに。サラダだと食べないので、カレーの中に(野菜を)混ぜて」

温大くん:
「いつも通りおいしい」

母の尚美さん:
「本人の希望は、(野球が)強い高校にいくことですけど、頑張ってもらいたいし、努力をして後悔しないようにやってもらいたい」

■全国大会の予選は初戦敗退も…目標は野球が強い高校でのレギュラー

 練習や試合の送り迎えをするのも、両親の役目です。3年生にとって最後の全国大会への予選が、間近に迫っていました。

温大くん:
「チームもいい感じにきているので、このままでいけば勝てると思うので、しっかり準備して試合に臨みたい」

 そして迎えた大会当日。温大くんの背番号は、エースの証“1番”です。先発投手、さらに3番バッターとして、試合に臨みます。

少し緊張した面持ちでマウンドにあがると、いきなり2者連続三振を奪います。

しかし2回、ピンチを背負うと、犠牲フライで先制点を許します。その後も、「甘い球がいってしまった」と、相手打線を抑えることができません。

バッターとしても2打数ノーヒット。結果を残すことが出来ず、チームも敗れ初戦敗退でした。

母の尚美さん:
「周りも同じように普通に接してくれて、生まれた時は心配したことが、今は心配なくやれているのでありがたい。少しでもハンデがハンデじゃなくなるように、普通にやれるようにこれからもやってもらいたい」

温大くん:
「負けてしまったけど、ハンデがあってもしっかり普通にみんなと一緒にできるので、高校でもしっかり野球を頑張って、レギュラーをつかめるようにしたい」

ハンデをハンデとしない。温大くんは、高校でも主力としての活躍を目指します。