「息子のいない誕生日 気持ち分かるか」“危険運転致死”否定する19歳男に裁判で自ら質問 両親の思いは
名古屋市中川区で2022年7月、17歳の専門学生を車ではねて死亡させ、危険運転致死の罪に問われている19歳の男の裁判で6月30日、被告人質問が行われました。裁判には、亡くなった専門学生の両親も参加していて、30日は被告人質問に臨みました。
生きていれば7月1日は、亡くなった息子の18歳の誕生日を迎えるはずでした。
■最愛の息子亡くした父親「血だらけの息子、あの映像は絶対消えない」
名古屋市中川区に住む、丹下勝喜(たんげ・かつき 49)さんと、妻の裕子(ゆうこ 42)さんは2022年7月、17歳だった最愛の長男・一斗(かずと)さんを亡くしました。
被害者の母親・丹下裕子さん:
「今はまだ実感はないですよ。出かけているのかなっていう感覚しかないですね」
被害者の父親・丹下勝喜さん:
「仕事中でもそうですし、空いた時間にふと思い出しちゃう。毎日、息子のことは忘れたことはない」
裕子さん:
「朝、お弁当作っていたのが、それがなくなったのもあるし、帰ってくると家に居る時はうるさいんですよ。声が外まで響くので。それが全くないから、すごくそういうのが寂しいなと思う」
勝喜さん:
「病院での姿はまだはっきり覚えています。血だらけの息子、あの映像は絶対消えない」
2022年7月23日、午後11時ごろに外出した一斗さん。勝喜さんは、いつも通りコンビニ向かったと思っていました。しかしその数分後、一斗さんは青信号に従って国道1号線を自転車で横断しようとしたところ、信号無視をしてきた車にはねられ、亡くなりました。
勝喜さん:
「(一報は)電話だけ『事故でひかれた』としか聞いていないので、軽い事故で接触したんだなと思って、その気で病院行きました。まさかとは…」
裕子さん:
「陥没骨折していたので、頭が。そんな風になっちゃうんだっていう。すごくへこんでいて、歯も折れていて唇もえぐられているようになっていた」
およそ1か月後、服やリュックサックなど、身に着けていたものだけが、自宅に戻りました。
裕子さん:
「ぶつかった衝撃ではここまではならないと思うけど、コンクリートで何回転かしたのかな」
戻ってきたシャツはボロボロでした。
■初公判間近に被告から謝罪の手紙も…裁判では起訴内容を一部否定
逮捕・起訴されたのは、19歳の男です。赤信号を殊更に無視したうえ、時速114キロほどに加速して交差点に進入して、一斗さんをはねて死亡させた、危険運転致死の罪に問われています。
改正少年法で、18歳と19歳は「特定少年」。名古屋家裁の「逆送」を受け、名古屋地検は被告を起訴し、実名を公表しました。
裕子さん:
「被告も年齢的に一緒なので、だから余計に腹が立ちますよね」
勝喜さん:
「まぁ謝罪文も来たけど、何も反省していないんだろうなって思っていますね」
あれから10か月が経った2023年5月、被告から初めて直筆の手紙が届きました。
<被告からの手紙>
「自分の行為が招いてしまった事の重大さを重く受け止め、深く反省しています」
「この十字架を背負い罪を償っていく」
「誠意を感じて頂けるよう、向き合ってしっかり対応していく」
勝喜さん:
「どうせ、ありふれた言葉で書いてくるんだろうなと思って。予想通りでしたけどね。憎しみというよりも呆れますよね、なんだこれは…」
受け入れられない理由の一つは、手紙の冒頭にありました。
<被告からの手紙>
「私の前方不注視、高速度という運転により起こしてしまった人身事故について、ご遺族様に心よりお詫び申し上げます」
「前方不注視」。「赤信号を殊更に無視した」という起訴内容を否定していました。
真意を取材しようと、記者が初公判前の6月26日、拘置所の被告を訪ねましたが、面会は拒否されました。
■息子との将来を失った家族 被告には「言い訳せず認めろ」
生きていれば7月1日に、18歳の誕生日を迎えるはずだった一斗さん。家族と仲が良く、反抗期もなかったといいます。また、毎日のように友人らが家に泊まりに来ていました。
裕子さん:
「母親からしたら、成人まではちゃんと子育てしたいと思っていたので、それが一気に子育てが終わったと思って、事故の後」
勝喜さん:
「本当に楽しみにしていましたよね。卒業して社会に出て、仕事して一緒にお酒を飲んだりできるのを楽しみにしていましたよ」
断たれた、夢と命。
勝喜さん:
「一番は相手の顔を見て、どんな顔で裁判しているのかっていうだけですよね。明らかにふてくされたしゃべり方をしていたら、たぶんキレるだろうな」
裕子さん:
「『なんでそのスピードで行けたのか』『信号無視ができたのか』それは聞きたい」
勝喜さん:
「手紙で『一生償う』と書いてあるんだから、じゃあ償ってよって感じですよね。何も言い訳せず認めろよ、という感じですよね」
■初公判で被告は体を壁に向け遺族と目を合わせず
6月27日、初公判で証言台に立った被告。
被告:
「意に介することなく赤信号を無視して進行したわけではありません」
「その速度で進入しようとしたわけではないです」
起訴内容を否認しました。
また、通常被告は検察側と向き合う形で席に着きますが「特定少年」を理由に、弁護側はついたての設置を裁判所に申請。
協議の結果、傍聴席に背を向けて着席。被告は、さらにそこから壁の方に体を向けていました。
初公判を終えて一斗さんの両親は…。
裕子さん:
「まずこっちを向いていない」
勝喜さん:
「背を向けているから、向こうも目を合わさない」
「信号無視するつもりが無くて進入した…認めてないんですよね。そこはちょっとイラっというか、何言っているんだ、という感情が出ています」
■「息子のいない誕生日をやる気持ちはわかりますか」父親の質問に被告は
そして、一斗さんの誕生日の前日となった6月30日、勝喜さんは、自ら被告人質問に臨みました。
勝喜さん:
「一斗の誕生日は知っていますか」
被告:
「7月1日」
勝喜さん:
「明日、息子のいない誕生日をやる気持ちはわかりますか」
被告:
「…」
勝喜さん:
「事故をしてから、一斗は夢に出てきましたか」
被告:
「『同じ目に遭え』と」
勝喜さん:
「絶対に運転しないと誓えますか」
被告:
「してはならないとは思っています」
勝喜さん:
「しないと決意は」
被告:
「まだしっかり決意はできていないと思います」
被告人質問を終えた両親は…。
裕子さん:
「(一斗が)夢に出てきたことです。私が思っていることが一斗に伝わって、一斗が言ってくれたんだなと思う」
勝喜さん:
「全く反省していないよね。あの喋り方といい、淡々と答えるだけで。どんな気持ちかわかりますか、と聞いてもその返答もなかったしね。何も考えてないんだろうなと、そういう風に思っちゃいますよね。怒りももちろんあるんですけど、呆れの方が大きいですよね。何言ってもダメだっていう…」
改正少年法では、18歳と19歳は「特定少年」と位置づけられています。インターネットの特性を鑑みて、記事は放送から一部変更しています。