7月10日は参院選の投開票日です。日本の「賃金」は30年間増えていないと言われています。年収のアップを実現しているIT企業を取材すると、参議院選挙で目が向けられていない日本の課題が見えてきました。

■原材料高騰でほとんど利益がなし…やむなく値上げの唐揚げ専門店「人件費追いついていない」

 愛知県岡崎市の唐揚げ専門店「六唐亭(ろくからてい)」。ご飯と唐揚げが3個も入った弁当が、なんと330円。

【動画で見る】参院選の「争点」に課題 ニッポンの“上がらない賃金”

“庶民のミカタ”の激安店ですが、6月30日、店に異変が…。

(リポート)
「店の看板の330円の文字が張り替えられています」

オーナーの藤原修司さん:
「かなり心苦しくはあるんですけど、50円値上げして380円にしたという感じですね。原料が高騰しているので、値上げせざるを得なかった」

異常な物価高で、鶏肉の価格はおよそ2倍に。小麦や油も値上がりし、ほとんど利益が無くなってしまったため、苦渋の値上げに踏み切りました。

店のスタッフ:
「今日からごめんなさい、お値段の方上がっちゃって…大丈夫ですかね」

男性客:
「努力されていると思いますので、やむを得ないところかなと…」

店の事情はお客さんも理解してくれますが、“値上げ”が客足にどう影響するかは不透明です。それは、社員の給料にも響いていました。

記者:
「給料は上がっていますか?」

店のスタッフ:
「基本的には、上がっていない…」

藤原さん:
「人件費は全く追いついていない状況です」

「賃上げ」は、夢のまた夢…。この苦しい現状は、飲食業界に限りません。

■原材料費が1.5倍、加工費・電気代も「倍」の町工場も…先進国や韓国にも差を付けられる日本の”平均賃金“

 岐阜県岐南町で、自動車部品などの金属加工を手掛ける「コーキ・エンジニアリング」は30年続く町工場で、7人の従業員が働いています。

従業員に“給料”について聞きました。

従業員の男性(49):
「(働き始めてから)12~13年です」

記者:
「この10年、給料は上がっていますか?」

従業員の男性(49):
「最初、お世話になったころは少し上げてもらったんですけど、そこからはそんな…。リーマン(ショック)あったりとか、そういうのがあってあまり変わってないですね」

別の従業員の男性(76):
「コストをなるべく下げるようにということで、賃金は上がるということはあまりなかった」

もう10年以上、賃上げはできていないといいます。

社長の伏屋勝彦さん:
「ほとんど上げられていないような状況ですね。12~13年前は100年に1度の大不況だって言われたんですけど、ものの10年くらいで、それ以上の経済不況になっていますので…」

「賃上げ」どころか、物価高が深刻な追い討ちをかけていました。

記者:
「これは何になるんでしょうか?」

伏屋さん:
「寸切りと言いまして、これを細かく切って、製品に入れ込むというものになるんですが…。鉄です。去年の11月が870円、(今年は)1300円になりまして、約1.5倍に上がっています」

加工用の金属の仕入れ値は、ロシアのウクライナ侵攻の影響などもあり、およそ1.5倍に。2022年3月には、金属の熱処理を委託する業者から価格の改定を通知する文書が届きました。

