終戦から78年がたち、日本の人口のうち「戦後生まれ」が87%に達した。戦争を知る広島や長崎の被爆者の平均年齢は85歳を超えていて「生の声」を引き継いでいけるかが課題となっている。『Z世代』と呼ばれる若者たちが “戦争の記憶を受け継ぐ”取り組みを始めていた。

■終戦から78年 戦争への関心薄れるZ世代

 2023年7月30日、名古屋市東区で、夏休み中の高校生5人が戦争について議論していた。

女子高校生:
「“日常が壊れる”っていうのが、私の戦争のイメージ」

別の女子高校生:
「戦争を止めるために考えなきゃいけない。まずは戦争を知っていかなきゃいけない」

名古屋市が企画した「戦争と平和」についてのワークショップに向け、準備を進めていた。

【動画で見る】若い世代はどうすれば関心持つのか…『Z世代が考え、伝える戦争』終戦から78年 記憶のバトン受け継ぐには

女子高校生:
「『平和のイベントあるよ』とか、そういう情報発信できるSNSアカウントがあると面白いかな」

別の女子高校生:
「花火などの楽しいイベントを開催する。若い人たちの意識を変えなきゃ」

“どうすれば若い世代が戦争と平和を考える機会になるのか”を、「Z世代」と呼ばれる彼ら自身が考えていた。「Z世代」とは、諸説あるが、1990年代中盤から2010年代前半生まれの世代のことだ。

Q.同級生で戦争に関心がある人はいますか?

出席した高校2年の女子生徒:
「正直いないですね。若者たちがこれから戦争について考えていかなきゃいけないのに、関心がないのが一番の課題だと私は思っています」

終戦は1945年8月15日、今から78年前のことだ。2023年4月に公表された人口推計では、日本の総人口のうち戦後生まれの割合は87%に達した。

戦争の実体験を語ることのできる人が減っていく今、その記憶のバトンを受け継いでいくことが重要な課題となっている。

しかしZ世代の関心は、決して高くないようだ。

Q.終戦の日がいつかわかりますか?
高校3年生:
「待って、知らないわ。知らないです」

高校1年生:
「7月?」

高校生2年生:
「15日?8月15日じゃない?」

Q.戦争が身近で起きると感じることはありますか?
大学生3年生:
「日本は終戦してから平和なイメージを持っているので、(戦争が起こることは)無いかな日本はって思っちゃってます」

別の高校生2年生:
「『怖いね』とかそういう話は出るけど、身近でどうかと考えるとそうではないですね」

戦争は「遠い昔の出来事」と感じるのが、彼らの本音なのかもしれない。

■AIと手作業で原爆投下前のモノクロ写真をカラー化 女子大学生の「記憶の解凍」

 広島出身で大学4年生の庭田杏珠(にわた・あんじゅ 21)さんは「新しい伝え方」で戦争の記憶を受け継ごうとするZ世代だ。

庭田杏珠さん:
「戦争や平和についてあまり関心のない世代にも、どうやったら自分事としてとらえてもらえるのか」

8月1日、原爆の被害などについて学ぶメディア向けの研修会が広島市で開かれ、庭田さんは講師として参加していた。

庭田さんが6年前から続けているのが、原爆投下前のモノクロ写真に「色」を吹き込む活動だ。「記憶の解凍」と呼んでいる。

幼い頃に資料館で見た悲惨な光景にショックを受け、平和学習が苦手だったという庭田さん。しかし小学5年生のころ、原爆投下前の広島を紹介したパンフレットを見て、「苦手意識」から「伝えていきたい」という思いに変化した。

庭田さんの「記憶の解凍」の作業はまず、白黒の写真にAIを使ってカラー化を施す。

庭田さん:
「これがAIでカラー化した写真なんですけど、ここから手作業で色補正をしていきます」

モノクロの写真にAIでおおよその色を付けたら、当時の資料や持ち主との会話をもとに手作業で補正していく。

庭田さん:
「当時は、藍色だったり紫色の着物が多くて、よく着られていたっていうことだったので。色補正をしていく中で、おばあさまやお母さまがどんな方だったのかっていうお話も伺っていきます」

