多い日は1日に200人程も…広さ中部地区最大の『献血ルーム』訪れる人々それぞれの“きっかけ”
慢性的に不足がちな「献血」だが、新型コロナの影響などで深刻な状況となっている。1人でも多くの人への協力が呼び掛けられているが「献血ルーム」がどうなっているのかもあまり知られていない。中部地区最大の献血ルームと、訪れた人の「きっかけ」を聞いた。
■夜勤明けに献血に来た男性は時間を有効活用して社会貢献
名古屋駅の「JRセントラルタワーズ」の20階にある、眺め抜群のおしゃれな空間。
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広い部屋に、たくさんのリクライニングチェアが並んでいる。
ここは、中部地区最大の広さがある「献血ルーム」だ。多い日は1日200人程がやってくる。
女性:
「息抜きできて、ここにいるときはボーっとくつろいでいます」
別の女性:
「自分の祖母が大腸がんで輸血したという話を聞いて、必要な人がいるんだなと」
訪れる理由やきっかけは、人それぞれだ。献血ルームが開く、午前9時30分。
水野久さん(岐阜県多治見市・会社員 59)
「(夜勤の)仕事が9時に上がるもんですから、ここが9時半に受付が始まるのでちょうどいい時間なんですよ。泊り明けで」
夜勤帰りによく来るという、鉄道マンの水野久さん(59)。
水野さん:
「基本的に成分献血です。時間に余裕がある人間は、成分をやった方が。成分献血だと1時間以上かかっちゃうんで」
「成分献血」とは、血小板や血漿(けっしょう)だけを採取する献血。血液すべての成分を取り出す「全血献血」に比べて、体への負担は軽いものの終わるまでに1時間前後かかる。
水野さん:
「テレビとかビデオも入っているので。献血ルームによっては、インターネットができるところもあるんですけど」
Q.夜勤明けだけど寝ない?
水野さん:
「昼寝したりすると、夜、寝られなくなっちゃうんですよ。だから寝ないようにしています」
時間を有効活用して、社会貢献。素晴らしいルーティンだ。
地上100メートルにあるこの献血ルームは、晴れていれば眺望も最高だ。アイス片手に遠くを眺めている男性がいた。
男性:
「普段、山に登るので、登っている山が見えるのでその山を見ていました。自分が通ったところ、あそこからあそこまで行ったんだなというのを見ていました」
採血した後の休憩も、リラックスできそうだ。
■ドリンクも電子書籍も無料で好きなだけ…カフェ感覚で立ち寄る若者も
ふらっと立ち寄る人も少なくない。
男性(名古屋市・大学生 19):
「フリードリンクとかもあっていい感じだったので、今日も時間もあったので来させていただきました」
女性(名古屋市・大学生 19)
「献血するとドリンクが無料で飲めるので、それ目当てで来てたりはします」
献血は水分補給が大切なため、ドリンクは何杯でも無料だ。
終わったら、アイスやお菓子ももらえる。
献血ルームのWi-Fiにつなげば、7000冊以上の漫画や雑誌をアプリで読み放題で、「カフェ気分」で訪れる人もいる。
“今っぽいきっかけ”の大学生の女性がいた。TikTokの影響で献血に来たという。
女性(名古屋市・大学生 20):
「SNSでここを紹介した動画が流れてきたことがあって。こんな感じで献血の動画も結構あげていて」
女性(名古屋市・大学生 20):
「ありがたいです、本当に何も知らないので、ここ(注射部位)が見えちゃうの怖いなとかも、隠してくれるとかも書いてあったので、『え、じゃあ安心していけるじゃん!』みたいな」
ところで「献血動画」を投稿した人は、どんなきっかけだったのか。
献血動画を投稿した100円娯楽(税抜)さん(26):
「『1日100円生活というのを1か月企画でやります』となった時で、何食べよう、何かないかなとスマホで探していたら『献血 お菓子』と出てきたので『これに行こう』と。100円娯楽史上、一番再生された動画です。これを更新されることはないです」
5本の「献血動画」は、合わせて2000万回も再生されたという。