<業者から届いた文書>
「既に限度を超えております」

加工費がおよそ2倍に上がり、月に数十万円の負担増となりました。

伏屋さん:
「昼休みに全ての電源を切ろうということで1時間、電気を落とすことによって、ひと月どれくらいの電気料金が変わるか、試してやっています」

 つい最近まで月18万円ほどだった電気代も、今年には倍のおよそ35万円に上がる見込みです。一度止めてしまうと精度に誤差が出てしまう機械も、昼休みに止めていました。

従業員7人分の人件費は、月に200万円ほど。原材料や電気代などが数十万円単位で値上がりするなか、とても賃上げに繋げることはできません。

伏屋さん:
「ヨーロッパ、アメリカにしても給料、人件費は上がっている。日本というのは20年ほど、あまり(給料が)上がっていないんじゃないか」

日本と主な先進国の平均賃金の推移をみると、アメリカ、イギリスなどはこの30年間で軒並み上がっていますが、日本は1991年以降ほぼ横ばい。

2015年には韓国にも抜かれました。

■日本は「人への投資をずっとしてこなかった」…賃上げで人材確保とモチベーションアップを目指すIT企業

 上がらない、日本の賃金。そんな中、給料が増えている会社がありました。

執行役員の高野明彦さん:
「こちらラウンジです。基本的には休憩スペースですけど、社員がオンオフのメリハリを付けて働けるように…」

東京都中央区に本社を置くIT企業「メンバーズ」。企業のデジタルマーケティング支援などを行っています。

高野さん:
「お疲れさま」

執行役員の高野さんが声をかけたのは、入社5年目の女性社員。大手化粧品会社のデジタルマーケティング支援をしているといいます。

この女性社員は、入社してから年収ベースで140万円もアップ。この会社では、6年前から「賃上げ」を進めていて、2030年までに年収を1.6倍に引き上げる計画を掲げています。

女性社員:
「自分がきちんと見ていただけているというか、評価していただけているっていうところが、分かりやすい評価制度っていうところによる満足感っていうのが、すごく自分自身としては強いかなと思っています」

 企業が儲かっているから給料があがるのではないかと思うかもしれませんが、内情はちょっと違うようです。

高野さん:
「人に投資する、価値が高まる、僕らの商品・サービスの価値そのものが高まる。それによって会社の業績も伸ばしていける」

「賃上げ」で人材を確保し、さらにモチベーションを高めることで業績がアップし、より多くの人材が集まるようになったといいます。賃上げのプロジェクトの中心メンバーでもある高野さんは、日本の政治にこんな思いを抱いていました。

高野さん:
「(日本は今まで)人への投資をずっとしてこなかった。給料もセーブして、人材育成投資もあまりせず、それで利益を上げてきたことが非常にまずかったんだろうなと思っています。成長産業に向けた人への投資といったことが効果的なんだろうなっていうふうには思いますね」

「人への投資が足りない…」。この指摘は、日本経済が成長できない現状を的確に言い表しています。

■時価総額はトヨタの31位が最高…参院選で打ち出される政策は目先の対策ばかり 長期的成長戦略の重要性

 世界の企業の時価総額ランキングでは、1989年には上位10社のうち、7社を占めていた日本企業ですが、現在はゼロ。そのほとんどが、アップル、グーグル、アマゾンなどの巨大IT企業がとって代わりました。トヨタ自動車でさえも31位。日本はこの30年、世界をリードするような新しい産業を生み出せなかったのです。

自民党の岸田総裁(7月7日):
「様々な物価抑制策を用意する」

立憲民主党の泉代表(6月29日):
「小麦の価格を引き下げる」

共産党の志位委員長(6月23日):
「最低賃金を1500円に」

れいわ新選組の山本代表(6月28日):
「消費税は廃止しかないんです」

今回の参院選で大きな争点になっている「物価高」。それぞれの政党が目先の対策を打ち出していますが、長い目でみた経済の成長戦略については、目が向けられていません。

給料アップを進めるIT企業「メンバーズ」の高野さんは賃上げには、政治が長期的なビジョンを描くことが必要だと話します。

高野さん:
「日本企業が遅れていると言われていますけれども、人への投資をしていかないと、成長も分配もないだろうなって。日本経済ずっと停滞している中で、ただ給料増やせって言っても、それは難しいよねって…。成長戦略が何なのかというのが大事だと思うんです」

 未曾有の物価高のなか迎えた参院選。目先の対策だけでなく、日本の未来についてもしっかり考える必要がありそうです。

 参院選のマニフェストから抜粋した各政党の長期的な成長戦略がこちら。

 党首の街頭演説などでは長期的な成長戦略に関する発言は乏しく、議論は深まっていません。