岐阜県山県(やまがた)市のみで栽培される「伊自良大実柿(いじらおおみがき)」で作った干し柿は、糖度が60度以上もある。地域の宝とも言うべき「伊自良大実柿」を、干し柿や柿渋染めを通じて未来へつなごうと活動している男性がいる。

■干し柿にすると糖度は60度以上に…世界でここにしかない「伊自良大実柿」

 岐阜県山県市伊自良(いじら)地区。

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世界でここにしか存在しないのが、400年以上の歴史を持つ「伊自良大実柿」だ。

名前の印象とは違い小ぶりで、非常に渋味が強いが、干し柿にすると糖度は60度以上になる。

冷たい空気と天日で凝縮された甘みと、もちっとした食感は格別で、正月の縁起物としても愛されてきた。

干し柿作りは毎年11月から始まる。

軒先が夕焼けのように色づく、晩秋を告げる情景だが、後継者不足で生産量は減っている。

■伊自良大実柿の生産量減少を危惧…柿渋染めと干し柿づくりに取り組む男性

 この状況を危惧しているのが、加藤慶(かとう・けい)さん(37)だ。

加藤慶さん:
「毎年作れる方が少なくなっているので、このペースでいくとどんどん生産量もやる人も少なくなっちゃうかなと思うので」

加藤さんは伊自良大実柿を未来につないでいくために、柿渋染めと干し柿作りに取り組んでいる。「柿BUSHI(かきぶし)」は、2016年、加藤さんが立ち上げた柿渋染めの工房だ。

加藤さん:
「これが柿渋なんですけど、夏の実が青い時季のものを収穫して、潰して出た液体を発酵させたものが柿渋で、主に染色とか塗装に使われたりします。文献によると、平安時代から人の生活に結び付いてきたものですね」

柿渋は、抗菌や消臭、防虫に防腐、さらに防水と、万能の効果がある天然素材で、衣服をはじめ、和傘や木工品の塗料としても利用されている。

加藤さんは、「伊自良大実柿」のみを使う柿渋染め職人として、様々な生地を染め上げる。染めるほどに色味は濃くなるため、数か月かけて重ね染めすることもある。

加藤さん:
「簡単にたどり着けない色なので、だからこそやりがいがある」

工房では、体験教室も開いている。

柿の文化を広めるための活動だ。

■秋は干し柿の季節 吊るした時の見栄えにまでこだわる「気遣い」

 毎年秋、「伊自良大実柿」の畑で、干し柿に適した大きなサイズを収穫する。

加藤さん:
「伊自良大実柿のひとつの特徴で黒いものが波線打つんですよ。形もちょっと縦長。木の数は1000本くらい。ちゃんと管理されているのは500本くらい。本当に貴重な柿です。少なくとも、今の数は維持して守っていきたいなと思っています」

地主から許可を得て、手入れが行き届かなくなった木を管理し、柿を収穫している。しかし、高齢化や後継者不足で生産者は減り続け、今では加藤さんだけでは管理しきれない数に。

生産者不足の解消のためにも、「干し柿で伊自良大実柿の魅力を伝えたい」と加藤さんは言う。

柿を収穫したら、干すまでにも工程がある。ヘタの葉をちぎり、専用のかんなで皮を剥く。かんなは小ぶりな柿の実が少しでも残るよう、皮が薄く剥けるように作られている。

コツは、かんなではなく柿を動かすことだ。

皮むきの機械化を試みた人もいたが、仕上がりの美しさはカンナに敵わなかった。

加藤さん:
「(かんなを)作っている人が亡くなってしまいまして、いま現存するのみで、毎年みんな使ったらきれいに洗って大切に保管してとってあるって感じです。昔から受け継がれてきた大事な道具なので、残していきたいですね」

伊自良の干し柿作りには、いくつもの手作業がある。

加藤さん:
「だいたい干し柿はヒモで吊るして干すんですけど、伊自良大実柿はヘタが弱くて落ちちゃうので、串を刺してるんです」

串を刺す位置は、中央の種を避けたヘタの1センチほど下と決まっている。

加藤さん:
「最初に真ん中(の柿に)刺して、そのあとに端(の柿)に刺すんですけど、(両端の柿は)突き抜けないように、指で串を感じながら刺して。突き抜けちゃうと、カビが生えやすくなっちゃうので」

3つ並んだ柿は、親、子、孫を表し、「子孫繁栄」の願いが込められている。

次に、藁で串を挟み、編み込んでいく。右巻きで藁を捻じったら、隣は逆に左巻きにすることで、まっすぐ吊るすことができるという。藁の先端はヨリをかけ、切れないよう強度を上げる。

加藤さん:
「パッと見、わからないような気遣いが、色々ありますね」

棒に吊るしたら、殺菌と変色を防ぐために硫黄の粉末を燃やし、燻す。

こうした工程を経て、ようやく軒先に吊るす。

3週間ほど干せば、「伊自良大実連柿(いじらおおみれんがき)」の完成だ。

■「この場所で人生の目標見つけられた」元システムエンジニアが描く夢

 先人たちが作り上げた、見た目にもこだわった伝統の技。この伝統を継ぐ加藤さんは、地元の出身ではない。伊自良を初めて知ったのは、東京でシステムエンジニアとして働いていた30歳の時だった。

加藤さん:
「自分の役割を見つけたいっていうところがあって」

自然豊かな環境で自分にしかできないことはないかと、縁もゆかりもない山県市の「地域おこし協力隊」に志願し、「伊自良大実柿」と温かく迎え入れてくれた地域の人々に出会った。

伊自良大実連合会の代表:
「(伊自良大実連柿は)100年くらいの歴史がありますので、絶やさずに残したいというのが私の思いなんですね。彼はその事を理解してもらえていますので、非常にありがたい存在ですね」

加藤さん:
「この柿を守っていく役割を見つけられたと思っていて、生きる目標というか、人生の目標みたいなものを見つけられたんですよね、この場所で」

加藤さんは、得意分野のネットで、先輩たちが作った「伊自良大実連柿」を代行販売している。

「伊自良大実連柿」(5段M 4900円)

一口かじれば、もちっとした心地よい食感に芳醇な柿の味わい、ギュッと凝縮された甘みが広がる。太陽の恵みと伊自良の大地が生み出した、守るべき地元の宝物だ。

地元の男性:
「あまり小さい時から干し柿は食べた事がなかったんですけど、これ食べてみて、こんなに甘いものかとびっくりした」

別の地元の男性:
「毎年食べていて、好きすぎて親戚とか知り合いに配っているので、今年もすごく楽しみです」

加藤さんは「まだまだ修行中」と、自ら作ったものは販売していない。先人の技を全国へ広めたいという思いが第一だ。

加藤さん:
「伊自良大実柿の後継者をつくる仕組み作りというのが大きな目標なので、そのために本業の柿渋染めを今よりしっかりして、僕を土台にして多くの人が来てくれればなと思います」


「伊自良大実連柿」は加藤さんが運営する「柿BUSHI」のHPから購入できる(2022年分は完売)。

2022年12月5日放送