愛知県名古屋市や三重県桑名市などで採用されている「スクールランチ」は、家庭の弁当作りの負担や栄養の観点などで、多くの人が使っています。ただ、料金の支払いが手間など課題もあります。スクールランチが始まった経緯や現状を調べました。

■名古屋市では「生徒が企画する」メニューも…規模の大きい自治体で採用されるスクールランチ

 スクールランチに明確な定義はありませんが、名古屋市の場合は「市立中学校の昼食として、管理栄養士が作った献立に沿って、民間会社が作ったもの」です。そして「スクールランチか、家から弁当を持参するか、選択できる制度」のことをいいます。

名古屋市の他には、横浜市・新潟市・舞鶴市など、全国でも大きな自治体で導入されています。

 名古屋市では現在、1食320円で食べられます。メニューは、「お弁当タイプ」の場合は毎日2種類から選ぶことができます。

【動画で見る】生徒からメニュー募集する企画も…『スクールランチ』誕生の経緯とその現状 名古屋で選ぶ中学生は“約半数”

おかずは衛生上の観点から冷まして提供されますが、ご飯は温められています。これらのメニューを教室で食べます。

また、学校には昼食専用の部屋「ランチルーム」というものがあり、概ね1学年が入れるスペースで、この日は1年生、別の日は2年生などと、交代制で利用します。

ここでは民間会社が作ったランチを再加熱し、ラーメンやスパゲッティなど温かいものが食べられるため人気です。

 スクールランチは、管理栄養士が作った献立に沿って民間業者が作りますが、生徒たちからメニューを募集する企画「こんなおかずがあったらいいな」も開催されています。

2022年は1500もの応募があり、11案が採用されました。 「免疫力アップうどん」や「カルシウムと鉄いっぱいシチュー」などアイデア満載です。

実際にスクールランチで出されたそうです。

■名古屋市では使用する割合50%…スクールランチのメリットと課題

 給食ではなく、選択制のスクールランチができた理由を専門家に聞きました。甲南大学経済学部の足立泰美(あだち・よしみ)教授によると、1954年に小学校での学校給食の普及を目指した学校給食法が制定され、2年後に中学校まで拡大しました。

先に制定された小学校は給食が広まりましたが、中学校にまで予算が回らず、給食実施にまで至らなかった地域が多いのではないかということです。

名古屋市立の中学校ではもともと牛乳のみを出す形でしたが、核家族化や働く女性が増えたことにより、保護者から「中学校でも給食を出してほしい」という声が高まりました。しかし、同時に「家庭からの弁当持参のままがいい」という意見もあり、今の選択制になったといいます。

平成5年(1993年)から試験的に開始し、現在はほぼ全校の110校で提供されています。スクールランチによって「家庭での弁当作りの負担を減らす」「栄養の整った食事を安く提供できる」「希望者だけ事前払いなので、給食費の滞納が起きない」といったメリットがあります。

スクールランチを選ぶ名古屋の中学生の割合は約50%で、意外と少ないとも思えますが、それには2つの理由があります。

まずは時間がかかることです。弁当タイプの場合は、受け渡し場所まで取りに行き、さらに箱を返さないといけません。昼食時間は20~25分程度で、その後の昼休みでも食べてよいことにはなっているそうですが、時間がもったいないと弁当を持参する生徒も多いといいます。

もうひとつの理由は、清算方法が面倒だということです。精算方法は以下の2つあります。

1.ランチが必要な日をマークシートでひと月分まとめて記入し、現金と一緒に学校内のポストに入れて申し込む。

2.プリペイドカードと現金を一緒に封筒に入れて学校のポストに入れ、業者がひとつずつチャージ。そのカードで3日前までに学校内にある機械で予約する。(※自分でチャージできない)

これが面倒だしてと、避ける生徒も多いといいます。またどちらの方法も、現金を生徒が持参しないとならないため、金銭の紛失などのトラブルが起きる可能性があります。

こうした不便さを何とかしようと、名古屋市議会本会議では9月16日、中学校のスクールランチに、パソコンやスマートフォンから予約しネット決済できるシステムを、2024年度にも導入すると表明しました。

■クラス全員が注文しているケースも…三重県桑名市が採用する便利なシステム

 三重県桑名市では、ネット決済などができるシステムを既に導入しています。2006年からスクールランチがスタートしていて、調理は弁当などを製造・販売する「オーケーズデリカ」が担っています。

午前9時半ごろに伺うと、すでにスクールランチを作っていました。ラインに乗って流れてくる弁当が、次々とできあがっていきます。

この工場では、食中毒や異物が入るなどの事故がないよう、中に入るためには手に傷はないかチェックしたり、何度も消毒を行うなど、衛生環境を徹底しています。

この日は、メンチカツとご飯がメインのものと、焼きそばとパンがメインの2種類が用意されました。

副菜には筑前煮や大豆サラダなど野菜もたっぷり使われていて、栄養バランスはバッチリで、値段は1食280円です。

 弁当を車に乗せ、市内7つの中学校に送られます。このスクールランチはWEBサイトで予約ができます。

スマホやパソコンでIDやパスワードを入力し、メニューを選ぶだけで予約完了です。1週間前まで予約を受け付けています。

料金はコンビニで使える払い込み用紙があり、それで支払うとシステムに反映され、チャージされます。そのチャージされた金額から支払うことができ、サイトでは残高を確認することもできます。

担当者:
「学校に現金をもって来なくてもいいので、そういったトラブルを防げるのが一番のメリットです」

このシステムを使って予約された情報を元に、オーケーズデリカは材料の発注から製造までを行うため、材料のロスも最小限に抑えられます。

 午前11時半、弁当が中学校に届きました。 クラスの生徒数人が代表して、届いた弁当を教室まで運びます。

取材したクラスでは、26人全員がスクールランチを注文していました。コロナ禍で黙食が薦められているため会話はありませんが、生徒たちはおいしそうに食べていました。

女子生徒:
「とてもおいしかったです。好きなものが選べるので、すごくいいと思います」

男子生徒:
「(好きなメニューは)鶏のから揚げとか。家から簡単に注文できるので便利だと思います」

別の男子生徒:
「うちは(親が)お店があるのでなかなか作れないので、とても助かっていると思います」

桑名市教育委員会の主幹:
「(スクールランチは)企業の調理場を使用して対応できるということで、初期投資を抑えられる。朝、弁当を作る対応がなくなって助かるとか、低価格で栄養が十分あるのでよかったという意見もあります」

「オーケーズデリカ」では、桑名市、四日市市、亀山市のスクールランチを製造していて、1日約5000食を作っています。桑名市のスクールランチ制度のある公立中学校では、約6割がスクールランチ注文しているということです。