ペット保護の観点から、2022年6月「改正・動物愛護法」が施行された。安易な飼育放棄を防ぐため、飼い主の情報を登録した「マイクロチップ」の装着を義務化し、劣悪な環境でペットを繁殖させている悪質な繁殖業者を取り締まるため、飼育環境の上限やケージの広さなどを規定した「数値規制」を導入した。

 改正法の施行から1年が経ち、ペットを取り巻く環境は改善されているのか。

■普及しないペットのマイクロチップ装着

 2022年6月に施行された「改正・動物愛護管理法」。この中で、犬や猫を飼う人にとって身近なのが「マイクロチップ装着の義務化」だ。

直径約1ミリ、長さ1センチほどのチップを、専用の注入器を使って皮膚の下に埋め込む。

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チップに読み取り機をかざすと15桁の番号が表示され、その番号と飼い主の情報が紐づけられるため、飼い主が特定でき、飼育放棄の問題解決につながると期待されている。

犬や猫へのマイクロチップ装着は進んでいるのか。ドッグランで、マイクロチップを入れているかを聞いた。

犬の飼い主の女性:
「入っています。すごく逃走するので、逃走したときに見つかったら、マイクロチップでうちの住所がわかるかなと」

別の犬の飼い主の男性:
「どうしようか検討している最中で、この先入れるかもしれないです」

犬の飼い主の女性:
「迷子札をつけようと思っているんですけど、マイクロチップがあったほうが安心ですよね」

名古屋市の動物病院で、医師にも聞いた。

なつきどうぶつ病院の伊藤夏樹院長:
「われわれ獣医師からは『入れましょう』という話をします。努力義務にも関わらず入れない方は多々います。料金がかかる、あと動物に針を刺すという行為をしなければならない、そういったハードルがあって、普及しないのかなと思います。(入れなくても)罰則は特にない」

■“マイクロチップ”があっても飼い主に戻せないケースも

 罰則規定がないことなどから、浸透していないというマイクロチップ。飼育放棄されたペットを保護している、愛知県武豊町の動物愛護団体「ドッグレスキューハグ」では…。

「ドッグレスキューハグ」代表の塚本恵さん:
「マイクロチップがこの子は入ってなかったですね」

マイクロチップが入っていない状態で捨てられていた、オスのチワワが保護されていた。

塚本さん:
「マイクロチップのことって全然周知されていなくて…。入っていない子がほとんどだと思う」

「ドッグレスキューハグ」代表の塚本恵(つかもと・めぐみ 51)さん。マイクロチップ装着はまだ進んでいないと感じている。

ただ、マイクロチップが入っていても問題はあった。

塚本さん:
「この子が、マイクロチップが入っていながら、飼い主さんのもとに戻らなくて、うちで保護した子なんです」

豊田の郊外をさまよっていたところを保護された、オスの雑種犬。マイクロチップが入っていたため、飼い主が判明したが…。

塚本さん:
「飼い主がわかりました。連絡をします。で、返還にならなかったということは、(飼い主が)『いらない』と言ったんでしょうね。いらなくて捨てているんですよね。この子だけじゃなくて他にもいるんです」

チップの情報から飼い主がわかっても、強制的に戻すことはできない。

このラブラドールレトリーバーも、飼い主が引き取りを拒否したため、塚本さんたちのもとへやってきた。

法施行後の1年間で、塚本さんの団体が保護した犬の数は23匹で、施行前と変わっていない。

塚本さん:
「マイクロチップ入っていても、飼い主に返ることがなかったっていう子が、今までに何頭もいました。ということを考えると、あまり意味がないもの」

法改正があっても不幸なペットは減っていないと塚本さんは憤る。

■改正法違反にあたる施設から5匹の犬を救出

「マイクロチップ装着義務化」とともに、改正動物愛護法に新たに「数値規制」も盛り込まれた。ブリーダーなどの動物取扱業者に対し、飼育頭数の上限やケージの広さなどを規定したものだ。

