「救える人、誰もいないよね」旧統一教会問題きっかけに誕生“被害者救済新法” 実効性に疑問持つ2世被害者
2023年1月5日、旧統一教会問題をきっかけにした「被害者救済新法」が施行された。2022年12月の可決・成立から異例の早さでの施行だった。ただ、早さのあまり、残された問題も多い。新法だけでは救われないと言う、元教団の二世信者たちの生の声を取材した。
■献金を返すのは難しい…元2世信者の女性に取材中にも教団関係者から電話
2022年12月に成立した「被害者救済新法」が、2023年1月5日に施行された。
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松野博一官房長官:
「被害者救済・再発防止のための、実効性ある法整備がはかられたと考えています」
被害者の救済へ一歩踏み出したものの…。
小川さゆりさん(仮名・立憲民主党のヒヤリング):
「この新法が本当に裁判で実効性をともなうのか。今回の法案の最大の積み残し課題は、子供の被害が現実的にはまったく救済できないということです」
指摘されるのは、法律の「抜け穴」だ。
鈴木みらいさん(仮名・30代):
「楽しそうなんですよね、よく言われます…」
アルバムをめくり、中学・高校時代の思い出を懐かしむ女性、鈴木みらいさん(仮名・30代)。旧統一教会の元2世信者だ。
鈴木さん:
「部活に関しては、それなりに仲良くは活動していましたけど…」
Q何の部活だったんですか?
鈴木さん:
「 “天道楽(てんどうらく)”って…」
Q天道楽とは?
鈴木さん:
「韓国の伝道楽器を学ぶもので」
鈴木さんは、“合同結婚”でマッチングした両親のもとに生まれ、中学・高校は教団の本場・韓国へ留学。
日本に戻ってきてからも、大学時代は教団の関連団体の寮で暮らすなど、“旧統一教会一色”の人生を歩んできた。
取材の最中にも、鈴木さんのスマホが鳴った。
鈴木さん:
「ちょっとすいません…。あ、もしもし○○(鈴木さんの本名)です」
教団関係者(電話):
「あ、もしもし○○(教団関係者の名前)です」
電話の相手は、大学時代に住んでいた教団関連の寮で、寮長だった男性。学生時代にした献金の、返還請求についての電話だった。
鈴木さん(電話):
「(バイト代の)10分の1は公金だから(献金しないと)『“公金横領“だから、罪になるって言うので捧げていたと思うので(返して欲しい)」
教団関係者(電話):
「普通であれば(当時の献金を)返すことは難しいと…」
鈴木さん(電話):
「はい…」
Q今の電話は?
「私自身も(大学時代に)不当に献金させられていたので、そこの部分はCARP(大学時代の教団友好団体)に返してもらいたいと…」
■元2世信者「救える人、誰もいないよね」 マインドコントロールされ“困惑”していない場合の救済は
80万~200万円の壺や…。
430万円の置物。
そして、3000万円の「聖本」。
鈴木さん自身は、2016年頃に脱会したが、両親は今も信仰の中にいて献金を続けているという。施行された救済新法の効果には疑問を投げかけた。
鈴木さん:
「“マインドコントロール”という文言も入ってないですし…。(新法で)救える人、誰もいないよねっていうのが正直」
条文には…。
法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(被害者救済新法) 第4条
「寄付の勧誘を受ける個人を困惑させてはならない。」
霊感商法などの手口で、相手を“困惑”させて寄付の勧誘をすることを禁止し、取り消し可能としている。
しかし、最初に勧誘されたときの“困惑”状態ではすでになく、進んで寄付をしている信者らを救い出せない、という指摘の声が上がっている。
元2世信者の鈴木さんも、この“困惑”をめぐる規定では救われないケースを、実際に体験していた。
鈴木さん:
「『1億6000万、一括で献金した分は返してほしい』っていう思いがあったんですけど…」
鈴木さんの両親は20年ほど前、祖父の遺産で教団に1億6000万円を献金。
