『女性政治家』の育成サポートする日本の団体 知識や政策より“つながり”に重きを置く理由
ニュースONEでは、11月に行われたアメリカの中間選挙の際、女性の政治への参加について、ニュースアプリのスマートニュースの協力を得て、入社4年目の女性記者が現地で2週間取材しました。
テーマは女性の政治への参画です。アメリカでは、政治家など各分野のリーダーを目指す女性を育成する民間の団体があることを第2回の企画で取り上げましたが、日本でも女性の政治家育成をサポートする団体が4年前に発足しました。その取り組みを取材しました。
■女性政治家の育成を…日本の「パリテ・アカデミー」
2022年9月、兵庫県明石市の施設に集まっていたのは約30人の女性。年代は17歳の高校生から70代と幅広い層です。
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ここで行われていたのは、大学教授2人で立ち上げた女性政治家の育成団体「パリテ・アカデミー」が主催するイベント「ウィメンズ・アカデミー」です。
これまでにのべ150人が合宿プログラムを受講し、その中から17人が参議院議員選挙や市議会議員選挙などに立候補。8人の女性政治家を輩出してきました。
今回は、明石市がパリテ・アカデミーに依頼し行われました。
女性政治家の育成が目的で、今回のプログラムは2日間。1日目は、団体の代表の上智大学の三浦まり教授とお茶の水女子大学の申きよん教授が、日本の政治におけるジェンダーギャップについて語りました。
三浦教授:
「私たちは男性とはちがった経験を日々している。その経験が積み重なっていくと、モノの見方が違ってくるということがあるわけです。なので男性なのか女性なのかということは、見える景色が全然違っている。見える景色が違うんだとしたら、その違う景色を政策とか意思決定の場に持ち込まないと、女性が経験していることが反映されるような政策の決定にはならない」
申教授:
「日本は残念ながら、女性の国会議員が10%以下、10%に至らない国の中にいますので、残念ながら世界で161位という順位になってしまいました」
2人の講義が終わると、参加者はたくさんの付箋に短いワードを次々と書き始めました。
■“女性の問題”の理解を深める議論や“1分間スピーチ”を講師が指導
目立ったのは、「子育て」「女性議員・役員の少なさ」「職場での男女格差」。
このワードは、自分自身が問題だと思うことです。
参加者:
「(女性は)完璧が求められる」
別の参加者:
「あ~、確かにそういうことに通じるかもしれない」
講師の女性:
「とりあえず今の出したものについて、自分の経験とかをシェアっていってください」
また別の参加者:
「これと通じるんですけど、“人権”というものがあまり議論されていなくて、ただ“優しさ”とかふわっとした言葉に言いくるめられていて」
約30人が6つのグループに分かれて意見交換を始めました。初対面、そして年齢も異なる女性と話すことで、女性に関係する多様な問題について理解を深めていきます。
意見交換を踏まえて、このあとは参加者全員が1分間のスピーチ。
シングルマザーの参加者:
「私は小学校1年生の子供をもつシングルです。ひとり親だと、経済的自立というのは自分自身も子供の貧困にも直結する問題なんですけど、女性のもともとの賃金の低さ、残業しなければキャリアアップできないとかっていうような社会構造の中で、非常にジレンマを感じています」
別の参加者(行政書士の女性):
「女性が少ないとどうなるかといいますと、10人いて、女性が1人で男性が9人いると、2次会がキャバクラになってしまうということが結構あります。女性が1人だとゼロカウントになってしまうという経験をいっぱいしてきました。でも10人の中に女性が3人いたら、キャバクラに行くということはありません。こういったことが、大事なことを決める政治の場でもたくさん起こっているんじゃないかなって思っています。そういった大切なことを決める政治の場で、発言できる女性を増やしたいなと思ってここに来ました」
思いを言葉にして披露したスピーチ。どうしたらより“訴える”ことができるのか、講師が「自分の具体的なエピソードを盛り込むと良い」などとアドバイスを送りました。
講師の女性:
「1番初めに自分が思っている課題を、明確に『女性の役員の数』をどうにかしたいと先に言っていたので、今から言うこと、これに向かって言うんだなということがすごくわかりました」
■現代には欠かせないSNS戦略の講義や政策考えるワークショップも
1日目の最後は、今や政治活動には欠かせない「SNSの使い方」。パリテ・アカデミーの講師がTwitter、Instagram、Facebook、YouTube、それぞれのツールの特長を解説し、参加者は活動の情報を有効に広める方法を学びました。
参加者の女性:
「バズりやすいのはツイッターだから、支持を得ていったり票を増やすという部分でツイッターを使わざるを得ないのでしょうか?誹謗中傷が怖いという気持ちと、発信はしたいという気持ちで悩んでいて」
講師の町田彩夏さん:
「国政だと政党から立候補するということが多いと思うので、国政に出る場合はツイッターが必要だな思います。けれども地方選の議員さんの場合は、インスタグラムやフェイスブックだけでもいいと思います。いずれにせよ、誹謗中傷からどのように身と心を守るかということなんですけど、ひとつは分業制にすることです」
2日目は、リーダーシップ論の講義を受けたあと、イベントの総仕上げは6つのグループが、それぞれ明石市の政策を考えました。取り上げられたのは「50代の女性が輝ける街づくり」「女性のキャリア支援」など、女性のライフプランに焦点を当てたものばかりです。
