幼い子供を持つママ候補が子供を連れて街頭に立ったら選挙違反?子育て支援や女性活躍を大きな課題となっている日本で、格好の代弁者となる女性議員がなかなか増えない要因の一つに、子育て中の選挙の難しさがある。

■子供をおんぶして選挙演説するのは違反か わかりにくい“子連れ選挙”の線引き

 4月9日に実施された名古屋市議選に北区選挙区から無所属で立候補した、石井知子(いしい・ともこ 38)さん。

【動画で見る】幼子抱っこして街頭演説は“選挙違反”の恐れ…女性立候補のハードル『曖昧なルール』子育てママの声は届くか

春休み中の子供3人は日中、夫の実家へ。夕食の時間には連れて自宅に帰り、食事を摂らせてから再び選挙活動へ向かう。

石井さんの娘(6):
「いやだ~ママ行っちゃダメ」

この春小学校に入ったばかりの次女は、まだまだ甘えたい年頃。どうしてもスケジュールに影響が出るが、石井さんは子供たちを選挙活動に連れて行くことはしない。

石井さん:
「連れてったらきっとビラを配りたくなっちゃうし、手を振るのもダメなのでそれを止めるとちょっとかわいそうかな」

連れて行った子供が手を振ると、選挙違反になる恐れがある。

2022年夏の参院選に東京選挙区から立候補した、田村真菜(たむら・まな 34)さん。子供をおんぶしながら、選挙活動をしていた新聞報道の写真をきっかけに、“子連れ選挙”がクローズアップされた。

田村真菜さん(34):
「あの記事を見て(選挙)違反だという声を多くいただいて、『こいつ捕まえた方がいいんじゃないか』みたいな電話が、東京都の選管に100件以上とか、かなり電話が入ったらしくて」

子供を連れて街頭に立つのは、選挙違反なのか。田村さんの息子は当時3歳。保育園に通っていたが「不登園」気味で行けない日もあった。

同居のパートナーは仕事で家を空けることが多く、実家は片道2時間の距離で毎日頼ることは難しい状況だった。

田村さん:
「事務所に連れていくとか、街頭に一緒に行くしかないという日があった。街頭では、やっぱり基本的には離していてもらうように心がけていたんですよね」

活動中は幼い子供でも離しておく。その理由は法律にある。公職選挙法には、「18歳未満の者は選挙運動をすることができない」「何人も、18歳未満の者を使用して選挙運動をすることができない」と書かれている。しかし条文には「選挙運動」がどういった行為を指すのか、明記されていない。

田村さんも曖昧なルールに迷い、一つ一つ都の選管に確認はしていたが…。

田村さん:
「(選挙期間中に)子供を保育園に迎えに行く送迎で一緒に歩いているのも『微妙です』みたいなことを言われて『それって私がやるしかないけど』みたいな」

気を付けて活動していたが、幼い子供がいつも言うことを聞いてくれるわけではない。

田村さん:
「選挙期間中に(子供が)疲れて降りたくない、みたいになっちゃって、おんぶで演説している写真を朝日新聞さんが記事にして。『(選挙)違反だ』という声を多くいただいて」

都の選管は「選挙運動ではなく、“同行”なので問題ない」という見解を示したが、ぐずる子供を仕方なくおんぶして街頭に立った行動が多くの人に“選挙違反”と誤解されてしまった。

田村さん:
「わかりにくかったし、生活できなくない?みたいな感じです」

■投票を呼びかけたら「子供を抱っこしながら演説」はNG 総務省が見解

 この問題は、国会でも取り上げられた。

伊藤孝恵参議院議員(2022年11月の参議院特別委員会):
「子連れ選挙なんてとか、お母さんが赤ちゃんに授乳をしながら選挙をすることが、全く想定されていなかった。そういう中で、前例が積み重なっていっていない。なので、照らし合わせて判断することが難しいという声が聞かれています」


