岐阜県白川村に、新しい鍋料理「結旨豚のすったて鍋」が誕生した。「すったて」自体は伝統食材として昔からあったが担い手がいなくなり、20代の男性が中学時代からの同級生と共同で開発し、新たな名物にしようとしている。

■世界遺産の街の伝統食材「すったて」を復活させた男性

 岐阜県の世界遺産「白川郷」。周辺で知られるグルメは、飛騨牛や朴葉味噌(ほうばみそ)が有名だが、新たな名物を生み出そうと奮闘している若者がいる。

【動画で見る】村外不出の“幻の郷土料理”から…白川郷に登場した新名物『結旨豚のすったて鍋』20代同級生コンビが開発

岐阜県白川村にある深山豆腐店(みやまとうふてん)。

その厨房で豆腐作りに精を出している、高山市出身の古田智也(ふるた・ともや 29)さんだ。

古田智也さん:
「作る工程はそんなに難しいものではないんですけど、その日の気温とか天候によって出来上がりが変わってくるので、豆腐って繊細なものなんだなって」

古田さんの作る豆腐は、普通のものとは少し違う。

古田さん:
「ここでしっかり圧力をかけて水分を抜いていくことが、『石豆腐』の堅さの秘訣になります」

水分をしっかり抜くことで、大豆の味をギュッと凝縮している。縄で縛れるほど堅いことから「石豆腐」と名付けられ、地元では保存がきく貴重なタンパク源として長年愛されてきた。

元々この石豆腐を作っていた店は2020年、店主が高齢になったことなどから閉店。しかし村の伝統食を守りたいと、古田さんの会社が名乗りを上げ、店主から豆腐の作り方を教わって復活させた。

深山豆腐店は、実は大豆を使った食べ物をもう1つ復活させていた。

古田さん:
「白川村で、お祝いの際とかお寺の行事で“すったて汁”として、ごちそうとして食べられてきたものになります」

見た目は白くてドロッとしている。大豆をすりつぶす「すりたて」から来ているといわれる「すったて」だ。

村のカルタにも「んまいなぁー、すったて」と詠まれている。

地元の伝統食だ。

■保存料使わず日持ちしないため村外不出の“幻の郷土料理”とも言われた「すったて」

 すったてを作る過程を見せてもらった。富山県産の前日に大豆を水に漬けて一晩水を染み込ませたものを釜で茹でる。

大豆を釜で50分ほど茹で、ザルに開ける。

そして大豆の薄皮を取り除く。皮が残っていると食べた時に口当たりがザラザラするため、しっかり取り除くのがポイントだ。

薄皮を取り除いたら、石臼が組み込まれた機械に大豆を入れ、すり潰していく。

古田さん:
「豆をする強さの加減ですね。これが豆腐と『すったて』では違う設定にしています。より細かく滑らかにすり潰せるように…」

大豆と水を合わせながら、絶妙な柔らかさにすり潰せば完成。

古田さん:
「もともと“すったて”は、その日当日限り(消費)期限で、村の外には出ることが無いような物だったんです」

大豆を丸ごと全部使っているため栄養抜群だが、保存料を使わず日持ちしないことから村外不出の“幻の郷土料理”とも言われてきた。

「すったて」も石豆腐と同じく一時は存続の危機に見舞われたが、深山豆腐店で製造し、白川郷の名物として観光客が買いやすいパッケージで販売している。

村の郷土料理店「ます園文助」でも、郷土料理として提供されていた。

この店では“すったて”のスープに飛騨牛を入れた「すったて鍋セット」(1650円※要予約)が人気だ。

「ます園文助」店主:
「季節を通してずっと作ってくれるのは深山豆腐店だけだったので、再開していただいて助かりました」

■客「めっちゃおいしい」…同級生の2人が伝統食と名産の豚肉をコラボさせた「すったて鍋」

 古田さんは2022年の冬、中学時代の同級生と協力して「すったて」を使った新たなメニューを考案していた。

古田さん:
「どうもどうも、お久しぶりでございます。結旨豚(ゆいうまぶた)を育ててらっしゃる吉野隆さんです。新しい『すったて鍋』を考えていた時に、『あっ!吉野君の豚や』ってピンときまして、それで吉野君に相談しました」

古田さんの中学時代の同級生、吉野隆(よしの・たかし 29)さん。

吉野隆さん:
「昔から知っているということで、今回のこの話を受けた時はすごくありがたく思いました」

吉野さんは、2020年から白川村で養豚場を経営し、「結旨豚(ゆいうまぶた)」を育てている。

結旨豚は、旨味の決め手と言われるオレイン酸を多く含んでいるのが特徴だ。

全国的な賞を2つも受賞するほど高く評価されている。2人が協力し、白川村育ちの結旨豚と、白川郷で復活した「すったて」をコラボさせたのが、「結旨豚のすったて鍋」だ。

作り方は、まず大根やゴボウ、ニンジンを鍋で煮て塩麹みそで味付けする。

次に結旨豚の豚バラ肉を入れる。

そこへ古田さんが作った「すったて」を加える。

さらに結旨豚のロースをフライパンで焼いてからトッピング。

寒くなる冬に合わせて、古田さんが考案した新メニューだ。

スープに溶けた「すったて」は、大豆の濃厚な旨味が楽しむことができ、焼いた結旨豚のロースの甘みとの相性も抜群だという。古田さんは、試作品を吉野さんに試食してもらった。

古田さん:
「今回のは、中のスープの方にも豚バラ肉を入れている」

吉野さん:
「美味い、普通に美味い。結旨豚はすごく脂が甘いのが特徴で、その甘さとマッチングした味わいになっています」

古田さん:
「それぞれの部位の良さがあるので、豚バラも入れたいなって2種類入れさせていただきました」

完成した「結旨豚のすったて鍋」(550円)。

土日と祝日限定で、深山豆腐店のカフェで提供している。

女性客:
「めっちゃ美味しいです」

男性客:
「お肉の旨味が絡まって、すごく美味しいです」

別の女性客:
「とろみが美味しいです」

また別の女性客:
「ポタージュみたいですね」

古田さん:
「みなさん『すったてって何?』って感じで知らない物だったんですけど、『こんな美味しいものが白川村にはあるんや』って言っていただけて。この『結旨豚すったて鍋』を通して、白川村の伝統食材の『すったて』、さらに白川村で育った結旨豚がもっと広まってくれたらいいなと思っています」

2022年12月12日放送