「記憶の中の色」を丁寧に再現し、カラー写真ができ上がった。

AIでカラー化をしただけではセピアのようだった写真が、手作業の色補正で印象が大きく変わった。

庭田さん:
「本当に、飛び出してきそうなというか。今と同じような日常があって、それが一瞬にして原爆で失われたんだなって想像することができる」

■きっかけくれた人も亡くなる…減少する戦争経験者

 庭田さんが写真のカラー化を始めたのは、この家族写真に写っていた浜井徳三(はまい・とくそう)さんとの偶然の出会いがきっかけだ。

浜井さんは、現在の平和記念公園がある旧・中島地区で生まれ、戦争を経験した。

広島に原爆が投下された時は疎開中で無事だったが、家族は全員が犠牲になった。

庭田さん:
「疎開先に持っていったために、大好きな家族との白黒写真220枚が入ったアルバムが残っていたんですね。それをカラー化することで、大好きだったご家族のことをいつも近くに感じてもらえたらな、というところから始まりました」

写真について話をしながら、当時の暮らしを教えてくれた浜井さん。戦争を知らない庭田さんにとって貴重な時間だったが、その浜井さんも2023年7月、88歳で亡くなった。また1人、戦争を経験した人がこの世を去った。

庭田さん:
「一番の大きな課題は、戦争を体験された方が少なくなっていること。戦争を体験していない世代の私たちになにができるのかを考える意味というのが、すごく重要になってくると思うんです。戦争の悲惨な部分というものを学んで伝えるってことももちろん大事ですし、自分にできることは何かというところを考えて想像して、別の形で伝え続けるということが、新しい継承になるんじゃないかなと思っています」

■ARアプリで戦争前の街並みを再現 参加者「タイムスリップした感じで深く理解できた」

 原爆が投下されてから78回目となる2023年8月6日、広島市で平和記念式典が行われ、多くの人が黙祷を捧げた。

庭田さんは、浜井さんの故郷・旧中島本町の慰霊祭に参列していた。

カラーにした浜井さんの家族写真を手に、冥福を祈った。

庭田さんにはこの日、もう一つ大切な役目があった。

庭田さん:
「よろしくお願いします」

以前、講演をしたことがある神奈川県藤沢市から依頼され、小学生から大学生までの平和学習の案内役を担うこととなった。

タブレットを手に、道路や木々などをカメラに映して歩く学生たち。庭田さんが開発に携わった「ARアプリ」を使っていて、平和記念公園でタブレットのカメラを掲げると、かつてそこに何があったのかカラー化した画像が表示される。

庭田さん:
「今、なにもないけど、本当はここにお店があって…」

原爆投下がなければ、残っていたかもしれない街並み。今の技術でそこにいた人々の息吹を感じながら、当時の広島に思いを巡らせることができる。

庭田さん:
「どうでしたか?歩いてみて」

参加した女子生徒:
「こういう写真って、インターネットで調べればいくらでも出てくると思うんですが、タブレットで自分で持ちながらその土地を実際に歩くことで、タイムスリップした感じで現実をより深く理解することができたかな」

「知らない」から「知ろう」とする。そして、「知った」ことを誰かに「知ってもらう」。庭田さんが戦争を経験した人から受けたバトンは、この日、新たな若い世代に託されている。

庭田さん:
「ロシア・ウクライナの戦争が明るみになって、割と皆さん関心を持っているのかなと思います。でも、それが一時的なものになってしまうんじゃないかなというところは思っていますね。受け取った戦争体験者の思いを、自分なりの方法で伝えることが、これから新しい継承の形として大事だと思っています」

■“経験者”の時間はあとわずか…Z世代が模索する新しい伝え方

 2023年8月10日、戦争と平和について考えるワークショップが名古屋市昭和区で開かれ、高校生24人が集まった。

女子高校生:
「お祭りの中に追悼式があって、マーケットがあって、平和について学ぶみたいな」

「祭りとのコラボ」や「SNSでの発信」といった、既成概念にとらわれない若い世代が関心を持つ“伝え方”を、それぞれが模索していた。

男子高校生:
「来場者全員にランタンを配って、平和への思いを書いてもらいます」

別の男子高校生:
「現地の人に話を聞くのが一番印象に残ると思うんですよ」

女子高校生:
「空襲カレンダーを作りたい、というのがありました」

「Z世代」が考え、伝える戦争。戦争の実体験を聞くことができる時間は、もう決して長くはない。

 ジャーナリストの大谷昭宏さんは、戦争の生の体験を聞けるのはZ世代などの若い人たちが「最後の世代」で、さらに下の世代へは「今の世代がバトンタッチするしか伝える手段はなくなっていく」と説明し、戦争の記憶を受け継ぐ重要さを訴えた。Z世代がAIなどを使って写真を復元する手段については「非常に有効」とし「“自分たちがバトンをつなぐ”ということが、戦争を起こさせないというメッセージとして伝わっていくはず」と話した。

2023年8月18日放送