いま、学校の部活動が過渡期を迎えている。背景にあるのは、教師の「働き方改革」だ。指導員を民間に委託することなどで、長時間労働や休日出勤の改善などを目指しているが、中学校ではレベルの高い指導者が必要だったり、地域間格差といった課題がある。名古屋市や岐阜県では、先進的な取り組みが行われていた。

■名古屋市は部活動“廃止”し新しい取り組み 指導員は民間に委託

 2023年3月、名古屋市東区の東桜小学校では、平日の授業が終わった午後4時ごろの校庭で、児童らが熱心にサッカーの練習に励んでいたが、この活動、「部活動」ではない。

【動画で見る】“レベル高い指導者”が必要に…教師の働き方改革で進む『部活動の地域移行』の課題 受け皿で地域間の格差も

名古屋市では、2020年度までに市内の小学校・全262校で部活動を廃止し「新たな運動・文化活動」と呼び方を変えた。学校での活動とは切り離され、参加は自由だ。週に3日、それぞれ2種目のスポーツから、児童らが選択する。

6年生の男子児童:
「チームスポーツなので、みんなで一緒にやるというつながりを持てるのでいいなと思って選びました。」

6年生の女子児童:
「(サッカー以外に)バスケットボールとバレーボールやっています。1つの競技に熱中するのもいいと思うんですけど、色んなことをすることで『これ自分得意だったんだ』って気付きがあっていいと思います」

教えているのは「学校の先生」ではなく、委託した民間企業から派遣された地域の人だ。この日、サッカーを担当した大河内さんも、その1人だ。

サッカーを教える自営業の大河内さん(38・リーフラスの主任指導員):
「普段は自分で仕事させて頂いていて、運送業とか色々やっています。自営業になります」

全国でスポーツクラブの運営などをする企業「リーフラス」では、小学校での指導者を「アルバイト」として幅広く募集。教師を目指す大学生や主婦、地域の子供と関わりたい年配の人など、現在、名古屋市だけで2500人余りが指導にあたっている。

リーフラス東海支社長部活動推進事業部の加藤純一郎さん:
「別の仕事をされている方が、自分のできる範囲で週1回から指導ができるというのは、指導者の方が働きやすいということにはつながっていると思います」

その種目の経験者であることが募集の条件で、週1回からでも参加できる。面談や研修などを経て採用し、市の要請に合わせて小学校に派遣する。

名古屋市教委部活動振興室の水谷章一室長:
「指導者の確保というのは課題なところはあるのかなと思っていますけど、事業者の方もかなり頑張ってくれている。中学校の方も、昨年度(2022年度)スポーツ庁や文化庁から地域移行に関する提言が出されて、まずは休日のところで実施していけないかということで検討を進めているところです」

■教師の働き方改革でスポーツ庁も改革を推進 中学ではレベル高い指導者の確保が課題

 こうした部活動の“地域への移行”の背景にあるのは、教師の「働き方改革」だ。土日の指導による長時間労働や休日出勤の改善などが目的だ。

スポーツ庁は2023年度からの3年間を、全国の公立中学校で休日の部活動を段階的に地域に移行する「改革推進期間」と位置付けている。

しかし、学校問題に詳しい名古屋大学の内田良(うちだ・りょう)教授は、中学校では“レベルの高い”指導者の確保が全国的な課題だという。

名古屋大学大学院教育発達学科研究科の内田良教授:
「活動の内容が小学校と比べて、中学校は本格的になってきますね。全国大会があり活動量は多い、それなりに本格的にやらなきゃいけないということで、これを一体誰が地域でやってくれるのかというところで大きな壁に突き当たっているということですね。(中学校の)部活動はこれまで週6日以上やってきたという現状があり、そしてほぼ全員の生徒が参加という中で、この巨大な部活動地域移行するとなると、そう簡単にはできない」

