入隊のきっかけは“女性ゼロ”の衝撃…岐阜県警高速隊初の新人女性隊員に密着 一筋縄ではいかない違反者も
2022年の春、岐阜県警の高速隊に、女性隊員が初めて加入した。しかも一度に3人で、なぜこのタイミングで起用されたのか。高速道路の安全を守る、新人女性隊員に密着した。
■岐阜県警高速隊に初めての女性隊員 女性の活躍を県警全体に
岐阜県羽島市にある、「岐阜県警高速隊岐阜分駐隊」。
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高速道路上で起きた事故の対応、交通違反の取り締まり、落下物の処理などが主な任務で、名神高速道路の「岐阜羽島インター」付近から、滋賀県との県境「関ケ原トンネル」までの約30キロを管轄している。
ここに2022年の春、初めて女性隊員が入隊した。
黒川結香(くろかわ・ゆうか 25)巡査長:
「女性は他の県警にはいますけど、岐阜はいなかったです」
小木曽真央(おぎそ・まお 25)巡査長:
「お互いに少しずつ刺激し合いながらも、ただやっぱり初めてがみんな一緒なので、『あれした、これした』とか、そういう風に情報共有はこまめにしながら…。3人ともとにかく事故がなければ、それでいいなというところもあるので」
しかし、なぜこのタイミングで、女性隊員が入隊することになったのか。
岐阜県警高速隊の隊長:
「女性の職域拡大ということで、県警全体的にも色々な分野で女性が活躍しておりますので、高速隊にも女性が配置されればいいなと」
■違反者とのやりとりに自問自答する日々 感じていた女性隊員として向き合う難しさ
高速隊の主な仕事は、パトロールだ。日中は、覆面パトカーで行っている。
小木曽巡査長:
「アルファード速いですね。結構速いですね。前に引っ張っていますね」
覆面パトカーの横を、猛スピードで車が走り去っていった。
サイレンを鳴らして緊急走行し、違反車両を追った。
小木曽巡査長:
「運転手さん、パトカーが前に入ります。パトカーに続いて走行をお願いします」
違反車両をインターの出口まで誘導し、ドライバーにはパトカーの後部座席で話を聞く。
小木曽巡査長:
「ご自身の感覚では、何キロぐらいで走行していましたか?」
違反した男性:
「115キロくらい」
小木曽巡査長:
「ここの道路、養老SAから彦根までにかけてですね、指定の80キロの速度の道路になっています」
違反した男性:
「追い越しの時はいいんじゃないですか?」
小木曽巡査長:
「いえ、そういった決まりはないです。基本的には、指定の速度が最高速度の制限になっています」
高速道路の違反の中で最も多い「速度超過違反」。車の追い越しも、制限速度に沿って行わなければいけない。
中には一筋縄ではいかないドライバーも…。
黒川巡査長:
「110(キロ)、116(キロ)、110(キロ)…。(サイレンを鳴らし、追跡)ノアの運転手さん、ノアの運転手さん、パトカー付いてください、パトカー付いてください」
制限速度を30キロ近くオーバーして走っていた女性。
黒川巡査長:
「速度108キロということで、80キロ(規制)の道路ですので、28キロの超過になります」
違反した女性:
「自分の車の前に常に車ってあるじゃないですか。その車について行く…」
黒川巡査長:
「その車に付いて行くっていうか、今回の状況としては、運転手さんの車はずっと他の車両を追い抜いて行く形で、右車線を走っていた。(前の)車に追い付いたって形ですね。さらに速度も速かったので、パトカー後ろついて、赤色灯上げて追尾しましたよ。測定させていただきましたという結果です」
違反した女性:
「だから、自分の速度よりも抜いて行く車もあるじゃないですか」
隊員の男性:
「追い抜いて行く車無かったですよ」
違反した女性:
「それは…」
女性はなかなか、自分の非を認めようとしない。
隊員の男性:
「運転手さんがおっしゃりたいのは、『私より速い車、他にもいっぱいいたのに』ってことだと思うんですけど、僕らが見た時は運転手さんの車が速かったので、速度測定させていただきましたのでね、よろしくお願いいたします」
最後は、ベテランの男性隊員が対応し、場が収まった。
黒川巡査長:
「なんか(自分が)訳のわからん違反の説明してた気がするなぁ…」
取り締まりを担当した黒川巡査長は、女性隊員として違反者に向き合う難しさも感じていた。
黒川巡査長:
