「便利には勝てない」進化続ける生成AI『ChatGPT』事業提案も一瞬で 情報漏洩や著作権等リスクも
AIがまるで人間のような回答を生成して答える「ChatGPT」は利用者が劇的に増えていて、新たなビジネスが熱気を帯びている。しかし、情報漏洩や著作権侵害などの懸念や批判も指摘されている。
■講座の参加者「衝撃」「危機感も感じる」何でもこなす「ChatGPT」
世界中で利用者が劇的に増えている「ChatGPT」は、2023年5月から有料の新サービスをスタートした。例えば「食べログ」と連携したサービスは、細かい条件に合う店を簡単に探し、予約の可否まで示してくれる。
「6月9日 名古屋の栄で4人が入れる居酒屋 手羽先を食べたい」と条件を入力すると…。
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リポート:
「出てきました。伏見駅で、予約可能時間…、画像も出てきました」
条件を元に、画面上に「店名」「地域」「ジャンル」「食べログのURL」などが一瞬で表示された。
他にも、インターネット上の最新の情報をもとにした回答の生成や、PDFファイルの内容を要約することもできる。
開発したアメリカのIT企業「オープンAI」がリリースして半年あまり。進化を続け、日本でも導入を始める自治体が増えている。
2023年5月24日「ChatGPT」の勉強会が名古屋市西区で開かれた。
自身でAIの開発もする、東京学芸大学の遠藤太一郎准教授が開いた「ChatGPT」の初心者向け講座だ。
サラリーマンに、社労士、経営者など12人が参加し、会場は満席となった。
東京学芸大学の遠藤太一郎准教授:
「2028年くらいにはもう、人間並みのAIが現れる世の中になっているかもしれない。データ分析とかに関しては、売上データとかあったら、こういう理由で下がったんじゃないかと…。グラフも作ってくれる」
自動でデータを分析して評価までする。
一瞬で完了する、プロ顔負けの画像加工も。
受講生:
「生成AIのロジックとか勘所とか、テンプレみたいなものがあるのかと思いまして」
遠藤准教授:
「いい質問ですね。これは今からやりますので」
次々と紹介される“未来の可能性”に、参加者は驚きを隠せない様子だった。
社労士の男性:
「本当に使い方次第かなと」
IT企業勤務の男性:
「ここまで色々できることが進んでいるのは衝撃ですね。危機感も感じますよね、本当に」
■新規事業にChatGPT活用するサービスでは瞬時にアイデアを提案
遠藤准教授が開いた講座の参加者の1人で、 IT企業「Relic(レリック)」の社員、田中翔太良さんは「ChatGPT」に、新たなビジネスチャンスを見出している。
Relicの田中翔太良さん:
「ChatGPTをもっと使っていこうと。自分たちの事業と連携しようというところに踏み切った」
Relicが提供するのは、企業の新規事業の立ち上げを支援するサービスだ。田中さんは、そのサービスに「ChatGPT」を導入。全国でもまだ新しい“AIにアイデアを考えてもらう”システムを開発した。
田中さん:
「自分たちのサービスに、ChatGPTの連携をしたという形です。問い合わせが本当に倍以上来ています」
この日は、EV=電気自動車の関連企業との会議だ。
田中さん:
「色んな条件とか背景いれると、より具体的なアイデアを出してくれる」
新しいシステムに「バッテリー固定型以外の事業アイデアを5つ教えてください」などと入力していくと、「バッテリーを交換する方式」という回答や「レールで走るタイプ」といった斬新なものまで、アイデアが瞬時に出てきた。
顧客の男性:
「結構ピンポイントでできると思いますね」
田中さん:
「本当に、10分、15分でこういったものをアイデア出して、2週間かけても、多分ほぼあまりレベルが変わらないと思っている。(かかった時間は)10分の1どころじゃないですね」
顧客の男性:
「文章で残って、背景をすり合わせながらやれるっていうのが、一つ大きいポイントかなと思いますね。使い勝手いいんじゃないかと」
顧客からの反応も上々だというこのシステム。ゆくゆくはアメリカへの進出も考えている。田中さん:
「便利には勝てないかなと思っていてですね、それが当たり前になる瞬間が絶対出てくると思っている。それこそスマートフォンとかもそうですし、そういうところにいち早く乗って行く必要があるかなと」
