自分の蔵書を無料で貸出…図書館に毎月2千円払う「一箱本棚オーナー制度」市民がつくる新たな図書館のカタチ
本好きの市民が運営する“民営”の小さな図書館が全国で増えている。その秘密は「お金を払って本を貸す」不思議な仕組みにあった。
■本を通じたゆるやかなつながり? 月2000円払って本を貸す「一箱本棚オーナー制度」
愛知県刈谷市の古い建物。
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古い建物の2階に上がると、そこは小さな「図書館」だ。「クマシカ図書館」と名付けられた“民営”の図書室で、2021年夏にオープンした。
子供たちやその親、大学生も。静かに本を読んだり、おしゃべりに花を咲かせたりしている。
男の子:
「いろんな本が置いてあって、すぐ近くだし来やすい。途中まで読んだら借りて帰る」
子供連れの母親:
「市の図書館は本を見るだけで、スタッフの人と話したりとかはないので…ちょっとほっとするというか、疲れたときに」
市や県の図書館とは大分、雰囲気が違う、手作り感があふれた居心地のよい空間。本棚はタテヨコ30~40センチほどに区切られている。
本棚には東野圭吾さんの小説に…。
星についての本ばかりの棚もあれば…。
ここは大学の先生おすすめの本?バラバラというか、個性的というか…。
実はこの本棚には、運営の秘密があった。
クマシカ図書館の石田芳加館長:
「(本棚の)1箱、毎月2000円お支払いいただいて借りていただいています。自分のお持ちになっている本を入れていただいて、無料で貸し出すというシステムになっています」
この棚、区切られた「ひと箱」ごとに「オーナー」がいて、毎月2000円を払うと自分のおすすめの本を自由に並べることができるという。
「一箱本棚オーナー制度」と呼ぶこの仕組み。このクマシカ図書館では、開館から1年ですでに20人以上の「オーナー」がいて、月々の棚代を図書館の家賃に充てているという。
わざわざお金を払って、自分の本をタダで貸すのは、どんな人なのだろうか?
本棚オーナーの女性:
「子供が野球をしていたので、(開催中の)甲子園にちなんでブラバンの本だったりとか…。共感して『これ面白いよね』とか言ってくださる人がいるのは楽しいなと思って」
このオーナーの女性は、季節のイベントに合わせて本を入れ替えるこだわりようだ。棚にはノートを1冊置いて、本を借りてくれた人との交流に使っている。
本棚オーナーの女性:
「自分の本どうこうに2000円出しているっていう感じはなくて、こういう場所でみなさんがやっていることに共感して仲間に入れてもらおうかなという感じです」
本を通じた、ゆるやかなつながりが魅力なのだろうか。
■感動した作品の共有が嬉しい…図書館の運営に関わるようになったオーナーも
刈谷市内に住む、大浦智香(おおうら・ともか)さんも本棚オーナーの一人だ。短大で保育を学んでいたときからの絵本好きで、自分が感動した作品をほかの人にも見てもらえるのが嬉しいという。
本棚オーナーの大浦智香さん:
「(英国の作家)ブライアン・ワイルドスミスさんは、すごくすきな絵本作家さんで…。どきどきしながら、特別な場所づくりをやらせてもらえているという感じですかね」
いま、人に勧めたい本を聞いてみた。
大浦さん:
「まずこれかな、『空の絵本』。天気だな、と思ったら雲行きが変わってきて…」
手に取ったのは、一日の天気の移り変わりを美しく描いた絵本だ。さらに、戦争が続くウクライナの注目作家の本も取り出して、新しく図書館に並べることにした。
大浦さんは図書館の運営にもかかわるようになり、連日足を運ぶようになったという。
大浦さん:
「本を並べているときに、たまたま『私も読んだことある』とか、『この部分がよかったですよね』とか…。ここで本棚のオーナーになれなかったら、そういう場面って生まれなかったことだと思うので、うれしい瞬間でした」
■「作りたいと思う人沢山いるんじゃないか」…モデルとなったのは静岡県焼津市の図書館
思いが詰まった「一箱」が並ぶ、手作り図書館。モデルとなったのが、静岡県焼津市で、2020年3月から運営を続ける「みんなの図書館さんかく」だ。
刈谷の図書館と同じ月2000円で貸し出す「一箱本棚」は、壁一面に60棚。
キャンセル待ちが出るほどの人気だ。館長の土肥潤也(どひ・じゅんや)さんが、「一箱本棚オーナー制度」の発案者。
みんなの図書館さんかく館長の土肥潤也さん:
「僕自身が図書館を自分でつくってみたかった、というのが根本にあって…」
NPOを立ち上げるなどして、全国で若者が参加する街づくりに取り組んできた土肥さん。本好きで、シャッターが目立つようになった商店街に、市民の交流の拠点になる「図書館」をつくりたいと考えた。
土肥さん:
「市民がちょっとずつお金を出したりとか、力を出し合うことで、一緒につくっていく公共スペースを実現することができないかと。運営していくときに経費をどうやって捻出しようかなと考えた末に、同じように図書館作りたいと思う人はきっと世の中にたくさんいるんじゃないかと。それをちょっとずつシェアするシェア図書館にしてみたらどうかと思いついたのが最初ですね」
人口減少の時代。税金に頼らず、自分たちでつくる「公共」図書館ができないか。
そこで考えたのが、本棚を貸し出す「オーナー制度」。これが、本好きの市民の心をつかんで月2000円を60棚。これで、図書館の家賃・光熱費をほぼ賄えるようになった。
一部のオーナーは自主的に店番まで担当しているという。運営の「手段」だった「一箱本棚」に、個性あふれる魅力的な本が集まると、それが地域の人たちを引き寄せる好循環が生まれた。
本棚オーナー(68):
「最初は僕も『2000円払って?』って思ったんですけど、やってみたら自分の場所を持てる、そこに自分の好きな本をおける自由、ここに来る人たちといろんな話ができるものですから、なかなか知り合えない人とたくさん知り合えて本の話ができる。そこが一番のメリットなんじゃないかな」
この「さんかく」の成功に全国が注目。自分たちも作りたいという声が次々あがって、刈谷の「クマシカ図書館」も含め、わずか2年余りで40か所近く(準備中含む)にまで広がった。(2022年9月5日時点)
土肥さん:
「みなさんこういった場を求めていたのかなと思っています。そこに行く理由がなくても寄れたりだとか、自然と人と出会えたりだとか、コロナ禍だからより求められるようになったのかなって感じます」
市民がみんなでつくる新しい図書館。あなたの町にも広がるかもしれない。