将棋の名人戦では、6月1日の第5局で藤井聡太七冠が渡辺明名人を破り、史上2人目の七冠達成と最年少名人記録を更新しましたが、7番勝負のうち第5局で決着がつき、第6局・第7局は行われませんでした。

こうしたタイトル戦の開催がなくなってしまった会場はどうなっているのでしょうか。

■依頼が絶えない常磐ホテル 終盤の対局は「信頼の証」

 名人戦第6局の会場となっていたのは、山梨県甲府市の温泉街にある「常磐ホテル」です。1929年に開業し、風情ある日本庭園に赴きある部屋をしつらえ、「甲府の迎賓館」とも呼ばれています。

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昭和天皇も宿泊された露天風呂付きの離れは、大人1人あたり1泊2食で約6万円~です。

今回の名人戦があと1局もつれていたら、ここで対局が行われることになっていました。営業部長の小沢さんに心境を伺いました。

常盤ホテルの営業部長・小沢行広さん:
「お越しいただいた方がホテルの商売としてもプラスになるわけですし、そういう意味では大変残念であったと思います」

カレーやオムライスなど地元の素材を厳選しつつ、対局に集中できるようシンプルなメニューを考えていましたが、このメニューも幻となりました。

また、50ある客室は名人戦関係者ですべて埋まっていましたがキャンセルとなりました。

常磐ホテルは2008年からほぼ毎年、名人戦の会場となっていますが、対局前に決着がついてしまうことが多く、実際に行われたのはたったの3回しかありません。

大変な準備をしながら、それでも受ける理由を聞きました。

小沢さん:
「とある主催者さんは、『常磐ホテルは打ち合わせもせず、名簿だけ送っておけば事が済む、大変楽だ』と。ホテルに対して大変な誉め言葉だと私は思っている」

2019年の竜王戦時の映像を確認したところ、対局室はもちろんのこと、対局後に行う大盤解説の会場もとても広くてきれいで、客もたくさんいました。関係者が対局を見守る検討室も広々としていて、この時は渡辺明三冠とまだタイトルがなかった藤井七段の姿もありました。(※肩書は当時)

他にも常盤ホテルは王座戦に王将戦、叡王戦、囲碁のタイトル戦まで開催しています。

常磐ホテルは約70年前からタイトル戦の舞台になっている、百戦錬磨の「タイトル戦の聖地」です。タイトル戦のことならなんでもわかるため、主催からの依頼が絶えないといいます。

終盤の対局を依頼されることが多いことについて、小沢さんは…。

小沢さん:
「シリーズが進んで6局目7局目となると、両対局者もピリピリする、主催者もピリピリする。なので6局目7局目に指定していただくのは、逆に主催者からの信頼の証であると」

なくなったり、重要な局面になる可能性がある対局を、信頼ある常磐ホテルは任せられていました。

あるタイトル戦の主催者によりますと、第5局~第7局(七番勝負)の会場は、主催の新聞社などとつながりが深いホテルが多く、キャンセル料を払わなくてもよいところもあるといいます。常磐ホテルもキャンセル料はとってないということです。

■幻となってもイベント開催することも

 2021年の竜王戦、当時の藤井三冠は4連勝でタイトルを獲得しました。その第6局の会場に指定されていたのが、鹿児島県にある「指宿白水館」です。

対局は幻となりましたが、12月3日に急遽、竜王獲得を祝う会が企画され、藤井四冠が指宿白水館を訪れました。

師匠の杉本八段も参加し、一緒に写真撮影をするなどして、応援してくれたファンに今後の活躍を誓っていました。

あるタイトル戦の主催者によりますと、開催を待ち望んでいた地元やスポンサーの要望が強く、対局に代わるイベントを提案することがあるといいます。昔はほとんどなかったそうですが、藤井七冠が活躍するようになって、イベントが多くなったということです。

■対局消滅で作った大量のグッズは

 2021年の棋聖戦では、当時の藤井二冠が3連勝でタイトルを獲得しました。その第4局の会場に選ばれていたのが、名古屋市中区大須の「万松寺」です。

運営を担当した副住職の伊藤聖崇さんに、当時の心境を伺いました。

万松寺副住職の伊藤聖崇さん:
「率直にいうと残念ではありました。準備はしていたので」

扇子・御朱印帳・Tシャツ・法被など、万松寺はオリジナルグッズをたくさん作って準備をしていました。

伊藤さん:
「(Q.いくつ作った?)何万とかです。売れたのはたぶん1000とか2000とか。やはり対局があるとないとでは、注目度が全然違いましたので。残念ながら売れ残った商品は処分しました」

フライングで大量のグッズを作成して大赤字となり、悲しい結末となりました。

2023年6月9日放送