ロシアによるウクライナ侵攻が始まって既に1年以上が経っている。ウクライナ人の800万人以上が国外に避難し、そのうち約2300人が日本に来ている。東海地方にもウクライナから避難した人や、以前から住んでいるロシア人もいる。それぞれの1年を取材した。

■侵攻から1年…来日したウクライナ国籍一家 長女は日本語が上達し次女にも笑顔増える

マリッチ・ナタリヤさん:
「おはようございます。よろしくお願いします!」

ハキハキと日本語で出迎えてくれたのは、岐阜県各務原市に住む、ウクライナ国籍のマリッチ・ナタリヤさん(33)だ。

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2023年2月16日の朝、小学校に通う長女のエヴァちゃん(11)と…。

幼稚園に通う次女のミアちゃん(3)の娘の準備をテキパキとこなしていた。

Q日本での生活で大変なことは
ナタリヤさん:
「ない、大丈夫」

激しい戦闘が行われるウクライナ東部・ドネツク州にある都市が、ナタリヤさんの故郷だ。

侵攻の開始後まもなく周辺地域での戦闘が激しくなり2022年3月、国民総動員令で国外へ出られない夫を残し、母親と娘2人とともに姉の住む日本に避難してきた。

ナタリヤさん(2022年4月・日本語訳):
「住んでいた街から離れるのはつらかった。夫はそのままウクライナにいますし」

エヴァちゃん(2022年4月・日本語訳):
「(日本の生活は)少し心配だけど楽しみ。算数の勉強がしたいです」

2022年5月、言葉が一切わからない国で、不安な新生活が始まった。

初登校した長女のエヴァちゃんは…。

先生:
「挨拶の勉強をします、礼」

そして、次女で3歳のミアちゃんは…。

ミアちゃん:
「ママー(大泣き)」

ミアちゃんは、日本食が食べられなかった。

来日から1か月後の2022年6月にも、日本での暮らしについて聞いた。

ナタリヤさん(2022年6月・日本語訳):
「やっぱり本当の家じゃないから落ち着かないです。生活に慣れるのは大変」

そして、来日から間もなく1年となる2023年2月。一家は、市から無償で提供された市営住宅に住み、支援団体による1人あたり月6万円の補助金で生活していた。

子供たちもすっかり慣れたようで、ミアちゃんにも笑顔が増えていた。

姉のエヴァちゃんは、日本語も上手になっていた。

Q学校は楽しい?
エヴァちゃん:
「うん、楽しい」

Q何の授業が楽しい?
エヴァちゃん:
「算数、国語。(算数は)割り算、できる」

Q本当に日本語上手になったね
エヴァちゃん:
「うん!」

ナタリヤさん(日本語訳):
「母親としてとてもうれしいです。日本のご飯をたべて、友達ができて安心。子供たちが頑張っているから、私も頑張れます」

ナタリヤさんは日本でのつながりを広げようと、アルバイトもしていた。

心配なのは、いまも警察官として地元に残る夫。国民総動員令が継続しているため、日本には来られないままだ。

ナタリヤさん(日本語で):
「私は、今とても苦しい状況です。苦しくなる時、ウクライナでの戦争について考える」

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 続くウクライナへの侵攻。国連人権高等弁務官事務所などによると、これまでに民間人の死傷者は21,000人以上、また、国外への避難民は808万人以上とされている。日本にも、2300人あまりが避難している。(2023年2月現在)

プーチン大統領(年次教書演説・2月21日):
「(特別軍事作戦の)目的を1つずつ、丁寧に達成していく」

2月21日、侵攻1年を前に、この戦いを最後までやり遂げる“決意”を示した、ロシアのプーチン大統領。ウクライナのゼレンスキー大統領は「理解できない訴えだ」と怒りをあらわにした。

2022年3月に、ウクライナから名古屋市に避難した、アフマドジャノヴァ・アリーナさん(21)。

家族や彼氏に会うため、2022年10月に一時帰国すると、待っていたのは変わり果てた故郷だったという。

アフマドジャノヴァ・アリーナさん(日本語訳):
「戦争で街は変わってしまった。物が壊れていたり、外出制限があったり、元の生活とは全然違った。久しぶりに空襲の音を聞いて怖かった。でもずっといると、それも慣れてしまう」