■地域のスポーツクラブに土日の指導を依頼 岐阜県羽島市の先進的取り組み

 全国的にも先進的な事例が、岐阜県羽島市の竹鼻中学校で取り組まれている。より専門的な指導を希望する保護者の声などをきっかけに、2008年頃から部活動を、平日は「顧問の教師」が、週末は「社会人コーチ」が担当している。

2023年3月の土曜日、女子バレーボール部を指導していたのは、会社員の川口博さんだ。

川口博さん:
「アタック、フォローに来るのに間に合わなかったらそこで構えないといかん。今みたいに取れそうだなと思ったらいってくれてもいいけど」

息子がスポーツ少年団に入ったことがきっかけで、コーチ歴は26年になるという。

大会の引率で必要となる、日本スポーツ協会や県によるコーチの資格も持っていて、竹鼻中学校では2018年から指導にあたっている。

羽島市は竹鼻中学校をモデル校として、2021年に地域の総合型スポーツクラブとの連携を始めた。すべての運動部と吹奏楽部などの文化部で、このクラブに土日の指導を依頼して、コーチを確保している。

土日は“クラブ活動”として学校の活動と切り分けたことで、教師は週末の休みが確保され負担が大きく減った。

女子バレー部顧問の先生:
「(クラブ化前は)土日の練習は部活動の顧問がついていないといけなかったので、それはありがたいなと思っています。専門的な知識が無かったり技能が無かったりすると、自分たちがどうやっていったらいいのかすごく悩みながらやっていたので、社会人コーチできちんとした知識とか技能を持ってくださる人がいて、一緒に考えてもらえるというのはありがたいことだなと思っています」

コーチへの報酬などに充てるため、土日の練習には参加費として年に4000円が必要になったが、竹鼻中学校では、これまで集めていた年5000円の部費を100円にすることで金額面での負担を減らした。

参加は生徒の自由だ。

バレーボール部員:
「大会でいい成績残せるように、勉強よりも大切みたいなのがあって、学校生活で部活一番頑張っています」

別のバレーボール部員:
「学校の先生だと、基準となるようなことを教えてくれるけど、クラブのコーチはそこから一歩踏み出して専門的なところを教えてくれたりします」

■受け皿の有無による地域間格差 名古屋ではリモートで指導する実証実験も

「部活動の地域移行」の1つの理想形として、全国の自治体から視察や問い合わせがあるが、総合型のスポーツクラブなど、地域移行の「受け皿」となる環境の有無で差が出ることも課題だ。

内田教授:
「本当に地域間の格差が大きいですね。従来から地域のスポーツ、文化活動を割と充実させてきたところ。ただ、そういう地域は決して多くないのでなかなか困っている地域が多い。これはもう国や自治体からの補助なしにはありえない。いろんな工夫を重ねながら、なんとか合理化を図っていくってことが必要だと思います」

地域の実情に合わせた工夫が求められている。名古屋市では、まだ2つの中学校で地域移行を試験的に実施している段階だが、最新技術を活用した取り組みも行われている。

リーフラスのバスケットボールコーチ斎藤優子さん:
「このあと2対1に繋げたいので…。シュートに行って止まった時のクロスを意識しましょう」

バスケットボールの練習で指示を出すのは、画面の向こうにいる指導者。

2023年2月、約1キロ離れた別の中学校での指導中に、リモートで同時に対応できるか、実証実験が行われた。

男子部員:
「声が聞こえない時とかあるんですけど、自分のスキルに合わせて練習してくれてよかったです」

別の男子部員:
「大会直前とか、しっかりやりたい時だったら直接指導の方がいいんですけど、基礎練習とかはリモートでもしっかりやってくれた」

斎藤さん:
「目の前でプレーをしている生徒たちがいる。声かけと同時に画面を見ながら、向こうの状況も確認しなければいけない。そこに対しての声かけが、少し難しかったかな。できること、できないことが今回たくさんわかったので、よかったかなと思います」

“指導者”確保と、地域ごとの実情。多くの課題を抱え、いま部活動は変わろうとしている。

2023年4月14日放送