■職業柄「献血の効果」を実感…呼びかけで“初献血”に訪れた獣医師の女性
ただ、コロナ禍、冬場の外出控え、若者の「献血離れ」などで献血不足は深刻だ。愛知県では2023年1月、安定供給に必要な献血者が800人分ほど不足する事態となったという。
献血は、実はほとんどがケガによる輸血ではなく「がん」など病気の治療に役立てられている。
地下街で献血を呼びかける人:
「献血に協力をお願いします!輸血用の血液が十分足りておりません!」
血液はいま、慢性的に足りていない。
初めての献血に来たという獣医師の女性がいた。
女性(常滑市・獣医師 27):
「下の地下鉄の通路で声かけている人がいたので」
女性(常滑市・獣医師 27):
「(動物も)ちょくちょく輸血するんですけど。完璧な点滴というか、完璧な成分、血液そのものだから、本当にやばいなというときは輸血すると、次の日は元気になってすごく効きます」
日々、動物たちから「輸血の効果」を感じていたようだ。「誰かの元気」のため「全血献血」で400ミリリットル協力した。
獣医師の女性:
「意外とスッと終わって。針が太くてビビったんですけど思ったより痛くなかった。今回、献血カードは作ったので、また来たいと思います」
長年、献血に協力してきた「ベテラン」もいた。
石川幹子さん(名古屋市・非常勤講師 69)
「もう今69歳なので。10月が誕生日なのであと数回です。3,4,5,6,7,8,9…7か月」
献血ができる年齢は16歳から69歳までだ。石川さんは秋に70歳になるため、まもなく献血を「卒業」する。40年間で実に253回。
石川さん:
「(健康の)バロメーターですね。いつも送ってくるので、献血の数値なんかを。それを見て(献血が)できるときは健康だなって」
石川さんは、毎朝6キロを走るのが日課だといい、2021年には名古屋ウィメンズマラソンを4時間42分台で完走するなど、元気だ。これまでの健康な毎日は、献血とともにあった。
石川さん:
「(生活の)一部というか、スケジュールの中に献血というのが2週間に1回入れるというような。特別なことでもないというか。(献血できなくなるのは)めっちゃ寂しいです」
今後は、できるだけ長くマラソン大会に出ることが目標だ。
■「困っている人に届けば…」輸血で白血病に打ち勝った友人がきっかけの男性
午後4時。稲沢市の水谷嘉秀さんは、大切な友人が61回もの輸血を経て白血病に打ち勝った経験から、献血の大切さを身に染みて感じたという。
水谷嘉秀さん(愛知県稲沢市・会社員 53):
「友達が病気になったのもあって…。かなりたくさん輸血もしたので、少しでも困っている方に僕の善意が届けられればと」
水谷さん:
「簡単に言葉では言えるんだけど、本当に言葉ではなく人助けだなと思ったので、とてもいいことだと思っているので続けています」
自分の血液が、どこかで苦しむ誰かの救いに。献血の輪は、こうした人々の思いでも広がっている。
水谷さんは、奇祭として全国で知られる国府宮神社の『はだか祭』の神男の経験者だという。「はだか祭」は、下帯姿の男性がもみくちゃになる光景がおなじみ。
裸男たちの厄を一身に背負った「人助け」の経験者だ。
水谷さん:
「世のため人のためじゃないですけど、そういったのは共通しているかもしれないです」
■「うっかり時間を間違えて」「自分の存在価値を認める」…それぞれのきっかけで訪れる献血ルーム
“うっかり”がきっかけで献血ルームを訪れた女性もいた。
就職活動中の女性(愛知県豊明市・大学生 21):
「就活生なんですけど、時間を間違えてしまって、時間が空いてしまったので来ました(笑)。できることがあるんだったらやりたいなと思って。自分が簡単にできることかなと」
東海市から訪れた55歳の男性は111回目の献血だ
男性(愛知県東海市・会社員 55)(111回目の献血):
「自分にできる社会貢献というか、何かできることというと幸い献血ができる身体なので。 “自分の存在価値”を自分の中で認めるというか」
訪れるきっかけは人それぞれ。名古屋の献血ルームは、あたたかい血が通う、たくさんの人間模様で溢れていた。
2023年2月16日放送