“限界集落”に話題スポットが次々…仕掛け人は地元にUターンした“集落支援員”「この村を無くしたくない」
岐阜県山県市の「限界集落」に続々と話題のスポットが誕生している。レストランにカフェバー、そして宿泊施設も。「村をなくしたくない」という、この地域出身でUターンした男性の強い気持ちが新スポットを生み出していた。
■アマチュアカメラマンが押し寄せる映えスポット…次々と人気スポットが誕生する岐阜の“限界集落”
岐阜市の北に位置する山県(やまがた)市の北部にある、90%以上が山林という神崎・北山地区。約50世帯が川沿いに暮らしている。
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少子高齢化が進み空き家も増えた、いわゆる“限界集落”だが、いまこのエリアが注目を集めている。
まずは、SNSで話題の絶景スポット。集落を流れる円原川(えんばらがわ)。
岩盤からあふれ出す伏流水は日本屈指の規模だという。清流と岩を覆うコケが、癒しスポットとして人気だ。
川霧に朝日が差し込む「光芒(こうぼう)」と呼ばれる絶景がSNSで評判に。
アマチュアカメラマンが押し寄せている。
■懐かしの“田舎料理…廃校を活用したレストランも人気に
もうひとつ、今注目されているのが、廃校になった小学校を利用し、週末だけ営業しているレストラン「舟伏(ふなふせ)の里へ おんせぇよ~」だ。遠方からも大勢の人が訪れ、人気になっている。
女性客:
「おいしいです」
男性客:
「懐かしい感じですね」
別の女性客:
「郷土料理というのか、ヘルシーだし…」
また別の女性客:
「ふるさとの味がする、そうめんウリとかズイキの酢の物…」
別の男性客:
「小さいころから食べていたので、懐かしい味だなと思って」
訪れた客が“懐かしい”と口をそろえる料理。もとは給食室だったという厨房をのぞいてみると、地元の女性たちが料理を作っていた。地産地消にこだわった“田舎料理”、いわゆる“おばあちゃんの味”がウリだ。
旬の野菜や山菜を使うため、メニューは日替わり。一番人気は「舟伏の里 特製ランチ」(1300円)。
メインの天ぶらは、スタッフが自ら収穫してきた山菜で、地元産の粉茶と塩でいただく。
他には、大根切干、カボチャの煮もの、モロヘイヤとキーマみそを乗せた厚揚げフライ、地元産のジャガイモで作ったポテトサラダ、大根・ニンジン・油揚げの混ぜごはん、自家製味噌で作った味噌汁など。デザート・コーヒー含め12品ついて1300円で、味ご飯と味噌汁は おかわり自由だ。
そしてもう一つの人気メニューが「十割そば 特製ランチ」(1300円)。
そばと大根の千切りを一緒にいただく。
珍しいスタイルの蕎麦だ。
■「思い出や生活が残っていったらうれしい」…仕掛け人はUターンした“集落支援員”
その蕎麦を打っているのが、店の代表・山口晋一(やまぐち・しんいち 41)さんだ。
山県市で兼業農家をしていた両親のもとで育ち、コンピューター関連の専門学校へ進学。周りの薦めもあっていったんは大垣市のIT企業に就職したが…。
山口晋一さん:
「こういった勉強をしてきたからこの仕事をしたらいいっていうのがあって、その時は納得していたんですけど違和感があって、じゃあ自分がやりたい事はなんだろうと思って…。子供の頃の思い出とか生活とかが自分の中ではすごく好きで、それが残っていったらうれしいなと思って」
会社を辞め、山県市内の自宅からこの地区に通い“集落支援員”として活動している。
最初に手がけたのが廃校のレストラン「おんせぇよ~」で、その後も農業や田舎暮らしの体験イベントなどを実施。他の地域からも次第に人が訪れるようになったという。
食堂のスタッフ:
「(山口さんは)なんとかして活性化したいとか、この地域にどうしたら溶け込めるかとか必死になって考えてますわ。すごくありがたいですよ」
「やさしいね」
「真面目すぎますね」
「可愛い息子」
地区の自治会長:
「だんだん寂しくなってくる集落で、若い人がいろんなことやってくれて、イベントとかやって頂ければ活力になると思うのでね」
■「普段から来られる場所を」…空き家の有効活用に寺の一般開放も
「この村を無くしたくない」そんな思いで活動してきたという山口さん。最近では、点在する空き家の有効活用も始めている。
山口さん:
「イベントにはお客さんが来るけど普段はお客さん来ないから、来られる場所を作りたいなというのがあって、地域の方の負担にならないような感じでできればなと思ってやっているのが現状です」
この古民家は、2021年まで空き家だった。
中をのぞいてみると、レンタルスペースになっていた。
テレワークからバーベキューまで、幅広い用途に使うことができるようにリフォームされていて、Wi-Fi完備もされている。
元は空き家だった別の建物は…。
現在は「えがおハウス・きたやま」という、誰でも100円で利用できるコミュニティスペースに。コーヒーやカラオケも楽しめる。
山口さんの“支援”は、地元の人の墓がまつられている寺「瑞巌寺(ずいがんじ)」にも。
18年前から常駐する住職がいない状態がずっと続いていたが、山口さんからの提案もあり、副住職が定期的に寺を一般に開放することを決め、観光客向けに座禅会などを行うようになった。
瑞巌寺の副住職:
「神崎集落で一番高い場所にありますから、そこで座禅をするのはすごく気持ちがいいものですから。憩いの場になればいいと、そんな願いを持って座禅会を取り組んでおります」
さらに、かつて日用品などを販売していた空き店舗は…。
カフェバーに生まれ変わっていた。2019年にオープンした「カフェバー Phin and Bean(フィン アンド ビーン)」。
オーナーは会社員を早期退職してUターン。実家だった店を自らの手でリフォームして開業した、地元出身の男性だ。
カフェバーの店主:
「若い人にも来て欲しいし、移住していただいてもう少し人が歩いている町に戻したいです。そもそも本来なら地元民がやるべき事を、彼(山口さん)がそういう思いを持ってやっているのがビックリですね。それがないと、この店はやってないと思います」
■実を結び始める故郷の存続…ノスタルジックな雰囲気残す宿泊施設もオープン
地元の人たちの思いに耳を傾け、試行錯誤しながら続けてきた山口さん。10年かけて着実に実を結び始めている。
山口さん:
「ご飯を食べるレストランはある、カフェもあって、お酒も飲めるし仕事をする場所がある。あとは宿泊する場所があってみんなが連携できたらいいよねってことがあったので、これは宿泊先を作れたらいいなと」
そして2022年8月、山口さんは空き家だった古民家を利用した宿「水音(みずおと)」をオープンした。
室内を見ると、まさに「田舎の家」。あえて最小限のリフォームにおさえ、家具もそのまま使っている。
いたるところにノスタルジックな雰囲気が残っている。
個室・素泊まりで1人5500円、2人以上なら1人5000円。若い人たちにも気軽に使ってもらえるよう、トイレは最新のものに改修してある。
そして一番のウリは、宿のすぐ下。円原川が流れる、自慢の癒しスポットだ。
この日、SNSで見つけて予約したという女性が泊まりにきた。
女性客:
「すごい。おじいちゃんの家にきた感覚」
「和室は落ち着くなと思いました。川もすごくきれいなので、川の音を聞きながら寝られる」
山口さん:
「この地域の魅力は、川がきれいで自然が豊かで人もすごく接していて優しいっていう部分がなので、町のビルとか建物の中にいた方がこういうところに来てリフレッシュしてもらえるような、そういったところを基本にしてやっていきたいなと思いますね。そういったところがすごく需要があるとなれば、他にも空き家を使って宿泊できるとか、実際に住めるようになるとか、他の地域の人が来るチャンスであったり、来るきっかけになるかなと思って、それを維持したいなと思っています」