三重県四日市市に、約半世紀にわたって布団を仕立て続け「現代の名工」に選ばれている女性がいる。一日の疲れを取り、明日への活力を養う「極上の寝具」を作る手仕事を見せてもらった。

■ぐっすり眠れると評判…69歳女性がオーダーメイドで作る寝具店

 三重県四日市市の東海道と伊勢街道の分岐点「日永の追分(ひながのおいわけ)」のほど近くにある「ふとん工房ねむねむ」。

【動画で見る】「現代の名工」に選ばれた69歳女性…“日本一”の寝具職人の手仕事「ぐっすり寝られたと言ってもらえると」

店主は今村みえ子さん、69歳。

昭和20年代に今村さんの義理の両親が創業した寝具店で、現在は今村さん1人で切り盛りしている。

昔ながらの技法で作る「掛布団」(1万7000円~)や、種類豊富な「座布団」(2200円~)など、柄はもちろん、生地も含めて全てオーダーメイドだ。

今村みえ子さん:
「まず、『どんな布団が入り用ですか』ということで、敷布団か掛布団、シングルかダブルかお聞きします。次はこの中から生地を選んでいきます。『中のわたをどのようなわたにされますか』ということで、綿100パーセントにされるか(綿とポリエステルの)ミックスか」

特に人気は、木綿わた100パーセントの「敷布団」。保温性と吸湿性に優れ、柔らかいのに体を支える弾力性もあり、ぐっすり眠れると評判だ。

敷布団を使っている女性:
「温かさと、寝心地がふわふわする感じが全然違うので、よく寝られる。(他のふとんだと)トイレに行きたくなるけど、トイレに行かずに朝まで寝られるくらい。今はいろいろ売っているけど、やっぱり違うと実感しました」

■絶妙の寝心地を生み出す“綿のブレンド”

 今村さんの布団作りは、まず生地をミシンで縫い合わせ、布団の外側にあたる「側生地(がわきじ)」を作ることから始まる。

後で中にわたを入れるため一部は縫わずに、口を開けておく。

縫い目を折って、アイロンをかけたら、中綿(なかわた)に取りかかる。

今村さん:
「これが綿100パーセントのわたなんですけど、敷布団用なのでインド綿とメキシコ綿でブレンドされています。インドわたは硬いというか弾力をつけるのにいいんですけど、あまり膨らみがないので。メキシコわたを少し混ぜると、日に干した時に膨らみが結構出ます」

柔らかな「メキシコ綿」と、コシの強い「インド綿」をブレンドして、絶妙の寝心地を生み出す。このわたをシート状にして、側生地の上にのせた。幾重にも重ねることで、中綿を形作っていく。

今村さん:
「(わたは)同じ方向だと切れやすいので、縦横、縦横で切れにくいように」

縦の次は横、さらに縦と、交互に重ねます。端の厚みが均一になるよう、わたを足して微調整。腰やお尻が当たる中央は、沈み込まないよう、厚めにする。

■生地の奥までわたが…匠の技が際立つ「美しい角」

 今村さんの技が特に出るのが、布団の角だ。

今村さん:
「(側生地の)角より5センチくらいの出たところで、丸く円を描くような感じで。折り曲げた時に角がきれいに作れるんです」

四隅を丸く切ると、側生地が少し見えるようにして、折り返す。

今村さん:
「角を作ります」

最初に重ねたわたを剥がしながら、左右交互に積み重ね、角の芯を作り強度を高める。弱いと生地の奥までわたが入らず、角が立たない。

最後に手の甲でひと回しすると、美しい角が現れた。

今村さん:
「触ってもらったらわかると思うんですけど、硬いと思います。(生地の奥まで)パンと入る感じを出したいので。角を長くすると、中でくしゃくしゃになってうまく入らない。周りが厚いと思いますけど、今から真ん中を積み上げていきます」

再びわたを重ね、さらに中央の厚みを足す。今回は標準的な厚みですが、希望があればお客さん好みの中綿に調整する。

今村さん:
「お客さんに聞いて、腰が痛いと言われたらお尻の周辺を厚めに入れたり、畳むのに折り曲げるところを厚くしたり。どうしても寝ているところはへこみが早いので、くぼんでも高いように結構入れます」

30分ほどかけ、総重量6キロの「わた」が見るからにふんわりと形作られた。

■病床の夫が「どうする?」と問いかけも…嫁ぎ先で布団作りを学び「現代の名工」に

 21歳で寝具店に嫁いだ今村さん。義理の母や店の職人から布団作りを一から学び、腕を磨いた。

2013年、腕試しに国が主催する「全国技能グランプリ」に出場し、見事日本一に。

店は順調だったが8年前の2015年、夫・峰雄(みねお)さんの肺に癌が見つかった。病床で峰雄さんは、妻を心配して問いかけたという。

今村さん:
「主人も『辞めるかこのまま続けるかどうする?』って言っていたんですけど、技術を身につけた以上は、やれる自信があったので、『続ける』って言いました」

峰雄さんは「好きにしな」と告げ、癌が見つかって10か月後、亡くなった。

夫が担当していたシート状の「わた」作りは、今村さんが引き継いだ。

今村さん:
「しばらくは私が機械を回していました。でも1人で全部は大変ですので、わただけ同業者に頼んで仕立てに専念」

そして2022年、全国の優れた職人に与えられる「現代の名工」150名の一人に選出。

今村さん:
「認めていただいたってことですので、自信になるし嬉しいですよね、やっぱり」

■「朝までぐっすり寝られた」と言ってもらえれば… “現代の名工”の思い

 敷布団作りは、下に敷いていた側生地を裏返し、中綿を入れる工程へ。

今村さん:
「なるべく側生地を自分の方に引っ張って、わたを外に出そうという意識でギュッと一気に入れちゃいます。角まできちんとわたを入れるのは、手でないとできないと思います」

スピーディーに、かつ丁寧に。69歳の今村さんが、鮮やかに入れていく。中綿の角が、あっという間に側生地の隅に入り込み、ピンと美しい角が立った。

そして仕上げへ。側生地の口を閉じ、わたが中でずれないよう27か所を「とじ糸」で縫い合わせる。

今村さん:
「はい、できました」

今村さんの手仕事が作り上げた、木綿わた100パーセントの「敷布団 木綿わた100%」(2万円)。

雲の上で寝ているようなふわふわの寝心地なのに、体を支え包みこむ安心感が共存。一日の疲れを癒し、明日への活力を生み出す。

4~5年ごとにわたを打ち直せば、15年は使えるという逸品だ。

今村さん:
「ぺったんこになってきたり、水分を含むと硬くなるんですよね。だから1回リフォームして、ふわっとしたわたに変えたら寝心地が変わっていいかなと思います。使い心地がいいのが一番ですよね。『朝まで起きずにぐっすり寝られた』と言ってもらえるといい」

今村さんの布団は店頭のみでの販売で、オーダーから2~3週間で納品される。

2023年3月6日放送