■「誤情報」「著作権」「情報漏洩」…懸念も多いAI活用
AIについて研究する名古屋大学の東中(ひがしなか)竜一郎教授は「時代に適したサービスであり、活用すべき」とした上で「懸念は多い」と指摘する。
名古屋大学の東中竜一郎教授:
「間違った情報が出てくるっていう、よく言われる“ハルシネーション”という問題。原理に従って、次のテキストを出力するだけですので、自身の信念が言っているわけじゃないわけです。(他には)著作権の問題ですね。(ネット上の)ある特定の人の絵と歌詞とか文章とかを使って、そこで対価を得てしまうみたいな。そういう現象っていうのも結構起こり始めていて…」
アメリカでは、弁護士が実在しない判例を資料に記載。のちに「ChatGPT」に書かせていたことが発覚した。
また、日本新聞協会は『報道機関の記事や画像などが無秩序に利用される懸念が高まっている』と見解を発表している。
他にも、画像を無断利用されたと訴える漫画家やイラストレーターらが法整備を求めるなどしていて、著作権を巡る動きが様々な団体で起こっている。
そして、東中教授が「最も注意が必要」と指摘するのが「情報漏洩の危険性」だ。
名古屋大学の東中教授:
「一番言われるのは『情報漏洩の危険性』だと思います。入力をとにかく送らなきゃいけないと、そこに例えば知的財産的な重要な情報であったり、個人情報であったり、例えばマイナンバーの情報であったり、まあそういった諸々の情報が入り得る」
「ChatGPT」が生成する回答には、利用者が入力した情報も使われる。
例えば「Aさんの好きな手羽先を食べたい。Aさんの家に近い栄の店は?」と入力した場合、Aさんが「手羽先が好き」「栄付近に住んでいる」という「個人情報」が入っているとも見ることができる。
そして、この情報は全世界のネットワークで共有され、他人の質問への回答にも使われることもあるという。そのため“意図しない情報漏洩”が起きる可能性がある。
日本政府も、開発元の「オープンAI」に対し、本人の同意を得ないまま病歴や犯罪歴といった個人情報を取得しないよう注意喚起した。
東中教授:
「人間は技術で進歩してきていますので、技術を高めていくこと自体はおそらく止められない。その時に、人間として一体何を学ぶべきなのか。あとは何をしていくべきか。そういったものを本当に問われて来ていて、我々がやるべきなのはいったい何なのか、そこを考える時代になっている」
■自治体の利用や問い合わせが増加… 「個人・機密情報」の課題に対応した「新システム」も登場
三重県四日市に開発拠点を持つIT企業「FIXER(フィクサー)」は、ChatGPTを利用しながらも「情報の保護」を重視した新たなシステムを開発している。
FIXERの松岡清一社長:
「世界最先端の開発を若手がガンガンやっている場所になります。あらゆる職業の方の生産性をAIを使って高めるサービス『GaiXer(ガイザー)』を開発している」
開発したシステムでは、入力した情報を使用者側のネットワーク内に制限。そのため、個人情報や機密情報なども「ChatGPT」に入力することができるうえ、外部からは必要な情報を収集するため、より的確な回答を得ることができるという。
松岡社長:
「使い方を考えれば、強力な武器になる。安全に使っていただくために、入力と出力を、きちんと安全にコントロールして色んな方々にお役立ちしたい」
東海3県でいち早く「ChatGPT」の導入を発表した三重県の伊賀市では、このシステムを試験的に運用を始めた。個人情報の入力ができるため、行政の手続きや文書の作成など幅広い業務で活用される予定だ。
すでに、ほかにも多くの自治体から問い合わせがあるという。
松岡社長(桑名市役所・5月25日):
「ありがとうございます、お忙しいところを。ChatGPTが大変話題でして…」
松岡社長:
「人間がやらなくてもいい作業はたくさんありますので、そこをできるだけ減らして、自動化、半自動化して、人間にはもっともっと生産的なことをしていただいて…。この変革の波は、一般市民の方が実感されるよりも、かなりスピーディーに進んでいくのかなと実感しています」
成長が加速するAI「ChatGPT」。便利とリスク、使い方が問われている。
2023年6月9日放送