愛知県一宮市に2022年7月にオープンした「やばい魚屋さん」は、鮮魚だけでなくランチやお総菜も扱っていて人気だ。子供たちからの依頼があれば、自由研究の手伝いで“魚の解体ショー”まで引き受けてくれるユニークな店の1日に密着した。

■市場のプロも一目置く“目利き” ヒラメの骨やアカヤガラなど掘り出し物を仕入れ

 愛知県一宮市の「やばい魚屋さん」。

【動画で見る】子供の自由研究のため“解体ショー”まで…『やばい魚屋さん』奇抜な店名に込めた想い

店主の河合鯨(かわい・いさな)さん(29)が、7月にオープンした店だ。名前からしてインパクトがある店だ。

やばい魚屋さんの店主・河合鯨さん:
「とりあえず奇抜な名前にしようと…」

 8月20日早朝、名古屋市中村区の柳橋中央市場に河合さんの姿があった。

河合さんは、直接自分の目で見て買い付けるのを毎朝のルーティンにしている。

河合さん:
「カネヒロ水産のいいところは、いろんな魚種を揃えるところですね。珍しい魚とか置いてたり」

大きな魚(ボラ)を手にした河合さん。この後、さっそく“やばい”行動に。

河合さん:
「今からちょっとさばきます」

なんとエプロンを借りて、その場で魚のウロコを取り始めた。

河合さん:
「勉強も兼ねて『自分でやってみろ』ってお店の方に言っていただいて、自分で買う魚は自分でやる」

普通は買った魚を仲卸の店がさばいてくれるが、河合さんは勉強のためにと自らの手でさばき始めた。

河合さん:
「今、ちょうどボラはシーズンなんで、すごく脂がのってますし、カラスミ(卵)を取った後の身はお値打ちに売ってて、自分はそういうのを使うようにしていますね」

続いて手にしたのは細長い魚だ。

河合さん:
「アカヤガラっていう魚ですね。お刺身でもいけますし、揚げ物とか美味しくなりますね」

こうした魚の選び方に仲卸の店員も感心していた。

仲卸の店員:
「魚のことが好きだからさ。ウチらが想像つかないものを上手に買って、上手に値段交渉して…」

29歳にして、市場のプロも一目置く“目利き”だ。

そして河合さんは、また変わったものを持ってきた。

河合さん:
「これはダシに使わさせてもらうんですけど」

ヒラメの骨だ。いいダシが出るという。

どうやら今日も、掘り出し物をたくさん見つけたようだ。

■「店名にふさわしいことをしないと…」普段はみられない魚を揃える

 午前8時、一宮市の店に戻ったところで、さっそく準備に取りかかる。

河合さん:
「これが大蛇とよばれる大きなハモですね。今日のは2.3キロありました」

珍しい魚を優先的にショーケースに飾っていく。

河合さん:
「店名にふさわしいことをしないといけないと思っていて、普段、目にすることができないものを揃えて出そうと」

 もちろん、変わった魚だけではない。この日用意した刺し盛は、カツオやサワラ、アジの乗った「お造り5種盛り」(1500円)。白身の高級魚マゴチや、水揚げ量の少ないイチミダイは、他ではなかなかお目にかかれない。