2022年11月、総務大臣に“子連れ選挙”について質問をした伊藤孝恵(いとう・たかえ 47)参院議員も、子育てをしながら選挙を戦った1人だ。

自身の経験を踏まえ、13の具体例を挙げて総務大臣に見解を求めた。

この時の答弁に基づき、総務省は2023年3月“子連れ選挙”の15の具体的な事例が選挙違反にあたるかどうかまとめた見解を、各都道府県の選挙管理委員会に通達した。

そこでは、「選挙カーでの授乳」や「当選後に子供とバンザイ」をすることなどは“差支えない”とされたが、「子供を抱っこしながらの街頭演説」や「子供が候補者やスタッフと歩くこと」などは、投票を働きかけた場合、“公職選挙法に抵触する恐れがある”とされている。

伊藤参議院議員:
「父親や母親が一生懸命自分の思いを述べる姿をみせてはならない、それを見ていた子供たちが手を振ったらそれは公職選挙法違反である。ここの線引きやバランスというのに対して、法律のみならず社会がどういう風に線引きをしていくかっていうのも、またひとつ論点だと思う」

2022年の参院選に挑戦した田村さんは、自分と同じ境遇の女性候補を少しでも支えようと2022年10月、同じ問題意識を持つ議員らとともに、立候補する女性を支援する「こそだて選挙ハック」を設立した。

この日は、産後2か月で今回の統一地方選にチャレンジする女性候補の元を訪ね「子供がポスターを貼るのは問題ないか」という問いに答えた。

田村さん:
「それも労務だから(OK)。ただ、ポスター貼りながら子供が『うちのママよろしく』っていうのはダメだとか…」

総務省の通達内容などをもとにアドバイスを行っている。また“子連れ選挙”に関するルールを、わかりやすくまとめた。

リーフレットにしてWEBで公開している。

■子育てしながら立候補する女性をもっと…選挙中の保育園の利用はOKに

 子育て中でも立候補しやすくしようという取り組みは、神奈川県鎌倉市でも行われていた。

鎌倉市でビーチや路地の清掃活動をする藤本麻子(ふじもと・あさこ 38)さんは現職の鎌倉市議で「こそだて選挙ハック」の発起人の1人だ。

会社員時代に、育児中の女性の働きづらさに違和感を抱き、2021年4月、選挙に初挑戦。

夫も普段より多く育児や家事を分担したが両立は難しく、当時まだ小学校入学前だった息子を1週間、県内の実家に預けて選挙戦に臨んだ。

藤本市議:
「70歳近い母親が(息子を)預かることはあるけど、朝から晩まで7日間っていうのは大変だったみたいで、最終日にすごく具合悪くなっちゃって。投票日の夜、結局母親を救急で病院に連れて行って、一緒に開票を見守るみたいな形になっちゃったんですよね」

こうした経験もあって「こそだて選挙ハック」の活動の中で聞いた悩みを、市議会で質問した。

藤本市議(議会での質問):
「子育て中の人が立候補を目指すに当たり、目下大きな課題があります。それは保育園や学童に子供を預けられなくなってしまうということです」

保育園や学童施設は基本的に親の就労が要件だが、立候補のために仕事を辞めたり減らしたりすると要件を満たさなくなったとみなす施設もあった。全国的に共通の見解はなかったが…。

鎌倉市の担当者:
「立候補に向けた選挙活動または政治活動は、保育所や学童の入所要件に当たるということが考えられます」

「選挙活動は入所要件に当たる」という答弁を、鎌倉市から引き出した。

この問題を巡っては、2023年に入って国会でも岸田総理が同様の答弁を行い、自治体に周知すると明言している。

藤本さんは、子育てしながら政治に取り組む姿を見てもらうことで「自分も立候補できるのでは」とチャレンジする女性を増やすことが目標だという。

藤本市議:
「私みたいな人が増えていくと、政策ややり方の違いとか、有権者の目が肥えていく。こっち(女性議員)が増えてくると政治っていう感じ」

2児の母親:
「麻子さん(藤本市議)が子育てをしながら母親当事者として戦っている姿を見て、選択肢のひとつに自分が(選挙に)出るっていうのも『もしかしたらあるのかな』って考えられるようになったっていうだけでも、すごく変わってる」

子育て真っ最中の女性の声を、もっと届けやすく。その思いは少しずつ広がっているようだ。

2023年4月18日放送