導入の背景には、劣悪な環境で犬などを繁殖させている悪質な業者の存在がある。

2022年7月に廃業した繁殖業者の施設に、犬たちが残されたままになっているという情報が入り、この日、塚本さんらは愛知県内にある繁殖場へと向かった。

山の中腹の竹やぶに設けられた繁殖施設は、タイヤやドラム缶が転がるゴミ置き場のような場所に、朽ち果てた犬小屋が並んでいた。

食事は3日に一度だけ、散歩にもほとんど行っていなかったという。

これは、改正動物愛護法で示されている「適切な量・回数でエサやりと水を与えている」「1日3時間以上、自由に運動できるようにしている」などといった項目に違反している。

この日、フレンチブルドッグ5匹を救い出し、病院で健康状態をチェックした。

獣医師:
「耳が汚れています」

獣医師:
「たぶん、レントゲンとか撮ると、何か(異常が)出てくるかもしれないですけど」

動物愛護団体のスタッフ:
「(背中に)膿が出てるところがあったなぁ」

獣医師:
「筋肉量は恐らく足りていないので」

ひどく痩せている上に、5匹中4匹に寄生虫による心疾患があることがわかった。

塚本さんたちのところにやってきた犬たちは清潔な環境で保護され、健康を取り戻しつつある。

■必要なのはマイクロチップじゃない…問われる動物に対する日本の在り方

 法律が変わったのに、なぜこのようなことが起こるのか。塚本さんは繁殖業者を管理している県の動物愛護センターに連絡し、説明を求めた。

塚本さん(電話):
「(動物取扱業者への)管理基準が変わったじゃないですか。で、全然ダメだと思うんですね。なぜ許可が出ていたのか?」

動物愛護センターの職員(電話):
「バンバン(法改正により)指導できるかと思っていた。でも、ふたを開けてみると動物愛護法だけの話ではなくて、登録業を営む権利が(繁殖業者に)あるわけです。それを奪うためには手続きを踏まなきゃいけない。勧告より先にいくと、相手(繁殖業者)の経歴にバツをつけちゃう」

数値規制を守っていない業者に対しては県が勧告による行政指導を行い、それでも改善が見られない場合は業務停止や登録の取り消しを命じるが、施設で飼われている犬たちの行き場を確保することなどに時間がかかり、現状は悪質なブリーダーが放置されている状態が続いているという。

塚本さん:
「本当に地獄ですよ、あの子たち。助けられるのは行政。的確な指導をして、レッドカードを出し、順にやっていくしかないと思うんです。じゃないと、全然変わらない。何とかしてほしいですね、1日も早く…」

今回のように、「数値規制」が守られていないケースは、全国でもある。関西の施設では、乱繁殖により従業員1人が管理できる頭数を遥かに超え、飼育崩壊を起こした。

愛護団体が繁殖業者に犬の所有権を放棄させ、施設から保護した。

劣悪な環境の中で、助けを待っている犬たちは他にも多く存在しているのではないかと塚本さんは危惧している。

塚本さん:
「(愛知県内の)別のところにも劣悪な業者がいて。今の時点で私が言えることは、(法改正は)あまり意味がない。不幸な子たちを救うためにやらなきゃいけないことは“マイクロチップ”じゃない。動物が“モノ”ってなっている。この国の動物に対する在り方。“モノ”じゃないよっていうところをまず変えていただいて、そこからだと思うんです」

■不幸な動物を救うには…行政が「動物虐待に加担している」認識を

 法律が改正されても、行政が悪質な繁殖業者の指導や処分をためらう理由について、日本動物福祉協会の町屋奈(まちや・ない)獣医師は、3つの要因を挙げている。

1つは「行政が犬や猫ではなく人間のほうを向いている」としていて、繁殖業者に訴えられることなどを恐れているのではないかという。

2つめは「行政側の人手不足」で、職員の数が圧倒的に足りず、継続的に繁殖業者と連携を取れる人がいないため指導が進まないとしている。

3つめが「職員の知識不足」で、虐待かもしれないという事案でもケージの広さだけをみて許可をするなど、獣医学的な判断ができていないことを挙げている。

改善するには、愛護センターの予算や職員を増やすといった策を講じるほか、行政に「繁殖業者側」に立ちすぎることは「動物虐待に加担している」ということを認識してもらう必要があると指摘している。

2023年6月21日放送