58人が犠牲となり、今も5人の行方がわかっていない8年前の御嶽山の噴火について、遺族が起こした裁判は、予兆があったのに入山規制をしなかった国の違法性は認めたものの、遺族側が敗訴する異例の判決となりした。「冷たい判決」への遺族の想いを聞きました。

■生きていればもうすぐ19歳…愛娘を奪われた父の思いと「憤り」

 愛知県豊田市の長山幸嗣(ながやま・こうじ)さん(52)。

【画像で見る】御嶽山噴火の予兆あったのに入山規制せず…原告側が敗訴 異例の「冷たい判決」の深層

9月27日、御嶽山のふもとで行われた追悼式で、花をそなえ手を合わせた。

長山幸嗣さん:
「8年経とうが何年経とうが、気持ちとか思いは一緒だと思います。いつも、思わない日はないですよね。何かしらで娘のことは思ってしまうところはあるので…」

長山さんの次女・照利(あかり)さん、当時11歳。

あの日、友人と一緒に山頂付近で噴火に遭い、1週間後に遺体で見つかった。

長山照利さん(作文を読む):
「『将来の夢』4年、長山照利。私の将来の夢は、医者になって外国へ行き、病院に行きたくてもまずしいため行くことのできない人たちのために、患者さんをみてあげることです」

噴火によって、わずか11歳にして絶たれた“医者になる”という夢。

長山さん:
「今生きていればもう19歳くらいですよね、8年なんで。照利はほんと、友達のためとか誰かのために一生懸命になるような子だったので。『医学の道とか行きたい』って言って、医大に行きたいなんて言われて、『ちょっとお金どうする?』とかそういう話になったりしていたかもしれないですね」

 2014年の噴火から8年が経った今も、父・幸嗣さんの胸には、愛娘を奪った山への思いと、ある“憤り”がある。

長山さん:
「(御岳山噴火災害は)人的な要素は本当にたくさんあると思うんですよね。とにかく(噴火警戒レベル)2にしなきゃダメだったんですよ。(レベル)2にすれば絶対、誰も亡くなる人はいなかったと思うんですよ」

■国の判断は「違法」としながら敗訴 原告側「到底納得できない」

「レベル2にしなければいけなかった」その意味とは…。

噴火から3年後の2017年、長山さんなど遺族は国と長野県を相手取って、損害賠償を求める訴訟を起こした。裁判の争点は「噴火警戒レベルを引き上げなかった国の責任」。

実は噴火があった9月、御嶽山ではいくつもの前兆が起きていた。噴火の約25日前から、火山性地震が累計で329回発生。直近の月と比べても、明らかに注目すべき変化だった。

中でも、9月10日・11日は、2日続けて「1日50回以上」の火山性地震が発生。

これは5段階ある御嶽山の噴火警戒レベルを「1・平常(当時)」から「火口周辺規制」を表す「2」へ引き上げる指標だった。

加えて噴火の2日前には、山体膨張を示すわずかな地殻変動の可能性も指摘された。

しかし、気象庁はこれをわずか20分ほどの検討で「レベル引き上げの必要なし」と結論。

2022年7月13日、長野地裁松本支部の判決も、「噴火警戒レベルをレベル2に引き上げず、漫然とレベル1のまま据え置き、噴火警報を発表しなかった火山課長の判断は著しく合理性に欠けるものとして、適用上違法である」と、レベルを据え置いた気象庁の判断を“違法”としながらも、長山さんら原告の請求は棄却された。

立ち入り規制などには時間がかかり、仮にレベルを引き上げていたとしても「被害が防げた」と認めるのは難しい。だから原告側の「棄却」とした。

判決後の原告側弁護士会見:
「(判決が)100%こちらの言い分を認めておきながら、予想もしないようなことで負けたというんじゃ、到底納得できないと思うんです」

長山さん(会見):
「非常に私個人としては残念な結果だったなということは思います」

長山さん:
「腑に落ちないっていうかな…。国が悪いんだけど、あなたたちの賠償はできないよって。“冷たい”んですよね、国とかっていうのは…」

遺族にとって、“冷たい”判決。噴火は予知できなかったのか。

■16日前には専門家が気象庁に「噴火の可能性」をメールも気象庁は噴火警戒レベルを変えず

 当時、噴火予知連絡会のメンバーだった名古屋大学の山岡耕春(やまおか・こうしゅん)教授は、噴火の16日前、気象庁にある「メール」を送っていた。

名古屋大学の山岡耕春教授:
「当然、低周波地震は起きる。起きて噴火に向かうだろうなと思っていた。“地震があって、低周波地震があって、噴火ですよ”と言っているわけだから。それは結果的に正しかったんですよ」

9月10日・11日と、2日続けて50回を超える火山性地震が発生。この時点で山岡教授は、気象庁にメールで噴火の可能性を伝えた。さらに噴火の3日前、山岡教授が危惧した「低周波地震」も2回発生。

Q.噴火3日前の低周波地震の際に、火山課と議論や意見交換は?

山岡教授:
「してない、それはしてないです。おそらく気象庁は、それほど活動が活発だと思ってなかったんですよね。レベルの上げ下げは基本行政の責任で行うものなので、そこに科学的判断というか、研究者が入り込むっていうのはなかなか難しいところがあるんです」

そして2014年9月27日午前11時52分、御嶽山は噴火した。

■「レベル2に上げていてくれれば…」 遺族は東京高裁に控訴

 2022年夏、遺族らが行った慰霊登山。山に登った遺族が口々に話したのは…。

遺族の男性:
「特に今年(2022年)はね、裁判の一審の判決が出ましたんで…」

遺族の女性:
「裁判は途中ですので、また結果はね、最後勝って報告したいと思います」

長山さんのスマホに今も残るのは、照利さんの面影…。

長山さん:
「(画像を見せながら)これはね、正月だね。うちの奥さんの実家の宮崎に行って。照利が、これ噴火の前の年だと思うんで、多分4年生くらいの時の。いっぱいあるよね、写真って」

長山さんは他の遺族らとともに、2022年7月末、東京高裁に控訴した。

長山さん:
「レベル2に上げていてくれれば、誰も犠牲にならずに済んだという思いはいつもあります。控訴したからには、もっと原因を追究して、はっきりさせるところをはっきりしていただいて、責任を取っていただけるところは取っていただきたい」

御嶽山の噴火以降、気象庁の噴火警戒レベルの基準が変更されている。以前は「1日50回以上の火山性地震観測」や「山体膨張を示す地殻変動」などの「指標」に加え、最終的には気象庁の「総合的判断」で決定していた。

しかし、現在は総合的判断をやめ、基準を公開して透明性を確保している。より科学的なデータを重視した形だ。