「大人も子供も笑顔のまち明石」をテーマに挙げたチームは、母親がのびのびと子育てをするためにはどうしたらよいかについて発表しました。
参加者の女性:
「子供を抱えて買い物することがどれだけ大変かっていう過程を、すべてビデオなどでドキュメンタリーとして撮影して、それをビデオにしてツイッターであったり色んなソーシャルメディアで拡散して、それをみなさんに見てもらうことで、いろんな賛同者であったり、私もそれを経験して大変だったとみなさんに共有したい」
2日間の日程を終えて、参加した感想を聞きました。
女子大学生(20代):
「こうして女性だけが参加する場所っていうことで、当然この場にいるときは発言しやすかったりっていうのはあるんですけど、どうしても権力を持っている人だったり、高齢男性中心になってしまうと、なかなか自分の意見を言えなかったりというところもあるので、こうしたところで練習したことで自信がつけられて、自分自信エンパワーされたので、次にもし政治家と話す機会とかがあれば、今までよりは自信をもって話せるんじゃないかと思います」
会社員女性(20代):
「参加してみて思ったのは、すごくパワフルな方が多いなっていうのは感じました。普段の生活をしている中ではお会いできない、パワフルで意見を持っていて、1分間スピーチと言われたらすぐに自分の意見を言えるような、素敵な女性に会えて良い経験になったなと思いました」
女子高校生(10代):
「まだ学生だからあんまり感じないけど、きょう会社のこととか政治のこととかを聞いて、女性と男性の違いがこんなにあるんだなと知って驚きました」
参加者も今回のイベントが刺激になったようです。
■日本の女性に“変化の兆し”も…課題は「資金面」
パリテ・アカデミーが重視しているのは、3つの“C”=Confidence/自信・Capacity/能力・Community/つながり。代表の三浦教授と申教授が、いくつものアメリカの育成プログラムを視察し、ヒントを得て発想しました。
パリテ・アカデミー共同代表の三浦まり教授:
「設立にあたっては一年の準備期間があったんですけど、こういった女性の政治リーダーのトレーニングはアメリカがたくさんのプログラムを提供している、実施しているということを知っていたので、まずアメリカに視察に行きました」
パリテ・アカデミー共同代表の申きよん教授:
「パリテアカデミーは2018年3月に発足したんですけど、やはりなり手不足という問題があるだろうと思っていて、すそ野を広げる意味で、特に若手女性がこれから政治家になることをキャリアとして考えてもらいたいなと考えて、パリテ・アカデミーを発足しました」
日本のいわゆる政治塾が、知識や政策について勉強していくということを重視しているのに対し、パリテ・アカデミーは「つながり」に重きをおいていて、仲間を募りグループで一緒に社会を変えていこうとしています。
発足して4年、課題は「資金不足」で、今は助成金頼みです。この日のイベントも明石市が開催費用を負担して行われていました。
三浦教授:
「やっぱり女性たち、お金が足りないわけですよ。なるべく安くはしたいけど、運営するのに相当お金がかかるのが実態です。今回は明石市さんと一緒にやっているので、明石市の方はタダという形でやっていますけど、これを全部実費で参加者から取ろうとすると、とてもじゃないけど払いきれない金額になってしまう。常に助成金を頂戴して、参加費をなるべくおさえて、ということをやっています。助成金をとるのが単年度ですから、毎年毎年、来年はあるかどうかわからないというドキドキ、心臓に悪い気持ちで来年もできるのかなという気持ちでやっていますので、報道していただいて、わたしたちを支援していただける方が増えるといいなと思っています」
三浦教授は「本来は地方で活動し、地方から女性議員を増やしたい」としていますが、スタッフを含めた移動費や宿泊費を考えると、地方開催は頻繁にはできないのが現状です。
ただ最近は、日本の女性に変化の兆しが見え始めていて、三浦さんも申さんも活動の手応えは感じています。
三浦教授:
「医学部の入試差別の事件があったり、森さんのひどい発言があったり、度重なる色んな性差別の事件が日本であって、それに対して女性たちがこんな政治はやっぱりよくない、これは政治が変わらないといけない、つまり女性が少なすぎるからこういう問題が放置されてきたので、やはり女性議員が増えてほしい、でもそのときにやっぱり自分がなったほうがいいんじゃないか、そういう人が前よりは増えてきたから、名前として『森現象』『トランプ現象』みたいなことではないけれども、似たようなことが。積み重なった女性たちの沸々とした抗議、異議申し立てみたいなのは、確実に私たちに申し込んでくる人たちの動機、問題意識の変化に表れているなと思います」
申教授:
「実際パリテアカデミーを初めてみてわかったことは、需要がたくさんあるということなんですよね。私たちが何度もプログラムを研究しているんですけど、定員に至らなかったことはなくて、いつも1.5倍とか2倍とかの応募がありました。ということは、これまでこういうプログラムがあんまりなくて、皆さん多分参加したいなと思ったとしても、特にどのようにアプロ―チすればいいのかわからない。そういうことを積極的にやっていなくても、すぐ政治に参加しなくても、まず地域のリーダーになってみるとか、こういうプログラムを受けることによって、これから政治家になろうという気持ちになるわけですから、そういうプログラムがどんどん増えていくということが必要だなと思いますし、アメリカとの一番の違いはそういうところですよね。そこでパリテアカデミーが少しでもひとつのモデルを作ることができればと思います」