どうやって“約9割”も特定するのか…SNSアカウントの『裏アカ調査』インターンで情報漏洩の学生も発見
若者を中心にSNSのアカウントを複数持つ人が増えています。「裏アカ」と呼ばれる匿名アカウントを調査する会社には、企業からの依頼が増えていますが、これまでに「問題あり」と指摘された投稿内容などを聞きました。
■採用候補者のSNSの「裏アカ」調査を依頼する企業が急増
東京にある調査会社「企業調査センター」。モニターに映し出されているのは、ある学生の履歴書とSNSです。企業から依頼を受け、採用候補者のSNS、特に実名以外で登録されているアカウント、いわゆる「裏アカ」を中心にチェックしています。
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企業調査センターの担当者:
「投稿内容だけじゃなくて、つながっている人たちとかも確認しているので、そういった意味では懸念とする項目は結構あります」
例えばこれは、過去の調査で見つかった就職活動中の学生のSNS。バイト中にわざと落としたとみられる商品の写真がアップされていました。
企業調査センターの担当者:
「写真の投稿がちょっとふざけた投稿が多いとしたら、いわゆるバイトテロとか、悪ふざけが行き過ぎたような内容を投稿している可能性も出てくる」
コロナ禍で直接面接する機会が少なくなり、人柄の判断が難しいといった理由から、調査を依頼する企業が増えています。
企業調査センターの担当者:
「度が過ぎた内容、集中的に誰かを中傷するような内容を繰り返し投稿するようなことであれば、その方の人間性に何か問題があるという判断をせざるを得ないと思うんですよね」
■“メインアカは建前 裏アカは本音”…街で聞くと若者の約9割が「複数アカウント所持」
「インターネット犯罪大全」の著者でもある、ITジャーナリストの井上トシユキさんによると、もともとは公にしているSNSのアカウント以外のプライベートで使うものを、ネットスラングで表に対して「裏アカウント」=「裏アカ・裏垢」と呼ばれていました。また同じ意味で、メインアカウントに対して「サブアカ・サブ垢」と呼んだりもします。
そもそも、複数のアカウントを持っている人はどれくらいいるのか、街で聞いてみました。
女子高生:
「(インスタ)2つ持っています。1つはみんな用で、もう1つは身内だけで少人数のアカウント」
別の女子高生:
「1個はメインのアカウントで、2つ目は少人数のサブアカウント、3つ目はオタアカ(オタクアカウント)として使っていました。学校の些細な事とか、『本垢に上げなくてもいいよね』みたいな身内ノリみたいな、友達とワイワイしているのはサブに載せたりしています」
男子大学生:
「サブアカとメインみたいな感じ。メインはいっぱいフォローしている人がいるのでちょっと気を遣って上げて、サブアカは気を遣わずに上げる。『これ上げていいのかな』『なんか変に思われないかな』みたいなのがあって、サブアカを使っている」
女子大学生:
「インスタが3つでツイッターが6個。1個は韓国アイドルのATEEZのオタクアカウントで、もう1個が他のグループのアカウントで、あとはいろんな他校の子とつながるやつが1個と、アニメとかいろんな趣味程度に使うやつが1個と、コスプレをしている人が好きだからその人たちを見るためのアカウントと、めちゃ小規模の裏アカみたいなやつ。(裏アカは)独り言をつぶやいたりとか『身内だけに共有するよ』みたいな感じです。絶対にみんな使い分けてますよ」
街頭で10代20代を中心に聞いた結果、46人中41人、89%の人が複数のアカウントを持っていました。
井上さんによると、メインアカウントは仕事関係・学校関係・身内などが複雑に絡むので、誰に見せても問題ない“建前”的な投稿をするものになっていて、裏アカは、ごく親しい仲間や共通の趣味の仲間などに限定しているので、気兼ねのない“本音”の投稿ができるのがメリットだといいます。
ただし本音に歯止めが利かなくなると、誹謗中傷などの書き込みにつながる人もいて、実際に問題も起きています。
井上さん:
「芸能人、タレント、ユーチューバーの人が裏アカウントで悪口を言う。表では『これいいよね』と言っていたのが、裏アカウントでは『あんなものくだらないよ』というような言い方をする。ネット上では毎月のように話題になっていて、ちょっとした炎上騒ぎになるということがあります」
また、裏アカは犯罪の道具として使われることもあります。
