「仮面ライダー555」などの戦隊ヒーローとして活躍した元俳優の男性が、経営する愛知県武豊町の飲食店で月に2度、こども食堂を開いている。こども食堂では「目を見て挨拶する」「食べ物を残さない」の2つをルールにしている。たくさんの笑顔を生むために活動する地元の「ヒーロー」を取材した。

■ルールは2つ…元戦隊ヒーローが営む「こども食堂」

 愛知県武豊町の飲食店「知田原(ちたばる)共同店2号店」。

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日が暮れると、子供たちが次々と訪れた。

この店で月に2回開催される「こども食堂」だ。

子供だけでなく、大人も飲食が全て無料。みんなで夕食を楽しむことができる。

その代わり、ルールがある。

男の子:
「こんばんは」

原田さん:
「ちゃんと目を見て言おうか」

男の子:
「(目を見て)こんばんは」

原田さん:
「はい、こんばんは。どうぞ」

ルールは、目を見て挨拶すること。

原田さん:
「相手の目を見て意思疎通をするクセをつける。だからここは、挨拶の練習をする場だよって」

食堂の入口で子供たちと挨拶していたのは、店主の原田篤(はらだ・あつし)さん(44)。

原田さんは元戦隊ヒーローの俳優だった。

原田さん:
「いくぜ!おう!着装!…恥ずかしいですよ」

「仮面ライダーファイズ」や「救急戦隊ゴーゴーファイブ」など、子供たちのヒーローを演じていた。

愛知県半田市の出身で、大学1年の時にスカウトされ俳優の道へ。戦隊ヒーローを皮切りに、ドラマなどで活躍した。

その後、東京で飲食店を開き、一時は5店舗まで増やしたが、コロナ禍で休業に。日本一周の旅をしたあと、20年ぶりに地元に戻ってきた。

原田さん:
「地元の後輩から、他の地域でイベントをやったり盛り上げるくらいだったら、『知多半島が今元気がないから、原田さん戻ってきてくれませんか』みたいなことを、何人か言ってもらって。それで戻ってきてみたら、子供のころ元気だった町が静かになっていたりだとか。『何か恩返ししなきゃ』みたいな気持ちが急に出てきた」

2021年、愛知県常滑市にこども食堂を開き、地域の人たちが集まる場を作った。

原田さん(2021年11月30日):
「いっぱい食べてください。ちゃんと挨拶!OK!」

原田さん:
「挨拶ができる街は活性化していくと思うし、コミュニケーション能力豊かな人が知多半島に来れば、おもしろいなと思っています」

常滑のこども食堂はその後、原田さんの思いに共感した地元の有志が引き継ぎ運営している。

2022年6月からは、原田さんが経営する居酒屋「知多原共同店(ちたばるきょうどうてん)」で、こども食堂を始めた。第2と第4火曜日の夕方から開いている。

食材などの費用は全て自前。スタッフは地元を中心としたボランティアで、運営資金も募金で賄っている。

料理は原田さんの手作りだ。地元の食材を使ったメニューを提供している。

男の子:
「おいしい」

母親:
「みんなと食べられるからうれしいと思う。たくさん食べてくれる」

女の子:
「(原田さんに)おかわりください」

原田さん:
「どのぐらい食べられる?」

女の子:
「半分」

原田さん:
「食べ過ぎるとお腹痛くなっちゃうもんな」

料理を残さないことも店のルールだ。おかわりは自分で食べられる量を自分で伝える。

原田さん:
「(お皿を渡し)はい、なんて言うんだっけ?」

女の子:
「ありがとう」

原田さん:
「ちゃんと目を見てって約束したでしょ」

女の子:
「(目を見て)ありがとう」

原田さん:
「『挨拶しようね』『いろんな人に声かけよう』『もっと夢を持とうよ』と言っても、なかなか難しいと思うんですよ。だけど、無料でこども食堂をやると、いろんな人が来てくれるので、その時に自分の思いを伝えたい。夢のために何かやってみるとか、人と触れ合うことでできたらと思って、続けてきたのもあるので」

■子供たちにもっと夢を…「ドラゴンボール改」の主題歌歌う歌手らも協力しMVを作成

「知多半島の子供たちにもっと夢を持ってほしい」。地元に戻って1年半が経った原田さんは、次の1歩を踏み出した。向かった先は、武豊町と同じ知多半島にある阿久比町の英比(えいび)小学校だ。

