部活でなくナゼ“道場”へ…『野球道場』に集う少年達の汗と笑顔の青春ドラマ 「試合に出るじゃなく上手に」
小中学生の野球少年たちが、ひたすら自分の技術を磨く練習の場『野球道場』は、学校の野球部でも少年野球チームでもない。彼らはなぜ、『道場』に集うのか。ボールを追いかける少年たちに思いを聞くと、“汗と笑顔”の人間ドラマがあった。
■部活ではなく『道場』を選んだ理由…「試合に勝つため」ではなく「個々の技術向上」を目指す
2022年8月。名古屋市名東区にある牧野ケ池緑地のグラウンドで汗を流す野球少年たち。ここは学校の野球部でも、少年野球チームでもない。それぞれが野球の「技術」を磨く“野球道場”だ。練習は午後3時から。月曜日を除き、小学3年から中学3年までの75人が参加している。
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『野球道場』は、部活やクラブチームとは、何が違うのか。
中学2年生(野球道場歴1年半):
「クラブチームだと、試合、試合、試合。練習がたまにしかなくて…。ここだとずっと練習なんで。高校に備えられる」
学校の部活動が試合に勝つための練習であるのに対し、“野球道場”は「個々の技術向上」が目的だという。
腰を落としゴロを取って投げる一連の動作に…。
瞬発力アップのトレーニング。
バッティング練習ではバットの芯に当てないと遠くに飛ばない「ソフトボール」を使う。ひたすら基礎練習を繰り返し、体に叩き込む。
コーチの竹内一仁(たけうち・かずひと 45)さんは、高校などでも野球を続けるには、基礎練習ができる「いまの時期が最も大事」と考えている。
竹内一仁さん:
「彼ら自身も試合をしたいとは思うんです。大会に出たいって思いもある子もいると思うんですけども、なかなか自分の練習というのは高校へ行くとできないものですから。基礎、基本であったり、体力面であったり、高校入学までにしっかりやっとかなくてはいけないという思いが僕はあるので…」
竹内さんは名古屋の野球の名門、享栄高校の出身。
野球部ではキャプテンを務めていた。
■野球チームで試合に出られず道場へ “次のステージ”を見据える子供たちも
午後4時。グラウンドの端でひたすら走り込んでいたのは、中学2年の川角剛聖(かわすみ・たけと)くん。道場歴は3年だ。
小学生の頃は地域の野球チームに所属していたが、ほとんど試合に出られず、“野球道場”の門を叩いた。
川角くん:
「自分にできなくて悔しいのもあったし、負けたら負けたで、負けたのにも悔しかったり」
Q勝った時は?
川角くん:
「勝った時も、出られて勝てた時なら楽しかったですけど、出られなくて勝った時はなんかむなしい気持ち」
野球のポジションは、9つだけ。部活やクラブチームでは、出場機会に恵まれない選手もいる。“野球道場”には練習の場を求める子や、技術を磨いて「次のステージ」を見据える子たちも集まる。
悔しい思いをした川角くんの目標は?
川角くん:
「甲子園…まぁできたら」
■「楽しくやっていればもっと上手くなったんじゃないか」…プロ野球選手を父に持つコーチが活かす経験
基礎体力アップのため、走り込みも大事にする“野球道場”。午後5時、ひとり、みんなから少し遅れをとっている子がいた。道場歴は3年の金本諭樹(かねもと・つぐき 小4)くんだ。走るのが得意ではないという金本くん。野球が楽しいかどうか聞いてみた。
金本くん:
「うーん。わかりません」
野球を始めたのは「家族全員が野球をやっているので…」という。
「野球一家」に生まれ、自分も始めた金本くん。まだ心からは「楽しい」とは言えないようだが、なんとか続けている。
コーチの竹内さんも少年時代は同じ気持ちだったという。
竹内さん:
「父がプロ野球選手だったものですから。まぁ父も厳しかったので、野球をやらなくちゃいけないっていうんですかね…」
竹内さんの父・正人(まさと)さんは、ドラゴンズなどで活躍した元プロ野球選手。
プロの選手だったこともあり、父の指導は厳しかったという。
竹内さん:
「自分が楽しくやれていれば、もっと上手くなったんじゃないかとか。厳しく指導したりとか、怒ったり叱ったりというのはなるべく控えて…。言いたくなる時もあるんですけど、なるべくそうでないやり方で、子供たちとは向き合おうと思っています」
■「基礎を積んでいたから戦えた」…夏休みはOBが訪れコーチすることも
夏休みの“野球道場”には、“OB”も訪れる。5年前に“道場”を卒業したOBで、大学2年の阪野倫(ばんの・りん)さんが、竹内さんと一緒に子供たちのコーチをしていた。
阪野さんは、高校野球を経て大学でも野球を続けている。道場歴は12年だ。
阪野倫さん:
「高校行ったら、試合が毎週土日、練習試合とか公式戦が入ってくると思うんですけど、基礎を積んでいたので、しっかりその舞台で戦えたのかなと思います」
夏休みを利用し、後輩と汗を流していた。
■試合に出られず親子で涙した日も…仲間を引っ張る中学3年生「先を見据えることができた」
午後7時。道場歴5年で、中学3年の日比藤吉郎(ひび・とうきちろう 中3)くんが、大声で仲間を引っ張っていた。
日比くんも道場に来る前には辛い思いをしていた。練習を見守っていた母親に、道場へ辿りつくまでの経緯を聞いた。
日比くんの母:
「全然出られなかったんですね。毎週『やめる?』っていうので2人で泣いて、2年も3年もずっとそれでやっていて…。なんのためにやっているのかわからなくて。『え、1日、ボールに触ってないよね、1回も』というような日があって。見ている親としては辛かったですね。でもここに来たら、試合っていうのもないから、ずっと練習させてもらえるから、幸せかなって」
小学生の時は全く試合に出ることができず、このままでいいのかを親子で話し合い、5年前にこの“道場”へ。野球ができない悔し涙を流した少年は、いまは立派に75人の選手を引っ張っている。
幸子さん:
「もうボールはずっと触れるし、ずっと何かをさせてくれるというか。やっぱり(野球を)やめないでよかったなって」
日比くん:
「ここでは『試合に出る』じゃなくて、まず『うまくなる』っていう感じで、だんだん自分も『出る』っていう焦りよりも、うまくなりたいって気持ちの方が高くなって、先を見据えることができた」
この日は日比くんの15歳の誕生日。2023年は春から高校生だ。道場の仲間が、祝ってくれた。
日比くん:
「高校へ行く年なので、結果を残しつつ、体に気を付けて頑張っていきたいなと思います」
道場で野球の腕を磨いた日比くん、勝負は高校野球の舞台で。
■「社会人野球」「誰にも打たれない投手」「プロ野球選手に“一応”…」それぞれの夢へ頑張る同乗の少年たち
道場で汗を流す野球少年たちに“将来の夢”を聞いてみた。
小学6年(道場歴5年):
「トヨタとかで社会人野球、目指したりしています」
中学3年(道場歴7年):
「誰にも打たれないようなピッチャーになって、有名になることです」
金本論樹くん(道場歴3年):
「プロ野球選手に“一応”なりたいです」
野球一家の少年は夢に少し控えめだったが、この道場にはそれぞれが夢に向かって“いま”を頑張る、青春の1ページがあった。