特別支援学校時代からの夢叶える…ダウン症のやっちゃんが開いた喫茶店 1人暮らしの高齢者等の憩いの場に
名古屋市昭和区の住宅街にある喫茶店『ガーデンカフェ やっちゃんち』は、ダウン症の女性がオーナーとして切り盛りしています。1人暮らしの高齢者など地域の人達が集う、大切な交流の場になっています。
■客や両親にも支えられながら…ダウン症の女性「やっちゃん」がオーナーのカフェ
名古屋市昭和区、八事の住宅街にある「ガーデンカフェ やっちゃんち」。
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朝7時45分、店の前に住む國塩佳世子さんはほとんど毎日、開店準備にやって来ます。
続いてやって来たのが、オーナーです。
やっちゃん:
「オーナーの森川靖子です。ニックネームはやっちゃんって言います。よろしくお願いします」
やっちゃんこと、森川靖子(もりかわ・やすこ 38)さん。ダウン症の女性です。
やっちゃんは9年前、自分で喫茶店を作りました。
國塩さん:
「(手伝うのは)やっちゃんが、好きだから」
午前9時にはもう1人のお手伝いの中尾さんも店に。
近所の人に手伝ってもらって、毎日店を切り盛りしています。
他にも店を手伝ってくれる人がいます。
やっちゃんの父・捷雄さん(76):
「店員です、完全に。指示される」
やっちゃんの母・和世さん(73):
「やっちゃんはオーナーですよ、私たち店員です、ハハハ」
やっちゃんの両親も店員として支えています。
■父「人生を投げ捨ててでもやらなくては」…10年間約束を忘れなかった娘の言葉
やっちゃんが赤ちゃんのころの写真を見せてくれました。
やっちゃん:
「やっちゃんが赤ちゃん、生まれた時でございます」
母・和世さん:
「『ダウン症ですよ』と告げられて、天地がひっくりが返っちゃいました。もうどうしようかなとか、上の子たちはどうなっちゃうかなとか、そんなことの不安だらけの中で生活していて、だからすごい(写真の)顔が暗いんですよ」
21番目の染色体を3本持って生まれてくるダウン症。
筋力や言語などは、ゆっくりと発達します。
やっちゃんは特別支援学校高等部の時、母の和世さんが看護師をしている病院にある喫茶店でお手伝いを褒められたことがきっかけで、喫茶店を開くという夢を持ちました。
支援学校を卒業した後は、和世さんが働いている病院に就職。
哺乳瓶洗いや、シーツ交換などを担当していましたが、その夢はずっと持ち続けていました。
父・捷雄さん:
「『お父さん、喫茶店やりたいんだけど』と。『10年は病院で働かなきゃいかんよ』と言ったら『分かりました』。『本当に分ったのかな?』と思った。10年過ぎて11年目になった時に『お父さん、10年働きました』って言った時に、もうこれは自分の人生投げ捨ててでも、靖子と一緒に喫茶店やらないかんと思った」
■母「毎日の積み重ねができるようにさせるんだなって」…人気はラテアートと猛特訓受けたコーヒー
やっちゃんは9年前、500万円の貯金を元手に、近所の空き家を借りて喫茶店を始めました。
女性客:
「でんでんむし。やっぱりこれ。ハチさん」
男性客:
「カフェラテに描いてくれるんだね」
竹ようじとチョコで、ラテアートを描きます。
やっちゃん:
「お待たせしました」
女性客:
「すごい!ありがとう」
当初7種類だった飲み物は20種類以上に増えました。
計算しやすいように、どれも1杯300円。
近所のコーヒー豆のお店から猛特訓を受けたコーヒーが人気です。
やっちゃん:
「(カップの)大きさに合わせて注ぎます。(蒸らす時間を)タイマーで計ります」
Q.タイマーの時間はどれだけですか
やっちゃん:
「30分」
母・和世さん:
「30秒!30秒!」
やっちゃん:
「30秒でございます」
女性客:
「あーおいしい。いつも同じこと言っている。すごくバランスが良くて、やさしく、いつもおいしくいただきます。これは淹れ方だと思いますね」
どんなに忙しくても、マイペースできちんと作る。ブレない味が自慢です。
母・和世さん:
「毎日毎日の積み重ねがね、できるようにさせるんだなって」
父・捷雄さん:
「最初の頃はコーヒー1杯飲むと300円、2杯飲むと600円、3杯で9000円になったんです(笑)」
母・和世さん:
「計算しなくても、頭で分かるようになったね」
レジを締めるのもやっちゃんの仕事です。
今のところ、家賃の支払いなどで、収支はとんとんです。
■ダウン症の子を持つ母「聖地であり希望」…高齢者らの憩いの場にも
新聞紙を使った、ちぎり絵を楽しむ会に…。
認知症予防の早口言葉教室。
参加者:
「きゃりーぱみゅぱみゅ みぱみゅぱみゅ あわせて ぱみゅぱゆ みぱみゅぱみゅ」
「やっちゃんち」では、地元の人たちのイベント用に和室を貸し出しています。厨房では、おもてなしのドリンクを準備していました。
やっちゃん:
「ホットコーヒー1」
中尾さん:
「(カップとソーサーを棚から取り出し)ここでいいですか」
女性は白にするなど、お客さんに合わせてカップを選びます。
中尾さん:
「(お客さんに持って行って)いいよ」
やっちゃん:
「早すぎる」
ドリンクを持っていくタイミングも、やっちゃんが指示を出します。
女性客:
「やっちゃんがとても優しくて、なおかつ私たちの名前をすぐ覚えます。うれしいですよね」
別の女性客:
「私も主人が亡くなりましけど、やっちゃんもふわって優しく迎えてくださるもんだから、ちょっとここへ来てお茶飲んで、やっちゃんの顔見て少し喋って帰ってほっとするという。やっちゃんに『私が生きている限りはやっていてね』って言ってるんですけどね」
この辺りでも1人暮らしの高齢者が増えてきましたが「やっちゃんち」に来れば、知らない人とも友達になれると人気です。
週4日通う常連の男性:
「いろんなことが話できるの。悩みごとも、ええことも。普通の喫茶店とは違うんだよね」
ダウン症の子を持つ母親たちの交流の場にもなっています。
ダウン症児の母親:
「ここは本当に聖地。親からしたらこういう風になるんだとか、やっちゃんみたいになってほしいとかっていう希望」
■笑顔が絶えない地域の交流拠点「やっちゃんち」
隣に住む加藤さんは、1日に何度も来てくれる常連客です。
加藤さん
「私が店に行かないと、呼びに来てくださるくらいで。ひょっとして寝込んでいるかもしれないし、どうかしたかもしれないと思ってね」
加藤さん:
「おはようございます。やっちゃん、今日は(ラテアートは)チューリップお願いいたします」
やっちゃん:
「ありがとう」
加藤さん:
「ここで1日が始まるの。だから何かがあっても、必死でやっちゃんの所だけ来ようと思って」
やっちゃん:
「今、やっちゃんは朝ごはんです。みんなで働いております」
やっちゃんが体調不良の時は、お客さんが総出で店を切り盛りします。
やっちゃん:
「黄色いボールじゃなくて、コーヒータッパーで計った方がいい」
國塩さん:
「はいわかったよ、あれでいいね」
笑顔が絶えない「やっちゃんち」。ご近所さんたちを結ぶ、大切な交流拠点です。
やっちゃん:
「お客さんに、コーヒーをおいしいと言われるのがうれしいです。人と人で話すことは、笑顔で話すこともあります。うれしいです」
2023年3月13日放送