市場で仕入れてきたボラは、どうするのか。

河合さん:
「むちゃくちゃ脂が乗ってるんですよ、今のボラ。全部脂なんです、この白いのが。僕が初めて買って食べた時、ブリに近いなと思ったんですね」

塩こしょうで下味をつけ、てんぷら粉を付けて揚げた。これをポテトフライと合わせると…。テイクアウト用の「フィッシュ&チップス」(700円)に。お総菜も作っている。

午前10時にオープンすると、さっそく常連ができたてのフィッシュ&チップスを買いに来た。

女性客:
「魚料理のテイクアウトってなかなか無いですよね。どうしてもお肉になっちゃうんで、魚料理のテイクアウトできるってちょっとうれしい」

■珍しい魚が並ぶ海鮮丼や「究極の魚介ダシ」のカレー ランチは自信のメニューばかり

 店を開けたら今度はランチの準備にとりかかる。

河合さん:
「この地域の人は甘辛いのが好きだということで、ドロッとした甘さを再現しようと思って、ザラメとハチミツを加えているのがポイントになります」

この日のメインは、地魚の煮付けだ。

 ランチタイムが始まると、「海鮮丼」のオーダーが入った。市場で仕入れたあの細長いアカヤガラのお刺身に、希少なイチミダイ、アジなど10種類の鮮魚を丼に並べ、自家製の甘めの醤油だれを回しかければ完成だ。

河合さん:
「こちらからサワラですね、皮目炙ってあります。スズキ、アカヤガラが二切れありまして、アジ、マゴチ、イチミダイとなります」

その名も「自信がある日しかやらない海鮮丼」(1500円)。

男性客:
「白身がすごく美味しいです。ひとつひとつ、味が違うのがわかりますね」

別の男性客:
「たまに珍しい魚も食べられるんで、面白くて美味しいです、とっても」

 また、珍しいメニューとして、究極の魚介ダシを使ったカレーもあった。市場で買った「ヒラメの骨」に…。

河合さん:
「これウツボです。身は取ったんですけどヒレと頭と骨は残ってるんで、これがすごくいいダシが出るので」

魚のアラをふんだんに入れて炊き込んだ究極の魚介ダシ。

これをベースに、トマトソースやオリジナルブレンドのカレーペースト、さらにココナッツミルクを入れる。旨味がギュッと詰まった魚介ダシは、ココナッツミルクやトマトとも相性バッチリだ。思わず笑みがこぼれるでき栄えになった。

「究極の魚介ダシを使ったココナッツミルクとトマトのカレー」(1000円)。

■「魚を知ってもらう機会に」…魚を解体し子供の“自由研究”の手伝いも

 さらに河合さん、レストラン営業の合間を縫って、子供たちの依頼にも応えていた。男の子の孫2人を連れた女性が店にやってきたが、買い物に来たわけではない。

男の子:
「夏休みに、魚の解剖をしたいと思ったので来ました」

夏休みの自由研究のため、事前に予約したお刺身をさばきながら、魚の仕組みを学んでいた。

河合さん:
「最初、お父さんが1人でご来店されて、実は子供の自由研究でこういうのしたいんです…って言われて、ここでできますよってことで…」

河合さん:
「これが胃ですね。これ肝臓です。これが心臓」

男の子:
「小っちゃ」

子供たちは初めて見る器官に興味津々だ。しっかりとカメラに収めていた。

男の子:
「いろんな形していて、意外でした」

解剖したメバルは、刺身にして食べるため「お持ち帰り」にした。

河合さん:
「なかなか(魚を)知ってもらえる機会がないですし、そういうのに価値を持ってもらって、お店にご来店していただければうれしいですね」

■「これやばいね」と言ってもらえる店に…店名に込められた思い

 夕方になると、晩御飯のおかずを買い求めに来る客が増えてくる。迷っている客には、今日イチオシの魚を盛り合わせ…。

河合さん:
「イチミダイという、本当に今の時期だけなんですけど、これ、本当に自信を持ってオススメできるタイなので、盛らさせてもらいます」

女性客:
「おまかせで作っていただけるとうれしいというか…」

河合さん:
「ありがとうございます。またお願いします」

魚が大好きな若者が始めた「やばい魚屋さん」。「奇抜な名前に…」と言っていた店名の「やばい」には、こんな思いも込められていた。

河合さん:
「自分が料理人時代に魚の仕入れを担当していて、それが一番楽しい仕事だったんですね。面白いことがたくさんあったので、それを伝えて『これやばいね』って言ってもらえるような、そんな魚屋さんにしていこうと思います」