2017年3月、名古屋市南区で80代の夫婦が殺害された事件で、強盗殺人罪の成立をめぐり、2度目の裁判員裁判の判決が3月2日に言い渡されます。判決を前に被告が面会に応じ、その胸中を語りました。

<松井被告>
「死刑に対する覚悟はできています。問題は罪名ですね。そこは争っているので、そちらだけです」

「問題は罪名」2月27日、拘置所で記者に対しこう話したのは、松井広志(まつい・ひろし)被告(48)。

 6年前に犯した罪は「強盗殺人」なのか。異例となる2度目の裁判員裁判で問われています。

<松井被告>
「強盗ありきで差し戻されていますので。疑わしい部分があると思えば、しっかりとした考えで裁いてほしい。まっさらな目で見てもらいたい」

 事件があったのは2017年3月。名古屋市南区の住宅で、大島克夫(おおしま・かつお)さん(当時83)と妻のたみ子さん(当時80)が、首を刃物で刺されるなどして殺害されました。

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 事件から3日後、警察署に自首したのが、近所に住んでいた松井被告でした。

 検察は、大島さん夫婦を殺害し、現金1200円ほどが入った財布を奪ったとして、松井被告を起訴しました。罪名は「強盗殺人」、法定刑は死刑または無期懲役です。

 2020年7月に、拘置所の松井被告からFNNに届いた手紙には…。

<松井被告の手紙>
「色々嫌なことが重なり、気が付けば2人を殺めてしまい、気が動転してしまい、被害者宅にあったサイフ1個を持ってきちゃったんです」

 松井被告は裁判でも一貫して、強盗目的を否認し続けました。

 2019年、一審・名古屋地裁での裁判員裁判で、弁護側は、財布について「我に返り逃げる際、衝動的に持ち去った」などと強盗目的を否定。

 検察側は「部屋を物色した跡もあり、金品を奪う目的だった」として、強盗殺人罪が成立すると主張し、「死刑」を求刑しました。

 判決前、拘置所で記者と面会した松井被告は…。

<松井被告>
「死刑が来るんじゃないかと思っています、控訴するつもりですが」

 2019年3月、一審判決は…。

<名古屋地裁・吉井隆平裁判長>
「殺害後に財布を盗むことを思いついたとする被告の供述は否定できない」

 強盗殺人ではなく、殺人と窃盗の罪を認め、無期懲役の判決を下しました。

 しかし、2審の名古屋高裁では…。

<名古屋高裁・堀内満裁判長>
「強盗目的でも、現場の状況などから物色の範囲が限定されることはある。原判決には事実誤認がある」

 一審の判決を破棄して地裁に審理を差し戻し、裁判員裁判のやり直しを命じました。

 そして2023年1月、争点を「強盗目的の有無」とした、異例となる“2回目の裁判員裁判”が始まりました。

<弁護側>
「知的障害の影響で2つのことを同時にできず、計画性はない。殺害後、逃走の費用が必要だと思い立って財布を盗んだ」

<検察側>
「当時、借金やスナックでのツケがあり金に困っていて、殺害後すぐにツケを払っていた。当初から強盗目的があったと大いに認めることができる」

 弁護側は、新たに知的障害の影響を主張。殺人と窃盗の罪にとどまるとして、無期懲役を求めました。

 検察側は、知的障害の影響は限定的で、強盗殺人の罪が成立するとして死刑を求刑。裁判は2月14日に結審しました。

<松井被告>
「もし叶うのであれば事件前に戻りたい」

 最終陳述でこのように述べた松井被告。真意を聞くために拘置所を訪ねると、松井被告は2度に渡り面会に応じ、松葉づえをついて姿を見せました。

 2022年2月、ステージ4のすい臓がんが見つかったといいます。

<松井被告>
「1年もてばいいと言われました。5年の生存率は数パーセントで、抗がん剤を飲んでいます。がんを宣告されてからは、自分が奪った命に対して後悔の念は深くなり、大島さんの命を奪ったことに申し訳なく思っています」

 後悔を口にする松井被告。なぜ、犯行に至ったのでしょうか。

<松井被告>
「知的障害は事件後に鑑定されて知りました。事件時、自分が正常じゃなくて怒りが収まらない状態で、自分の体が自分の体じゃない感じ。刺した記憶はあっても感覚がない。説明できないが、殺めたことに対して自覚がない」

 争点となっている「強盗目的」については、記者の目をまっすぐに見つめて、否定しました。

<松井被告>
「仮に死刑になるとしても、自分にはがんがあるので覚悟はできています。問題は罪名ですね。最初はお金目的ではない、そこだけは自分の頭にある。控訴する方針です。罪名が強盗殺人であれば」

 名古屋地裁の“2度目の判決”は、3月2日に言い渡されます。