アコヤ貝をモチーフにした「真珠貝クッキー」が、SNSで話題になっています。作っているのは三重県鳥羽市の「ミキモト真珠島」にある博物館で30年近く広報マンとして働いていた男性です。60歳を前にして大胆な転身を遂げた異色のパティシエを取材しました。

■真珠博物館を脱サラした男性 「アコヤ貝のことを知って欲しい」と買いを模したクッキーを作る

 いま三重県で話題になっている、貝の形をしたクッキー「ボシェル」。

【動画で見る】SNSでバズる…『真珠貝クッキー』作ったパティシエは真珠博物館の元広報マン 脱サラから大成功に至るまで

開けると中には、真珠をイメージした白い球が入っています。2枚入り330円です。

鳥羽市の真珠養殖に使われるアコヤ貝をモチーフにしています。

このクッキーを製造・販売しているのは、パティシエ・井上達夫(58)さん。

鳥羽の観光地として知られるミキモト真珠島で30歳の時から28年間、真珠やアコヤ貝のPRをしていました。

真珠養殖の工程や歴史などが学べる博物館で長年働くうちに、アコヤ貝のことをもっと知ってもらいたいと思ったことが、ボシェルを作るきっかけだったといいます。

パティシエの井上達夫さん:
「真珠を作る貝がどういう貝かというのが知られてないというか、アコヤ貝のことをもっと知って欲しいなと。そこでひらめいて、こんなお菓子があったらかわいいなと思って、そこから始めました」

インターネットの動画などでお菓子作りを独学で学び、2022年、真珠博物館を退職しました。

■“貝の再現”に苦節6年…発売から1年で1日200個売れる人気商品に

 井上さんが2022年5月に始めた、三重県伊勢市の菓子工房「ウェラボーヴ」。

ここで、クッキーを生地から全て手作りしています。

井上さん:
「ちょっと、こうアコヤ貝のスジも入れまして、輪郭はもちろんですけど、内側にくぼみもあって、そこに真珠が入っていますので、それを出したかった」

貝の内側のくぼみをクッキーで再現することには苦労したといいます。

井上さん:
「これをどうやって出そうか一番苦労しましたね。実際、この形になるためには6年ぐらい…」

試行錯誤を繰り返し、6年かけて満足できる形にたどり着きました。

生地には、三重県産の小麦と卵を使っていて甘さ控えめです。特に食感にはこだわりました。

井上さん:
「ご年配の方でも召し上がっていただけるように、すごくやわらかい。普通のクッキーをイメージされると、すごくやわらかいなと思われると思う」

アコヤ貝に欠かせない“真珠”は、ホワイトチョコレートでできています。

「ボシェル」は、かわいらしい見た目がSNSで話題となり、発売から僅か1年で1日200個も売れる人気商品になりました。

■“古巣”にも販売スペース…転身を受け入れてくれた仲間には「感謝しかない」

 井上さんは、商品の箱詰めや納品も自分で行います。モットーは「自分でやれることは、極力自分で」。元会社員ならではの“コスト意識”です。

この日は鳥羽市へ納品に行きました。最初の納め先は、鳥羽駅のすぐ目の前にある通称「一番街」。地元のグルメから土産物までを揃えた複合施設です。

井上さん:
「こんにちは!すみません、いつもありがとうございます!」

納品した商品を自ら店頭に陳列します。

井上さん:
「いいところに置いていただいております。一番目立つところに。パネルとかも作りました」

店頭に置くチラシやパネルも自作。ここにも元博物館職員の経験が生きていました。

井上さん:
「もう一軒、次はミキモト真珠島さんに。古巣の。里帰りみたいな感じなんですけど」

続いての納品先は、かつて通っていたミキモト真珠島。井上さんのクッキーを最初に置いてくれた場所でもあります。

「ボシェル」は、ジュエリーコーナーの一角で販売されていました。真珠のネックレスの横にお菓子というのは、なんとも不思議な光景です。

井上さん:
「ちょっと珍しいかもしれないですね。お客さんがたまたま買っていかれたところを見たりすると、うれしくてテンション上がりました」

島には井上さんが28年間勤務していた真珠博物館があります。

久しぶりにかつての同僚に挨拶しました。

井上さんと同期入社の女性です。一緒にアコヤ貝のPRをしていました。

元同僚の女性:
「これが真珠だとしたら中に入っているんですよね」

井上さん:
「これを毎日のように見ていましたので、これがお菓子になったらなぁと。ここで働いてなかったら、そんなアイデアも浮かばなかったですね」

元同僚の女性:
「まさかパティシエを目指すとは。ひっそりと。びっくりしましたよ。新しい自分だけの道を見つけているので、生き生きしていません?」

井上さん:
「でも、どこいってもみなさん温かく受け入れてくれて、今までも同じようにお付き合いしてくださるので、感謝しかないですね。本当にみなさんのおかげで今の商売が成り立っているのだと、つくづく思います」

転身を温かく受け入れてくれた仲間たちに感謝していました。

■「見た目がかわいい」「サクサクで美味しい」…初の対面販売でも手応え

 2023年3月のある週末、井上さんの姿は亀山市の「関ドライブイン」にありました。

井上さん:
「今日は特別に店頭販売をさせてもらいます。直売は初めてなので(客の反応が)気になりますけどね。たくさん売れるといいですけど」

直接お客さんの反応を見てみたいと、初めての対面販売です。パティシエの姿で店頭に立ちます。

井上さん:
「できたばかりの新しいお菓子なんです。真珠の貝をイメージしたお菓子で」

珍しさからか、どんどん売れて行きます。

井上さん:
「これを3つ。ありがとうございます」

男性客:
「おしゃれだから、ちょっと買ってみました」

女性客:
「パッと見た感じがかわいかったので」

別の女性客:
「かわいいので、買いました」

カワイイと好評で、アコヤ貝そっくりの見た目もインパクト十分のようです。

女性客:
「おいしい、めちゃサクサクです。やわらかいです、すごく!」

別の女性客:
「まろやかな。濃厚ですね、チョコレートは。パっと見て、見た目がかわいかったので友達へのお土産に」

三重県のお土産としても人気になりそうです。上々の評判に、井上さんにも笑顔が広がりました。

井上さん:
「売れちゃいました。よかったです。もっとたくさん売れてみなさんに知っていただいて、伊勢志摩とか三重のお土産として定着して欲しい」