国の「GIGAスクール構想」で、1人に1台ずつタブレットなどが配られたが、同じ公立の小学校でもタブレットを活用した教育レベルに大きな格差があることがわかった。なぜ格差が生まれるのか。

■バトンパス技術の練習にも“タブレット” ICT教育でフル活用する小学校

 名古屋市東区の市立矢田小学校。

【動画で見る】ただの連絡帳と化した学校多く…『タブレット教育』格差はなぜ生まれるのか 同じ学校で“先生単位で差”も

この日、体育の授業で、児童たちがリレーのバトンパスを練習していた。

その傍らで、児童が使っていたのは、タブレット端末だ。

女子児童:
「動画を見て思ったんだけどさ、他のところは上からやってるね」

別の女子児童:
「そうだね、(バトンの手渡しを)上からやってるね」

女子児童:
「(タブレットの動画を見ながら)ここの時に、渡してからがちょっと(スピード)ダウンしちゃってるから、そのまま。ばーっと走った方が…。今度ちょっと順番変えてやろっか、次、撮る人?」

別の女子児童:
「じゃあ、私撮ります」

バトンパスの様子をタブレットで撮影。

その動画を見て、「どうしたら上手くできるか」みんなで考えていた。

名古屋市立矢田小学校の藤谷浩一校長:
「6年生体育の授業で、バトンパスの仕方について焦点化をしてやっているところですので。比較的、普通に体育の授業でもタブレットを活用する」

2019年に国が打ち出し、2021年から本格的にスタートした「GIGAスクール構想」。子供たちに1人1台ずつデジタル端末を配布し、授業に通信を活用する「ICT教育」を加速させる構想で、矢田小学校ではさまざまな授業でタブレット端末を活用していた。

6年生の算数の授業では、子供たちは、全員タブレット端末を広げていた。

先生:
「机も移動してもいいよ。いつも通りね」

算数の授業だが、子供たちは一斉に移動した。中には席に座っていない子や…。

廊下に出てしまう児童もいた。

Q.なぜ廊下で勉強を

男子児童:
「涼しいから。自分に合ったことができる感じ」

別の男子児童:
「(友達と)一緒にできて自由にできるから楽しい」

一見、学級崩壊しているかのようにも見えるが、これこそがタブレット端末を活用した“授業のカタチ”だという。

藤谷校長:
「こういう授業をやると、できる子はそのまま続けていくし、できない子にもサポートに入りやすくなるっていう、自由進度的な学習を取り入れながら…。しかもこれは、ICTがあるからこそ上手くいっている」

授業では、子供たちが課題の理解度に応じてタブレットでカードを提出。先生は、子供たちの理解度を把握したうえで、個別でアドバイスができる。

女子児童:
「友達とやれるから、楽しみながら勉強できる」

男子児童:
「わからないことがあったら友達にもすぐ聞けるし、自分で解決方法とかがわかったり、みんなでやるより自分のスピードでできるからラク。楽しくできる」

子供たちの親世代が見ると、信じられないような光景が広がっていたが、この「タブレット教育」に大きな格差があることが、いま問題となっている。

■「学校ではあんま使っちゃダメって言われる…」1年待ちのプログラミング教室は

 千種区にあるITプログラミング教室「クリエイターハウス」。

藤井さん:
「条件としては、いま配列を使ってクリアできました」

約90人の小中学生などがプログラミングを学んでいて、基礎的な操作からオリジナルのゲーム作りまでおこなっている。

男子児童:
「いまは爆弾を解除するゲームを作っています」

最大で1年待ちというこの塾。通っている子供には、ある共通点があった。

Q.学校でプログラミングの授業は?

男子児童:
「学校ではない。1か月に1回くらい」

男子生徒(中学1年生):
「小学校ではタブレットをあんま使っちゃダメだよって言われていて、それでこういう場所に通うようになりました」

学校でタブレットを使った授業がほとんどないため、プログラミングの塾に通っていた。

藤井さん:
「(GIGAスクール)構想自体は素晴らしい構想、考えだなというのは思っていますけれども、構想だけで実態が伴ってないなっていうのは、日々子供たちと接している中で感じているところです。スクラッチ(学習ソフト)禁止にされたとか、使っちゃダメだって担任に言われたとか言って、禁止令が発令されたりとか。クラス単位でもすごい差があったりとか、先生単位で差があったりとかっていうのを見聞きしています」

