痩せ細る動物守りたい…廃業寸前だった小さな動物園を私財で救ったコワモテ園長「悔い残る事したくない」
三重県大紀町の「大内山(おおうちやま)動物園」は個人経営の動物園です。一時は動物たちの世話をする人がいなくなり、廃業寸前にまで追い込まれましたが、1人の男性が私財をなげうち、園を救いました。男性を動かすのは、居場所を無くした動物たちを守りたいという思いです。
■動物園には猛獣も…個人で経営するコワモテの園長
三重県大紀町の山間にある大内山動物園は、6ヘクタールの園内に117種類、およそ720頭の動物を飼育しています。
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ミニチュアホースなどのかわいらしい動物だけでなく、ライオンやヒグマといった猛獣もいます。
男の子:
「いっぱい色々動物がいてかわいい」
母親:
「大きなクマもいてビックリしました」
子供も大人も楽しめる穴場スポットです。
園長は山本清號(やまもと・せいごう)さん、73歳。
声は低くドスが効いていて強面ですが、ひとたび山本さんが姿を現すと、園内の動物たちがざわつき始めます。
山本さん(チンパンジーに):
「おやつ食べようか。便の具合とか体調を見るの。あれ、ちょっと便が柔らかいね、今日は。興奮したの?」
健康チェックを兼ねた、おやつタイムです。
山本さん(ライオンに):
「リオンどうしたの、今日?お利口さんだね」
動物たちはすっかり懐いている様子で、百獣の王・ライオンも山本さんの前ではまるで飼い猫のようでした。
山本さん:
「同じ種類でもさ、好き嫌いが多いんだよ、人間と一緒で。(ニホンザルの)この子はあまりクルミ食べない、残してるでしょ。アーモンドが一番好き」
山本さんは、動物に対する深い知識と愛情を持っていて、飼育員たちからの信頼度も抜群です。
男性飼育員:
「動物が本当に好きでたまらないのが伝わってきます。いい食材とかを名古屋の市場から買ってきているそうです」
別の男性飼育員:
「カメにあげていい野草といけない野草を知ってるとか、細かい分野までよく知っている」
■痩せた動物に荒れた敷地…前園長亡くなり動物園を再建
大内山動物園は山本さんが個人で経営していますが、もともと動物園とは縁もゆかりもありませんでした。
大内山動物園は1970年にオープンし、園長の脇正雄(わき・まさお)さんが、ライオンなどの猛獣を含む1000頭あまりの動物たちをたった1人で飼育していました。
名古屋で建築設備会社を経営していた山本さんは、動物好きだったことから知り合いだった脇さんのもとを時折訪れ、エサ代を支援するなどしていました。
山本さん:
「1回見に来て、頑張ってる人がいるんだなと思って。エサやらいろいろ応援してあげとったんだわね」
しかし2006年に脇さんが癌を患って世話をする人がいなくなり、動物たちは痩せ、敷地も荒れ果てていきました。
県からも園を閉じるよう勧告され、大内山動物園は廃園の危機に追い込まれました。
山本さん:
「動物見たらかわいそうだったから、じゃあちょっと応援してあげようかということで。名古屋を朝4時ごろ出て、朝からエサの応援とか掃除とか片付けとか。それを2年くらいやったかな。土かなと思ったら、これくらいフンが溜まっとったりさ、フンの処理だけで2000万くらいかかった」
2008年に脇さんが亡くなると、山本さんは残された動物たちを救うため、会社経営を続けながら動物園を引き継ぎました。
しかし、費用の問題が園の立て直しに立ちはだかりました。
山本さん:
「地鎮祭して、そこに家建てようと思ってやっていて。4憶くらいの家ね。それをやめて、その金全部使っちゃった」
山本さんは私財をなげうち、園を再建。
荒れ果てていた飼育環境は見違えるほどきれいになり、動物たちの命は救われました。
■「黙って見過ごすことできない」…ほとんどが保護した動物
大内山動物園で暮らす大半は、廃業した他の動物園や、飼育できなくなった一般の飼い主から山本さんが引き取った動物たちです。
山本さん:
「(ライオンは)滋賀県の移動動物園から引き取って保護した。これ(ハムスター)も全部保護、一般の方から。うちは95%くらい保護(した動物)じゃないかな」
山本さん:
「電話がかかってきて連れてきたりするんだわ。『助けてくれ』とか『なんとかしてくれ』とか、『保健所に持ってって殺処分しないとアカン』とか。それ言われると弱いじゃん、一番弱いところだよ、心が。だから黙って見過ごすことができないんだよ」
山本さんは名古屋でも会社の近くに飼育小屋を建てて、犬5頭やクジャク4羽など、保護した動物の世話をしています。
山本さん:
「(犬にエサをやりながら)これは高速道路で保護した、鈴鹿のね。捨てられたんだろうね」
この日は、名古屋から動物たちのエサを園に運搬する日です。SUVタイプの車のトランクには、野菜や果物の箱がたくさん積まれていました。
山本さん:
「これで1週間もたないくらい。もう1個、三重県から来るもんで、これで半分くらい。リンゴとかキャベツとか色々。全部、市場から来る」
現在は週に3回、名古屋の自宅から車で片道2時間かけて動物園に通っています。
山本さん:
「もう全然、ゼロだね、遊びは。酒もやめてゴルフもやめて、毎晩飲んで歩いとったけど、やれないもんね。365日働いとる。休み1回もない」
■費用について聞くと「そんなこと聞かんで。男がグチグチ言うんじゃねえよ」
動物たちの命を守るため、寝る間も惜しんで働き続ける山本さん。寒さに弱いチンバンジーの獣舎には暖房を入れるなど、体調管理には気もお金も掛けています。
ただ、近頃の物価や燃料代の高騰は、園の経営にも影響を及ぼしていました。
山本さん:
「電気代は倍近くになってる。エサ代も上がってきたし、肉も野菜も全部上がった。入場料なんて追いつかへんて。いくら上げたって」
2022年に1500円だった大人の入園料を500円値上げして2000円にしました。それでも高騰を続けるエサ代や光熱費などの運営費、従業員およそ30人分の給料が、山本さんに重くのしかかります。
費用について山本さんは…。
山本さん:
「別にいいやん。あんたらに迷惑かけとるわけじゃないで。そんなこと聞かんでいいが、俺がやっとるんだで。心配しんでいいって。もうええの、そういうのは細かい話するな男が。グチグチ言うんじゃねえよ、そんなこと」
「誰にも迷惑はかけない、やりたいようにやる」山本さんの信念です。
■「まだまだこれくらいではダメだね」…動物への愛情はこれからも
山本さんは本業の建築のノウハウも生かし、動物たちが快適に暮らせるように配慮されたこだわりの獣舎を新しく建てていました。
山本さん:
「事務所で保護してるインコとかオウムとかを入れる。狭いカゴに入ってるもんで、広い所へ移動させてあげる。屋根の上もね、夏は涼しくていいもんで、下も全部断熱入れてあるもんで。下から冷たい冷気が入ってこない。動物がきれいなところに入って、ちゃんとしとればそれが一番うれしいわね」
居場所を無くした動物たちを守りたいと、私財をなげうって廃園の危機を救った山本さんの思い…。
山本さん:
「(動物たちが)ここで安らかに年を取って、いてくれたら一番いい。(この動物園に)いて良かったなっていう風にはしてあげたいわね。悔いの残ることはしたない。悔いだらけだね、まだまだ。これくらいではダメだね」
2023年4月13日放送