井上さん:
「11月の話ですけれども、自分の裏アカウントを使って違法な動画を販売していた男が逮捕されています。その時に男は『裏アカウントを使っていればバレないと思った』という風な言い方をしている」
■インターンで情報漏洩していた例も…裏アカ調査の方法 探し方や問題ありのアカウントは
そんな裏アカを調査している、東京都千代田区の「企業調査センター」。2年前から就活生などの裏アカ調査を行っていて、現在は240社以上の企業と契約しています。多いときは月に600人分を調査し、調査費用は1人につき1万6500円からです。
どうやって裏アカを探すのか、センターに伺いました。
企業調査センターの担当者:
「キーワード検索からやっていきます。(企業から)いただく情報は氏名、生年月日、現住所、学歴・職歴、この情報をもとに関係者とか誕生日の日付とか名前から連想されるあだ名とか、キーワードをいくつか挙げていきまして…」
その中で探しやすいポイントがあるそうです。例えば、調査対象の名前が「徳川家康」だった場合は…。
企業調査センターの担当者:
「名前を省略するような感じとか、徳川家康=TOKUIE、逆から読めるパターンとかもありますね、家康だからUSAYEI。いろんな予測を立てながら、つながっている人たちのフォロワーとかフォローしているものを探していくと、いくつか名前に近いものがヒットしてくる」
企業調査センターの担当者:
「その内容を確認してその人のものかどう確認すると、誰かに実名で名前を呼ばれていたりとか、そういうことがヒントになって特定していく」
そして、友人関係にもポイントがあるといいます。
企業調査センターの担当者:
「裏アカでつながってる人、友人などは最近の友人よりも昔の友人とつながっていることが多い印象があるんです。中学生・高校生ぐらいまでの友達とつながっていると その人たちと裏アカでつながっているケースがあるのかなと思います」
他にも、誕生日にフォロワーからのお祝いのコメント欄に本名が載っていたり、フォロワーやフォローしている人の出身地なども特定するヒントにしていきながら、裏アカをおよそ9割も特定できるといいます。
特定した裏アカは隅から隅まで調べ、【A】の「懸念なし」から【D】の「重大な懸念有り」まで4段階で評価します。これまでにのべ8万人を調査し、問題がある【B】から【D】に該当する人は実に34%に上ったといいます。
どのようなことで評価したのか、具体例も聞きました。
【B】の「確証ないものの懸念される情報あり」は、汚い言葉遣いをしている、友人にタトゥーを入れた人が多かった、ファミレスの水差しに口をつけようとするなどのやりすぎのイタズラなどがあったということです。
【C】の「懸念される情報あり」は、下半身を露出した写真が載せられていた、高速でスピード違反で捕まったことを自慢していた、バイト中に商品をわざと落としたと思われる写真を掲載したなどです。
それをも超える【D】の「重大な懸念有り」の評価。例えば、インターンに来ていた学生は…。
企業調査センターの担当者:
「あるメーカーさんだと思うんですけど、『こういった商品が今後発表される』というものを『こういったものが出るらしいよ』というようなことをSNSで投稿してしまったことがあって、それは情報漏洩につながるということで」
情報漏洩は企業にとって死活問題、D判定となりました。
また、中途採用を検討していたイケメン男性の調査では…。
企業調査センターの担当者:
「自動車販売の営業の方だったんですけども、(リプライの)書き込みの内容に『もう許さない』『あいつには引っかからないほうがいいよ、皆さん気をつけて』とか。そういった女性がたくさんいるとかですね、営業手法に対する悪評みたいなものもいろいろ出てきて」
人柄に問題があったり、トラブルも多かったことでD判定に。
他にも、卸売会社の入社候補者が有名な転売ヤーとわかったり、採用予定の男性が家庭教師をやっていたときに、わいせつ行為で逮捕されていたことが判明した事例もあったということです。
では、そもそも調査すること自体に問題はないのでしょうか?企業調査センターによると、事前に企業を通じて対象者から同意を得ているといいます。
ただ井上さんは「パワーバランスが大事」と話しています。そもそも調査対象の入社希望者は、立場上「調べないでください」とはいえない状況で、一方的に調べて採用を見送るようなことは、一考の余地があるのではないかとしています。
2022年12月9日放送