置き配盗難の被害者が犯人特定に成功…位置情報知らせる『AirTag』便利な半面“犯罪に使用”のケースも
鞄や財布に入れておくと、スマートフォンから位置情報を検索できるAppleの「AirTag(エアタグ)」は便利ですが、犯罪に使用されるケースもあります。AirTagの性能、悪用された事例や対策について調べました。
■置き配の盗難被害に遭った男性がAirTagを使って追跡
置き配の盗難に度々悩まされていた名古屋市の男性は2023年4月、スマートフォンから位置情報を検索できるAppleの「AirTag」を使って、容疑者逮捕に繋げました。
男性は玄関先の駐車場に、置き配に見せかけて、AirTagを仕込んだ段ボールを設置。
被害に遭った男性:
「(位置情報が)動いていたので、気付いて追いかけた」
別の荷物を配達に来た男が離れた後、AirTagの位置情報が遠ざかるのを確認し、追いかけて声をかけたところ、配送業の男が犯行を認め、逮捕されました。
男は調べに対し「複数回、男性宅の宅配物を盗んだ」と容疑を認めているということです。
置き配盗難の被害者が犯人特定に成功…位置情報知らせる『AirTag』便利な半面“犯罪に使用”のケースも
■「AirTagを持っていますか?」 名古屋の街では60人中2人だけ
日経トレンディ編集部で記者としても多くのケータイを取材してきた、スマホ/ケータイジャーナリストの石川温(いしかわ・つつむ)さんに、AirTagについて聞きました。
AirTagは、Bluetooth(ブルートゥース)などの無線を発信することで、周囲のiPhoneを介してGPSなしで位置情報をデータ共有サービスに送り、自分のiPhoneに伝えられる仕組みです。
2021年4月に発売され、金額は約5000円で、月額使用料などもありません。大きさは500円玉くらいで、薄くて軽いです。ボタン電池式で、充電不要で約1年もちます。
AirTagを持っている人はどれくらいいるのか、名古屋の街で聞きました。
街の人ら:
「財布をなくさないようにとかするやつですか?持ってないです」
「落とし物をしたときに、それを付けていると探せるみたいな。持ってはないです」
「分からない。Appleのマークだけは分かる」
「知らないです。(Q.何だと思う?)バッジ?」
存在そのものを知らない人もかなりいましたが、持っているという女性を見つけました。
2人組の女性:
「持っています。犬に付けています。首輪に付けていて、犬が迷子にならないように。どこかに行ったらケータイでここにいるよというのがわかる」
もう1人の女性:
「こうやってケースに入っているのでAirTag感はないです。ブラブラして外れたりすると怖いなと思って」
60人に聞いて、持っている人は犬を飼っている2人だけでしたが、キーホルダーとしてカギと一緒に持ち歩いたり、カバンに入れて使う人も多いようです。
■AirTagの性能を街で検証 専門家「無線の有効範囲は約10m」
AirTagの性能について、実際に街で検証しました。
まずは、記者がエアタグを紙袋に入れて車で街を移動し、紙袋をどこかに隠します。それを別の記者が、スマホを頼りに探してみます。
位置情報を確認すると、地図が表示され白川公園にあることがわかりました。現地に向かいます。
白川公園に到着して、地図が示す場所へ近づくと、スマホの表示に変化がありました。
(リポート)
「画面が変わって矢印が出ました」
スマホには手荷物がある方向を示す矢印が登場し、AirTagまでの距離も表示されました。
(リポート)
「AirTagが入った紙袋がありました。結構簡単に見つかりましたね」
無事にAirTagが入った紙袋を発見。広い地図の画面から、近くなると細かい案内まで表示され、かなり性能が高いことがわかりました。
別の実験では、AirTagが入った紙袋を車に乗せて、同じルートをぐるぐると回り続けると…。
(リポート)
「今、AirTagを乗せた車が通り過ぎたのですが、位置情報は動いていないですね」
車の位置とAirTagの位置情報がかなり離れました。車は動き続けましたが、位置情報が5分以上動かないときもありました。
車を停車させると、位置情報は正確な位置に戻りました。動いているものへの反応は少し弱いようです。
スマホ/ケータイジャーナリストの石川さんは、「AirTagの無線の有効範囲は約10mで、周囲のiPhoneに届かず、位置情報が送れなかったと考えられる。もし車にiPhone所持者が乗っていれば、もう少し精度は上がっただろう」と話しています。
■ストーカーに高級車窃盗も… AirTagを使った犯罪
AirTagを使った犯罪も起きています。成蹊大学の客員教授でITジャーナリストの高橋曉子さんに伺いました。
成蹊大学客員教授 ITジャーナリスト 高橋曉子さん:
「ストーカー事件というのは、日本でも海外でも多く起きています。お店でかけた上着のポケットなどに仕込まれたり、開いたバッグをさげていて入れられてしまったケースもありました」
身の回りのものに仕込んで、ストーキングに悪用する事例があるといいます。
また、狙われるのは人だけではありません。
高橋さん:
「海外では実際に高級車に取り付けられるケースが多い。公共の駐車場などに止めているときに仕込まれて、夜間に止めているときなどに盗られるケースが多発しています」
愛知県では、捜査車両に取り付けられていたこともありました。2022年、愛知県警豊田署の駐車場に止められていた1台の捜査車両に、AirTagが取り付けられていました。
主に違法薬物や暴力団を担当する捜査員が使っていたことから、反社会的勢力が警察の動向を把握するために取り付けた可能性も含め、捜査しています。
■メリットもデメリットも…自分の物ではないAirTagを知らせる通知機能
AirTagを使った犯罪に対する防犯対策についても聞きました。
高橋さん:
「自分の物ではないAirTagと30分以上一緒に行動すると通知が来るんですよ。AirTag情報が通知から見られるので、そのスクリーンショットを保存して警察に届けるということですね」
高橋さんによると、自分の物ではないAirTagと長く一緒いると、スマホに通知をしてくれたり、AirTagから音が鳴ったりして知らせてくれるということです。このため、例えばAirTagを使ったストーキング被害に遭っていることを知ることができます。
自分の物ではないAirTagを発見した場合、ボタン電池を抜き取れば位置情報を停止させることもできますが、家などで抜き取ると最終発信地点が自宅であることが相手にもわかってしまうため、家から離れた場所で外すなどして対処することが大切です。
また、iPhoneではなくAndroidのスマホを使っている人は「AirGuard(エアガード)」というアプリを使うと、近くにあるAirTagを検出してくれます。
ただ、通知する機能にも問題点があります。
「インターネット犯罪大全」などの著者でもある、ITジャーナリスト・井上トシユキさんによると、「自分以外のAirTagが近くにあると通知する機能は、(ストーキング等の)被害者にとってはありがたいですが、(盗難事件では)AirTagが付いた物を盗んだ人にも通知がいってしまい、AirTagがあることを犯人に知らせてしまうことにもなります。そのため、紛失した場合は早めの対応が必要になります」と説明しています。
井上さんは「こうした便利なモノを逆手に取って悪用する人が出てくるのは、デジタル業界では必ず起こることで、メーカーの早急な対応がポイントになる」と話していました。
2023年4月28日放送