2022年9月に鈴木さんが両親を説得。自ら教団の担当者とも交渉し、「1億6千万円全額の返金」で話がまとまりかけていた。
ところがその2か月後、母親から一通の手紙が届いた。
<鈴木さんの母親からの手紙>
「私が20年前に献金を捧げたのは、真(まこと)の父母さまが再臨主だと確信したからです。私の親であり、歴史上唯一無二の真(まこと)の父母様ですから、献金を捧げる事ができて本当に良かったし、感謝しています」
「合意書も書いたので、これで終わりにしようと思います」
両親が教団との間で、「合意書」にサイン。献金額の5分の1、3000万円の返金で納得するとしていた。
合意書にサインする直前の2022年10月、鈴木さんが両親と話した電話の録音がある。
鈴木さん(電話):
「3000万円(という金額は)はどこからでてきたの?」
父親(電話):
「これからの生活のこと、老後のことを考えて(3000万円にした)。詳しいことはわからない」
鈴木さん(電話):
「(合意書に)サインしないでね、決めないでね。納得してないよ、私」
母親(電話):
「パパと話してこれで決めようと思っているので、おやすみなさい」
鈴木さん(電話):
「サインしないんだよね?きょう…(電話が切れる)。切ったよ!」
鈴木さんの両親のケースでは、献金時に“困惑”していないと見なされ「新法が適用されないのでは」と嘆く。
鈴木さん:
「確かに『困惑した状態で』とか『正常な判断ができない状態で』というのは(条文に)入っていますけど、『本人が献金しました』っていうふうに、献金した信者のせいにできるのではないかという、抜け道があるんじゃないかってすごく不安で。(手紙や合意書が)献金の不当性がないことを主張する証拠になると思うので、自分自身がマインドコントロールされていると思っていない状態で、当の本人がそれに気づかないと(返金)請求できないので、そういうのが救済されないなと」
■親を扶養“している”2世には「取消権」がない 親の借金を肩代わりしている人が救われない可能性も
揺らぐ新法の「実効性」。別の課題も指摘されている。それが「取消権」が認められる対象の狭さだ。新法では、不当な勧誘行為による寄付に「取消権」を定めている。しかし扶養“されている”子供などは、この権利を行使できるものの、逆に親を扶養“している”2世の手では取り消すことができない。かつ、取り消せるのは「養育費」の範囲内に限ることとなっている。
元2世信者の天野ゆとりさん(仮名・30代)は、「カードで借金をしてでも献金すべき」と教えられてきたと言う。
天野ゆとりさん:
「統一教会の教義に、いわゆる『カード摂理』っていうのがあって、『借金してこの世界で作られた汚いサタンのお金を浄化するために、できるだけ借金して献金して教祖が浄化する』と…」
Q教会が借金を推奨している?
天野さん:
「はい、それはもうはっきりそうですね」
天野さんは、ほぼ無収入の状態で信仰を続ける70代の両親と今も同居し、扶養“している”。
自身の手取り、月20万円弱の半分以上を、献金のために繰り返してきた親の借金の返済などに充てている。
天野さん:
「私が払っているのが両親の借金と、(両親が勝手に作った)自分名義の借金。だから、この働いているのも全部借金で(消えて)いくんだなって、不意に思いますね、忙しいときとか。『借金を返さなきゃ』ってこと以外で、生きる理由がなくなっちゃった時があって。考えない、とにかく考えない。とにかく借金(返済)を終わらせるっていうのが、私の(人生の)メインで」
天野さん:
「私は(新法の)対象ではないなって。扶養されていなくても、金銭の搾取があった親族とか成人した子供には『取消権』とか、そういう権利がほしいですね」
2世被害者から次々と上がる、新法の「実効性」への疑問の声。
教団の解散は…、そして新法に続く救済はあるのか?
鈴木みらいさん(仮名):
「やっぱり、実効性ってところでいうと私自身(のケース)も低いし、特に家族への救済という意味では低いので、今後、被害者が本当に救済されるような判例になっていってほしい」