その様子を見せてほしいと頼んだが…。

アリーナさん(日本語訳):
「ウクライナで街の写真や動画は、撮っちゃいけないと言われました」

軍事情報の映り込みやスパイと疑われることを防ぐため、写真や動画の撮影は控えるよう国が通達しているという。

そうした中で撮影できたのは、大好きな家族との写真。祖母や…。

母と…。

そして…。

アリーナさん(日本語訳):
「帰った時に、彼と婚約しました。2人が好きな公園で『私の奥さんになりませんか』と言われて」

Qいつ結婚を?
アリーナさん(日本語訳):
「『ウクライナが勝ったら』と話しているけど…。早く戦いが終わって帰りたいです」

ウクライナから戻り、アリーナさんは日本語の勉強を続けている。

日本語教師:
「これは日本語でなんですか?」

アリーナさん:
「免許証です」

侵攻が妨げる、幸せな未来の実現。

■人生で一番泣いた1年…戦争で親友との友情引き裂かれたロシア人女性

 2023年2月9日、岐阜市で(に住む?)、日本に住んで25年になるロシア国籍の女性(48)を訪ねた。2022年は、人生で一番泣いた一年だったという。

ロシア国籍の女性:
「(侵攻開始直後)軽いうつ病みたいになって。恥ずかしくて、こんな自分の国がそんなことしてるから。それこそ、『ロシア人がごめんなさい』って時もあったんですけど、これは日本の方に感謝したい。1回も『ロシアちょっと…』ってされたこともないし、逆に心配される」

2022年8月に取材した際、ロシア国籍のこの女性は、ロシアからある動画を送って来た現地の親友と、絶縁状態になったと話していた。

その動画は、線路沿いにロシア軍の戦車がズラリと並んでいる様子を撮影したものだったという。侵攻が始まった2022年2月に撮影されたものだ。

ロシア国籍の女性(2022年8月):
「心配して送ってくる映像じゃない、自慢してる。それが私にはすごい不思議だった。危ないって気持ちじゃなくて、自慢してるの。これだけ(戦力が)あるって。私、それみた瞬間に『は?』って思った。私の40年付き合ってきた友達、青春を失ったというか奪われた、戦争に」

2023年2月、地元の同窓生でSNSのグループが作られたことをきっかけに、親友との連絡が再開したが、侵攻については話題にできなかった。

ロシア国籍の女性:
「この2人は私の一番の親友。(連絡が来て)すごくうれしかった。『命の大事さを感じるようになってきた』って言われた。私は気持ちの変化があったとは言ってない。でも『もう戦争の話はやめよう』『もっと日常的な話をしましょう』って言ってきたから、彼女はこのテーマはだいぶ面白くないんだよね」

引き裂かれ、完治しないままの友情。

■2人の子供と日本に避難した女性「心はここにない、でも前に進むしかない」

 侵攻からおよそ1年を迎えた2023年2月中旬、各務原市に避難しているナタリヤさんの次女で3歳のミアちゃんは、日本食も食べられるようになり、友達もできていた。

先生:
「ミアちゃん、おはようございます」

ミアちゃん:
「おはようございます」

さくら幼稚園の宮川純子先生:
「もうすっかり慣れて、お友達とも仲良く遊んでますし。いっぱいお話しできるようになってきて、元気にいつも過ごしてます」

そして、お姉さんのエヴァさんも…。

子供たちが日本に慣れ、成長した1年。しかし、大好きな父親に会えなかった1年だった。

ナタリヤさん(日本語訳):
「子供たちは『パパに会いたい』って」

ナタリアさんの姉スビトラーナさん(39):
「今日はエヴァの授業参観日で、『私のパパは世界で一番。ウクライナ守ってくれてありがとう。離れていてもずっとパパのことしか考えてない』って」

ナタリヤさん(日本語訳):
「今、未来のことを考えるとパニックになります。1年後、2年後どうしたいって考えられない。自分の人生の運転をしていない感じ。本音を言えば、心はここにありません。でも前に進むしかないです」

奪われた家族の時間、見えない未来。「平和」を訴える、それぞれの1年。

2023年2月24日放送