若き常連客が店を継承…半世紀の歴史ある名古屋の喫茶店 年の差50歳の初代と2代目の絆「偶然じゃない」
1973年にオープンした名古屋市中川区の「喫茶店コンネ」は、2023年5月にリニューアルしました。そのタイミングでオーナーも代替わりしましたが、2代目を継いだのは店に通っていた20代の「常連客」でした。
初代は75歳で、年の差が50歳もある2人には「偶然」とは思えない縁がありました。
■50年続いた喫茶店がリニューアル…跡を継いだのは24歳の“常連客”
JR関西線の春田駅から徒歩1分のところにある「喫茶店コンネ」は、2023年5月、リニューアルオープンしました。
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開業したのは半世紀前の1973年で、今回のリニューアルで店名を「グッピー」から「コンネ」へと変更しました。
リニューアルしたタイミングで店を継いだ2代目の店主は、エプロンと蝶ネクタイが似合う村越創太(むらこし・そうた 24)さんです。「グッピー」時代からの常連客です。
2代目店主の村越創太さん:
「家がすぐそばだったので、親兄弟と夜ご飯だったり遅めの昼ご飯だったり、しょっちゅう来ていました」
外観は塗りなおして清潔感も出しました。壁にはQRコードも貼られていて、現代的です。
しかし、店内には「グッピー」時代の雰囲気が残されています。
男性客:
「イスはここにあったイスじゃないかな。シャンデリアも変わってない」
女性客:
「使える物は使って、懐かしくて…でも新しくていいと思う」
店内はかなり、クラシカルです。
村越さん:
「僕自身の思い出の場所でもありますし、せっかくマスターが僕に預けてくれた理由は、知っている人ってところだと思うので、マスターがここで50年間やったってところも残したい」
初代が積み上げた歴史はしっかりと残し、常連さんもホッとできる空間を。そんな思いから、使えるものは全て残しました。
■コーヒーもフードも“初代の味”を残しながら…歴史も残す思いはメニューにも
その思いはメニューにも込められています。主役のコーヒーはネルドリップ方式で、道具も初代のものを受け継ぎました。
村越さん:
「コーヒーの淹れ方に関しては全て先代から教えてもらっていて、こっち(名古屋)の人は味が濃いのが好きというのもありますし、コーヒー自体の味がしっかりしている方が僕としても好きなので、ネルを使っています」
豆は同じものを使いつつ、初代が深煎りの焙煎だったのに対し、2代目は苦みが少なく酸味のある中煎りに変えて、ライトな味わいにしました。
「ホットコーヒー」(450円)
男性客:
「思ったよりすっきりしています。飲みやすいですね」
お客さんも思わず笑みがこぼれます。コーヒーにはちょっとうるさい常連さんにも好評だといいます。
フードメニューは、初代の指導と2代目の腕前を活かした自慢の一品が揃います。
高菜とご飯を炒めて、醤油を回しかけ濃い目に仕上げた、長崎の定番「高菜チャーハン」(600円)に…。
ニンニクとショウガをしっかり効かせ、ご飯がとまらなくなる「唐揚げ定食」(900円)。
牛すじと玉ねぎを形が無くなるまで煮込んだ「カレーライス」(900円)は、素材の甘みとコクが際立った人気メニューです。
村越さん:
「家庭ではない濃い目の味にしないといけないし、味のクオリティーは上げないと、お客さんはリピーターにならないよって教えはもらっています」
男性客:
「初代のマスターの味が少し残っている感じがします。これもこれでまたおいしいですね」
評判は上々、リニューアルは順調です。
■“他人”じゃないから… 初代マスターと2代目の深い縁
初代の店主・長濱安秋(ながはま・やすあき 75)さんがやってきました。店の裏から登場です。
村越さん:
「昨日直してもらった水道のところやけど…」
初代店主の長濱安秋さん:
「ここのネジを緩めて、この位置を変えればいいんだ」
目的は、先日修理した水道の確認のためでした。
長濱さん:
「僕が(修理を)やれるもんで、やれるところは僕がやる。お店をやっている時も自分でやっていたから。勝手知ったるところだから、どこが悪いと言われればすぐ直せる。幼い時から知ってるもんで、“他人”じゃないから裏から入って来て勝手にやるんだ」
「他人じゃない」という2人の出会いは、村越さんが小学生だった14年前の2009年のことです。
長濱さん:
「もともとは(村越さんの)お母さんがちゃんぽんを食べにみえて、いろんな雑談で『私も九州(長崎)なんだわ』って。それからお付き合いするようになって」
長崎県の出身、そしてこの名古屋の地で出会った縁で、村越さんは常連になりました。
そして、転機は思わぬ形で訪れました。2年前の2021年、長濱さんの妻が亡くなり、長濱さんは体力面も考えて店を閉めました。
長濱さん:
「(店を)閉めている間も、ちょこちょこコーヒー飲んだり、雑談はしていたから…。村越さんが休みの時には墓参りに来てくれるもんだから、本人が商売やりたいっていうのは知っていたから『どう?やってみない?』って」
村越さん:
「正直、自分の身の回りのことは、何から何までマスターとママにいろいろ話をしながらご飯を食べたりしていたんで、何をするのかとか将来どうしていきたいのかとかマスターは知っていたと思うし」
長濱さんには息子がいますが、別の仕事に就いていました。家族のように接していた村越さんが飲食店に興味があることを知っていたため、血の繋がりはありませんが、村越さんに店を託しました。
リニューアルした店名の「コンネ」は、長崎の方言で「おいで」という意味です。
長濱さんと村越さんの思いを、故郷の言葉で表現しました。
■2人の縁の始まり「長崎」の名物が新たな看板メニュー
店をリニューアルしてから新しく挑戦したことがあります。それが、2代目オリジナルの看板メニューとして考案した、長崎のご当地メニュー「トルコライス」です。
村越さん:
「長崎に帰った時に、向こうの喫茶店に行くとトルコライスって喫茶のメニューとして置いてあって、見栄えもいいし味もおいしいし、万人受けする味だなって。長崎らしさを残すってところで選びました」
ケチャップとウスターソースで炒めたパスタに…。
バターと海老の出汁で炊いたピラフ。
さらに、大きなトンカツをトッピングして…。
トマトと玉ねぎをたっぷり使った濃厚なデミグラスソースがかけた、とってもボリューミーなワンプレート。これだけ乗って1300円です。
男性客:
「大好きな見た目です、ボリュームがあって」
別の男性客:
「好きな物が一皿にまとまっていていいかなって思う」
お客さんからも好評です。そのトルコライスを長濱さんにも食べてもらいました。
長濱さん:
「これが長崎で有名って知らなかった。(トルコライスを食べて)いいんじゃないですか。新しい目玉を作ってやるってことは」
村越さん:
「デミソ、うまいやろ。僕が作ったご飯を、マスターが食べるとは思わなかったね」
長濱さん:
「ね、実現するとは思わんかった。おいしい」
初代のお墨付きをもらうことができました。2代目の看板メニュー「トルコライス」は合格です。
■まさかの共通点も2代目は「偶然じゃない」…受け継ぐ思いはより大きく
長濱さんが店を始めたのは、1973年の5月1日で25歳の時でした。そして、その日からちょうど50年が経った2023年の5月1日、村越さんが跡を継ぎました。村越さんも2023年、誕生日を迎えると25歳になります。
長濱さん:
「偶然が結構あるんです。いつ開店するのって聞いたら5月1日。いくつって聞いたら24歳。じゃあ一緒じゃん。まるっきりそういうところが重なっちゃってね」
半世紀を経てバトンをつないだ、マスターと常連客。
村越さん:
「偶然じゃないなって気がしましたもん。ここまで重なっている部分が多いと。ここで50年間マスターが守ってきた喫茶店なので、地域の人の憩いの場であったり新しい人たちのたまり場であったり、ここ春田に温かい喫茶店を構えておきたいと思っています」
2023年6月8日放送