同じ名古屋市立の学校でも、タブレット教育に大きな格差があり、ほとんど活用できていない学校もあるという。

■タブレットがただの連絡帳と化す学校も

「GIGAスクール構想」の現実はどのようなものなのか。タブレットの活用度が一般的な水準だという、昭和区の市立の滝川小学校を訪ねた。

5年生の教室。「言葉の意味」を調べる国語の授業では…。

先生:
「きょう色々調べるから、わからないことがあったら、その時はタブレットで調べてくれてもいいし、国語辞典で調べてくれてもいいです」

この授業ではタブレットを使うかどうかは自由で、25人のうち約半数が使っていなかった。

社会の授業では…。

先生:
「シンプルQRツールってやつ、これ入ってるはずでしょ。これ使って、自分のQRコード読み込んでみて」

男子児童:
「すげー!」

国が推奨するデジタル教科書にあるQRコードを読み取って、「地球上の大陸」を調べていたが…。

男子児童:
「先生!開きません!」

先生:
「地球儀が出てくる人と出てこない人がおるみたい」

通信速度が遅く、なかなか上手くいかない。

先生:
「まだ見られてない人おる?おったら近くの見られているお友達と一緒に見せてもらって!先生のも開いとらんけん…」

女子児童:
「バグったりしますね、たまに」

男子児童:
「接続が悪いから、そんな使いやすくはない」

鉄棒をしていた体育の授業でも…。

タブレットを活用することはなく、紙のプリントを見ながら練習していた。

実際、タブレットを何に使っているのか。子供たちに聞いてみた。

女子児童:
「(家での)勉強は特にタブレットを使ったりはしないです」

Q.何に使っていますか

女子児童:
「連絡帳とか見るときとか」

別の女子児童:
「充電するだけに今は持ち帰っている状況で…。ぶっちゃけ持って帰ってメリットがあるかと言われると、私的にはあんまりないなって思います」

子供たちにとってはタブレットがただの連絡帳と化していた。

しかし…。

名古屋市立滝川小学校の土屋眞治校長:
「子供たちに学びは機会均等にしてあげたいので、こちらの学校はすごく良い教育が受けられて、こっちの学校がそこまでではないっていう風にはしたくない。やはり学校間格差かなと思って」

この小学校が特段遅れているわけではなく、名古屋市立の多くの小学校がこの現状だという。

■市教委に根本的な解決策はなし タブレット配布先行で始まったデジタル教育

 なぜ、同じ名古屋市立なのに、格差が生じてしまうのか。

土屋校長:
「先生達の中には、やはりちょっとパソコン苦手だとか、こういうの使った授業ってやりづらいって感じてる先生もいることは事実。予算の中では先生達も精一杯、どうやって使うと効果的かっていうことを考えながらやっていますけど、まだまだ十分足りてないかなという風に思います」

上手くタブレットを活用していた矢田小学校は、デジタル教育を進める市のモデル校だった。

そのため、専門知識のある支援員や機器の整備などの予算が組まれ、先んじて導入していた。

しかし、多くの小学校は、先生個人の能力や予算面の問題などが原因で、なかなか活用できずにいた。

土屋校長:
「学校によってはそういったこと(ICT教育)に予算を非常にあてて、機械だとか人にそのお金を使って充実させている学校もあれば、一般の公立小学校だと、普通に予算がおりてきた中でやりくりしなきゃいけないものですから、そういった予算面での差かなという風には思うんですけど」

この「タブレット教育格差」について、市の教育委員会は…。

名古屋市教委学校DX推進課の担当者:
「環境の変化のところで、先生たちがまだまだ慣れていないというところが、大きな原因のところにはなってきているかなと。その学校とか、あるいはその学年やクラスによって差があるというようなことは、肌感覚としては捉えているところです」

“学校ごとの格差”だけでなく、先生1人1人の能力の違いによって格差があることを認識。先生に向けた研修会を行うなど対策を進めているが、格差をなくす根本的な解決策は見いだせずにいた。

DX推進課の担当者:
「まずは導入したものを、それぞれ先生方に工夫をしていただきながら使っていただくというところから取り組んでいるところですので、その後の差を埋めていくところは今後のところになってくるかなという風に思っております」

デジタル教育は過渡期にあるが、日々成長する子供たちのために、一日も早い対策が求められている。

東京の聖徳学園中学・高校の教師でGIGAスクール構想の前からデジタル教育を導入している品田健さんによると、もともとGIGAスクール構想は2023年に実現する予定だったが、コロナ禍でリモート授業などの必要から前倒しされ、2021年に本格スタート、そのため体制が不十分だったと指摘する。

そもそも教師の業務が多すぎるので、その負担を減らしICT教育を取り入れる余力が必要だとも話していた。

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2023年4月27日放送