原田さんは知多半島を元気にするために、オリジナルの歌でミュージックビデオを作ろうと計画していて、この日は校長に、ポスターを貼ってほしいと依頼した。

原田さん:
「これ(ポスター)、学校に貼ってもらえるように…。少しでもたくさんの方に来てもらえたらと思っているので」

歌のタイトルは「ARIGATOU」。「ドラゴンボール改」の主題歌などを歌っている、谷本貴義(たにもと・たかよし)さんら、東京時代の仲間が手弁当で作ってくれた。

原田さん:
「一番は間違いなく、感謝の気持ちです。この場所で育ててもらって、応援してきてもらったんですよ。その気持ちを地元に返したい。もっともっと夢見てほしい。楽しいことって作れるんだよっていうことを、子供たちにも大人たちにも、もう一回考えて欲しいなと思って」

■子供たちには今でも人気…小学校やイベント会場でMVの出演協力に奔走

 ミュージックビデオは数百人を集めて踊るダンスシーンがメインで、知多半島の名所で撮影した映像を加える。出来上がった映像はインターネットで配信するほか、誰でも自由に使えるようにして、知多半島の魅力を全国に発信しようと考えている。

原田さんは小学校などを回り、ダンスの参加者を募ることにした。教室へ案内してもらえたので、子供たちに直接呼びかけた。

原田さん:
「元仮面ライダーです」

児童:
「なんの仮面ライダー?」

原田さん:
「僕は仮面ライダー555(ファイズ)っていう…」

児童:
「知ってる!」

原田さん:
「今度の日曜日なんだけど、ミュージッククリップを武豊中央公園で撮るので、もし時間がある方がいたらみんな来てください。お父さんお母さんとかと話をして、ぜひ集まってください」

児童:
「全員行くぞ!」

原田さん:
「来てよ、本当に!」

原田さん:
「バイバイ」

児童:
「ヒーローさん、バイバイ」

原田さん:
「ありがたいですね。ああいうことを言ってもらえたりすると、ヒーローものやらせてもらって、うれしかったなと思いますよね」

児童たち:
「サイン!サイン!」

授業が終わると、子供たちからのサイン責め。何年経っても、ヒーローだ。

準備の合間を縫って、原田さんはギリギリまで参加者を募った。イベント会場に足を運び、ビラを配る。

原田さん:
「これ、もしよかったら、来週やるので来てみてください」

原田さん:
「人数どうなるかわからないですけど、ここに参加してもらった人たちがどう変わってくれるかが、僕の中ではすごく楽しみで」

■MV撮影当日は長蛇の列…「恩返しがしたい」と全国から応援に

 迎えた撮影当日。

受付には長蛇の列ができていた。集まってくれた人たちの年代も様々だ。

男性:
「今日は西尾市から来ました」

女性:
「私は大阪です」

別の男性:
「奈良県から来てます。ゴーゴーファイブ時代から大好きだったんで、恩返しがしたいなっていうので」

また別の男性:
「北海道から来ました。原田さんの応援で、それだけで来ました」

原田さんのファンも全国から応援しに来てくれた。盛り上がりは十分。歌手の谷本さん本人も駆け付けてくれた。

谷本さん:
「(会場の参加者に)みなさんと一緒に知多半島を盛り上げていけたらと思いますので、お力添えの方よろしくお願いします!」

谷本さん:
「うれしいですよね。町ぐるみで協力してくださるようなことになるなんて、ビックリですよね」

原田さん:
「じゃあいきますよ!」

参加者、ボランティアスタッフを合わせて、総勢232名。

しっかりと練習をした後、撮影開始だ。

原田さん:
「同じ方向にパワーを持って来てくれたっていうのが、すごくうれしくて。『ARIGATOU』という曲と歌詞を理解してくれて、それをしっかりと伝えようとやってくれたから、それをずっと見ているだけで泣きそうでした」

原田さん:
「これがあれば、知多半島が絶対明るくなるって、確信めいたものが自分の中で生まれた」

原田さん:
「ありがとう。OK!」

出来上がったミュージックビデオは、原田さんのYouTubeチャンネルで配信している。