「なかなか納得してもらえない方も中にはいますので。自分が女性ってところがあるので、弱く思われてしまうところもあるかと思うので。自分自身が強くいるために、精神面とかそういうところも今後強くなっていかなきゃいけないなって思います」
■志望したきっかけは交通警察官の父に聞いた「女性隊員は1人もいない」
自ら希望して高速隊に入ったという黒川巡査長は、実は父親も交通警察官だ。
黒川巡査長:
「父親がずっと交通警察官で、高速隊員だったって話を聞いていたんです。女性隊員がいるのかどうか気になって、聞いたら『まだ女性隊員は1人もいないよ』ってことで、衝撃を受けたのがきっかけですね」
高速隊員だった父親の影響で高速隊に興味を持ち、交通専門の警察官としてやっていくことを決めた。
黒川巡査長:
「(高速道路は)一般道とは全然違って、死亡事故とかも起きやすいということで、高速道路ならではの違反や事故とか(の知識)も身に着けたいなって」
ジムに通うのを日課にしている黒川さん。筋トレやランニングなど、2時間みっちり自分を追い込む。
黒川巡査長:
「男性警察官と(比較)っていう意味ではなく、自分自身のことを意識している方が強くて。体のコンディションはいつも万全な状態でいるのが、自分の務めかなと思うので、自分自身のためにって感じです」
■定期的な同期3人の“女子会”もいつの間にか仕事の話に
ある休日、高速隊の同期3人で集まり、久々の食事会。
黒川巡査長:
「キャンプまだ行くの?」
小木曽巡査長:
「また11月行きたいところあって。琵琶湖行きたいんですよ」
黒川巡査長:
「おー」
中野琴音(なかの・ことね 22)巡査:
「あるんですか、琵琶湖に?」
小木曽巡査長:
「琵琶湖にあるんですよ。シーサイドみたいな感じで。琵琶湖を眺めながらできるところ」
趣味のキャンプの話で盛り上がっていたが、話題は自然と仕事の話へ…。
黒川巡査長:
「(取り締まりを)無理にやるっていうよりは、この車速いなとかずっと見ていて、やっぱり速いので行こうとかそういう感じ。しかも方法が違うの」
小木曽巡査長:
「攻め方がですか?」
黒川巡査長:
「泳がすとかさ、急にバーッて行くとか。ホントみんなどんな風にやっとるのかなって、疑問には思ってる」
定期的な“女子会”も、仕事の話になることが多いという。
黒川巡査長:
「ある意味理解者がこの3人しか、雰囲気とかも分からないし、仕事の唯一共通点として話せるのが、この3人なのかなって思うので。仕事の話は、この2人にすることが多いかなって思いますね」
■交通警察を目指す女性警察官に「ぜひ高速隊を希望して」
いつものようにパトロールをしていた黒川さんのもとに、突然、1本の無線が入った。
(無線)
「路上落下物の目撃。現場は名神・上り東京向き。380.2キロポスト付近。大きめのビニール袋が一袋」
追い越し車線に、大きなビニール袋の落下物があると通報があった。通過する車が踏んで、タイヤに絡まったりすると大事故に繋がる恐れもある危険な状態。急いで現場へ向かった。
黒川巡査長:
「あれか、あれですね」
男性隊員:
「(無線で)現着入れて」
ビニール袋は、追い越し車線から中央分離帯に飛ばされていた。路肩にパトカーを停め、車道本線を横断して回収しなければならない。
男性隊員:
「もうちょい向こうで旗振って」
本線を横断するときの安全を確保するため、黒川さんは車列の上流で旗を振りドライバーに注意喚起を促す役だ。
男性隊員:
「トラックの後、(本線に)出ます!」
先輩からの合図で本線を一気に横断し、無事にビニール袋を回収した。
黒川巡査長:
「今回、現場見た瞬間に、絶対に(本線を)渡らなくちゃいけないって思いましたので。怖いかって言われたら怖いんですけど、それで怖いとは言っていられませんので。一早く、事故防止のために自分たちが撤収作業しなくてはいけないっていう使命感というか」
岐阜県警初の女性高速隊員となった3人がいま感じていること…。
中野琴音巡査:
「今、自分が仕事することに精一杯になっていますので、色んなところに目を向けられる警察官にはなりたいと思っています」
小木曽真央巡査長:
「(高速隊に)私たちが入っているという一つの姿で、少しでも(女性隊員を目指す)きっかけになれるんじゃないかとは思っているので、これからも頑張っていきたいなと」
黒川結香巡査長:
「交通警察になりたいって警察官、女性警察官がいたら、ぜひ高速隊を希望してもらいたいなと思います。そのために私たちはいま全力で頑張っているような状態です」
3人がそれぞれの責任の重さややりがいを感じていた。
2022年11月10日放送