岐阜県御嵩町の大工が、建築の際に余った廃材から趣味で「水車」を作っている。廃材といっても、地元の立派なヒノキで、設置している人たちからも木のぬくもりが感じられると評判だ。効率化と機械化が進む大工の世界で、趣味で始めた水車づくりが、いつしか手作りの喜びを味わえる生きがいになっていた。

■木の「水車」に魅入られた69歳のベテラン大工

 岐阜県御嵩町(みたけちょう)は、名古屋から車で1時間半ほどの自然豊かな山間の町だ。

【動画で見る】妻も笑顔で「元気もらえる」…ベテラン大工が端材で手掛ける“水車づくり” 日本一の木製水車に職人の血が騒ぐ

この町の「恩田建業」は昭和53年(1978年)に創業し、住宅の新築やリフォームを手掛けている。

69歳の社長、恩田厚司さんは、15歳でこの世界に入って半世紀というベテランの大工だ。

恩田さんが本業の傍ら作っているのが「水車」だ。

恩田厚司さん:
「暇みてやっていますけど。いま、ちょっと趣味で数が多くなったけど。新築した家には、みんな置いてきているもんで。今まで10体くらいは置いてきたと思いますよ」

大きいもので高さ1メートルほどにもなる。これまでに20台以上を制作し、希望があれば新築や改築のお祝いとして客にプレゼントしてきた。

岐阜県白川町の藤井洋治さんもその一人で、2023年4月に、自慢の庭に取り付つけてもらったばかりだ。

藤井洋治さん:
「大工さんだけあるなぁ、と思って。本当に感心した。朝起きて来て、池を見るのが楽しみや」

ずっと見ていても飽きない動きと、心地よい水の音。木のぬくもりも感じさせる手作りの水車だ。

■妻も満面の笑みに…ベテラン大工がのめりこむ水車づくり

 製作の工程を見せてもらった。

恩田さん:
「これ一応、端材で作っているもんで。余ったのがめちゃくちゃあるで、どうしたらいいんかなと。廃材の倉庫がここですので、(本業で)使わなかったやつを使っていますけど。いまは100個でも200個でもできるぐらいある気がするけど、そんな暇ないから」

使うのは、住宅建築の際に余った岐阜県産東農ヒノキなどの廃材で、水に強くて頑丈という性質が水車にピッタリだという。

まずはパーツ作りだ。事前に手書きした「設計図」に沿って、丁寧にカットしていく。簡単そうに見えるが、手の感覚を研ぎ澄まし、微妙に力加減を変えながら切っていかないとすぐにズレてしまう。「職人技」が求められる工程だ。

恩田さん:
「昔は手作業でカットしていたもんで。いまはプレカット(工場加工)やもんで、こういうこともなくなって、機械もいらなくなって。昔ながらのやり方が好きやもんで」

大工の世界でも効率化が進んでいる。かつては、いかに木材を美しく仕上げるかが職人の腕の見せ所だったが、最近は工場から製材された状態で届くようになった。現場で説明書に沿って組み立てるだけということが多くなったという。

恩田さん:
「いまなんかもう機械ばっかりやし、釘打ちも機械やしね。手では絶対に打たない」

熟練の技を持つ恩田さんにとっては、物足らない時代だ。しかし、この水車を作っている間は、自分が大工仕事をしている実感がわくという。

正方形の木の柱を八角形に削る作業にとりかかる。

恩田さん:
「これでバランスはいいと思います。これ大事な芯やもんで。全面的にあってると思います。いい感じと思いますよ」

嬉しそうな顔で話す恩田さん。

恩田さん:
「普通の木からこの状態になるって、なかなかやない?」

妻・美雪さんも、作業している恩田さんの表情が大好きだ。

妻の美雪さん:
「ホント、楽しそう。まるで子供ですね。なんかね、夢中になっちゃってね。私まで元気もらえて。子供のような目をしているもんね」

■きっかけは圧倒された「日本一の木製水車」

 今や水車づくりは恩田さんの生きがいになっている。恩田さんが水車と出会ったのは10年前のことだ。岐阜県恵那市の「道の駅」だった。

恩田さん:
「ここによく買い物に来て、これよく見にくるもんで。こんな大きいのはできんけど、小さいのでこれと同じようなものをできるといいなと思ってやったのが始まりやもんで」

夫婦で道の駅めぐりを趣味にしていた恩田さんは「日本一」といわれるこの木製水車に圧倒されたという。

恩田さん:
「すごく立派やろ。すごくデカいもん。木でやっているのでスゴイんやで。誰が見ても感動せん?これだけ大きいのが回っとると」

大きさはもちろん、その精巧な作りにも魅了され、自分も作ってみたいと職人の血が騒いだ。

恩田さん:
「一番最初に作った水車を見てもらうとうれしいかな」

恩田さんは1年ほどかけて独学で作り方を覚えた。知人のために作ったという「初めての水車」を見せてくれた。

記念すべき第1号は、いまも現役で動いていた。

恩田さん:
「うれしいよ、回っとって。いまでも回っているのがうれしいわ」

恩田さんの知人:
「なかなか味があっていいですよ。風情があって。一番最初のモデルなんで。まぁ試作品に近いね」

恩田さん:
「こんだけ回ってくれればラッキーやもんで。もうちょっと、いまならもっと凝ったかもしれんけど。その時はわからんかったもんね、本当に」

恩田さんの知人:
「恩田さんとは付き合いがずっと古いので。でもこの風車で、だいぶもっと近しい友達になれました。でも、回るってのは面白いですよね」

■「依頼あったら作りたい」…夢は道の駅のような巨大水車づくり

 再び作業場へ。ここからは組み立てだ。「ダボ」と呼ばれる穴にパーツをはめていく。

恩田さん:
「プラモデルやもんで。ここまでやると割と早いんよ」

釘は使わずに組み立てていく。

恩田さん:
「釘使わんよ。釘はさびるもんでさ、なるべく使わないようにしている」

パーツを組み合わせていくと、みるみるうちに水車の形になっていき、1時間で、ほぼ完成のところまできた。

恩田さん:
「この最後がええ風にはまらんでね、本当に。自分で何回かやっとるけど、円形やもんで、最後がうまくはまらん。どうやろ」

ここから最後の微調整だ。削っては組み合わせるのを何度も繰り返していく。

そして、水車の形が組み上がった。

恩田さん:
「入った。お、入った。こういう感じですわ」

万力で締めて固定し、数日間、馴染ませてから…。

木製の釘を打てばできあがりだ。

恩田さん:
「けっこうええ感じよ。こうやってできた時の、丸くなった時の加減がすごくええやなと思う。見てくれがいいと思わん?みんな欲しがるよ。大工もこういうことやで。これキレイにできたわ」

材料の加工から約1週間、直径60センチほどの水車が完成した。匠の技とモノづくりの喜びが詰まった作品だ。

恩田さん:
「水車は楽しいよ、住宅やっているより楽しい。もっとデカいやつが作りたい、本格的なやつが。道の駅で回っとるくらいの大きさのやつを、同じような形で。依頼があったら作りたいと思う」

2023年5月22日放送