”憎い山”それでも「忘れないで」…8年前の御嶽山噴火で息子失った父親 麓の子供達との間に生まれた“絆”
63人が犠牲となった御嶽山噴火から8年が経ち、噴火で息子を失った男性が、麓の子供たちと御嶽山に登った。噴火から生まれた遺族と子供たちの絆…。そこには、子供たちに伝えたい思いがあった。
■息子とその恋人を奪った御嶽山噴火…「登れても登りたくない」と語っていた父親
愛知県一宮市の所清和(ところ・きよかず 60)さん。
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息子・祐樹(ゆうき 当時26)さんと、恋人の丹羽由紀(にわ・ゆき 当時24)さんは、8年前の御嶽山の噴火で命を落とした。
「ヒマワリのような子だった」。由紀さんと、息子の祐樹さんは結婚を前提に交際していた。
所さんの妻・喜代美さん:
「母親になる、父親になる姿は見たかった、親はね、それだけですね」
喜代美さん:
「祐樹や由紀ちゃんたちもそういう人生が普通だったらあった」
絶望しか感じなかったあの日。息子が死ななければならなかった理由を探し、命を落とした場所にも行けず。
所さん:
「御嶽山が憎い。憎くないと言えばウソになりますけど。私としては、気持ちはいくら登れても、登りたくないですね」
息子たちが、山で命を落としてから8年。所さん夫婦は、還暦を迎えた。その間に、所さんには、地元の子供たちとの間にかけがえのない“繋がり”ができた。
■毎年子供たちから届く“ひまわりの手紙”…講演会きっかけに生まれた小学生との繋がり
きっかけは3年前の2019年、山の麓にある三岳小学校で開いた講演会。御嶽山への入り交じる感情に毎日押しつぶされそうな中、「笑顔」と出会った。
所さん(講演会で):
「噴火ってみなさん知っていますか、御嶽山の噴火。噴火ってどういうことでしょう。噴石が飛んできたのが当たって破れて入った穴です」
噴火のことを知ってほしいと、所さん自身が校長にお願いして実現したこの講演会。当時、小学2年生や3年生で、まだ噴火のことをよく知らなかった子供たちに、恐ろしさを伝えた。
この訪問をきっかけに運動会に参加したり、一緒に運動したりと繋がりを深めていった。
所さん:
「言葉では繋がっているという、そんな簡単な言葉じゃなく、ちょっと言葉わからないんですけど…。“赤い糸”で結ばれているような感じ。やっぱり御嶽山のことを語り継いでほしい。知らん顔されるのが一番辛いなって」
遺品が飾られている祐樹さんの部屋。
毎年、子供達から届く手紙も、この部屋で大切に保管されている。
どの手紙にも描かれているのは、ひまわり。
所さん:
「1人ずつ、手紙にひまわりがあって、同じやつ一個もないですよね。4年生の頃の字からだいぶ成長しているなって。時が流れて、子供たちが成長しているんだなっていうのがすごく分かる」
■遺族「御嶽山は美しくてきれいな山」…子供たちとの登山後には「火山であることを忘れないで」
所さん:
「子供たちがどういった反応してくれるかなって。だって、(コロナ禍で)ずっと会ってないから」
8月26日、待ちに待った、地元の子供たちとの登山が行われた。
連日、雨が続いていたが、この日だけは止んだ。
女の子:
「所さん来てくれるってことで、めっちゃ楽しみでした」
男の子:
「僕たちにとっては、大事な人」
所さん:
「しっかりしてるね、可愛い、ほんとに可愛い」
標高2470メートルにある山小屋へ。所さんは少し離れた最後尾で、子供たちを見守りながら登った。
所さん:
「本当はもっとワイワイ喋りたいし。コロナもあるしね。マスク外してるもんで、もし万が一ということもあるし。一緒に行きたいよ、本当は」
子供たちにとっては、御嶽山は、きれいで、美しくて、大好きな山。
女の子:
「きれいな山。身近な山」
男の子:
「(御嶽山は)シンボル。三岳とかのシンボル。かっこいい」
所さん:
「しおりちゃんどうぞ。梅干し」
男の子:
「梅干しうま」
女の子:
「足が痛い」
Q所さんに背負ってもらったら?
所さん:
「私が背負ってもらう」
女の子:
「もう無理だ、あはは」
登山開始から1時間半、山小屋のある8合目のゴール地点に到着した。
女の子:
「いつもより楽しい」
Q所さんはどういう存在?
女の子:
「すごい御嶽山のことを思ってくれている人」
男の子:
「(中学校で)部活をなにやるとかいう感じに、(所さんと)話が盛り上がった。バレーかバスケでいま迷い中。『頑張って』と声をかけてくれました」
所さん:
「一緒に歩けなかったというのが…わかっていたけど。でも、ここでこういう色んな話できたし…」
所さん(子供たちの前で):
「今日は皆さんありがとうございました。今の6年生は2年ぶりかな。皆さんの成長にびっくりしています、ちゃんと成長しているんだなって。皆さん御嶽山好きですか?御嶽山はほんと美しくて、きれいな山です」
所さん(子供たちの前で):
「これからも、火山であることを忘れないで御嶽山に登ってください」
■繋がり続く絆…子供たちが通う学校ではひまわりの栽培や写真など飾ったコーナーも
子供たちが通う、三岳小学校。
校庭では、所さんが大好きなひまわりを育てられている。
男の子:
「所さんの気持ちも考えながら植えてる」
この花から回収した種は来年、後輩の子供たちが育てることになった。
担任の教師:
「ここは所さんコーナーです。教室整理するときに、ここは所さんコーナーにしようってみんなで考えて作りました。授業で使う黒板と、いつも見えるようにこの位置にしたんだと思います」
黒板のすぐ横の、「所さんコーナー」。もらった折り鶴や、思い出の写真が飾られている。
男の子:
「教室入ってくる時、出てくる時に、いつも見えるっていうのがあるし、忘れたくないっていうのもあるのでここにしました」
所さん:
「(亡くなった)2人の名前じゃなくて、噴火自体を忘れてほしくない。私はそう思ってやれることをやっている。それが思わず、三岳(小学校)の子たちとは不思議な縁で、すごいそれ以上の嬉しさを頂いている。不幸の中でも、やっぱりそうやって…。今の受けたあれ(経験)は絶対忘れないと思うんですよ。たとえ大きくなっても成人になっても、どこか行っても戻ってきたときに思い出してくれるんじゃないかって」
噴火から8年、想いは繋がっている。
2022年9月27日放送