静かなのに賑やか…耳の不自由な店員が手話や筆談で接客する「サイレントカフェ」客も店員も満面の笑み
2023年6月、名古屋市千種区にオープンした「サイレントカフェR(あーる)」は、耳の聞こえないスタッフが手話や筆談で接客します。静かなのに賑やかなカフェとして人気を呼んでいます。
■手話と筆談で楽しいコミュニケーション…静かなのに賑やかな「サイレントカフェR」
千種区の今池に2023年6月にオープンした「サイレントカフェR」。
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お店で提供しているのは、ベトナムの高地で生産される甘い香りと深い味わいのコーヒー。
プラス150円で たっぷりのモーニングもついてきます。
このお店には珍しい特徴があります。手話や筆談で接客するため、驚くほど“静か”なことです。
受験勉強する女性客:
「管理栄養士の国家試験の勉強をしています。しゃべり声とかあまりしないので、やりやすいです」
パソコンで仕事する男性客:
「静かな空間でいいと思います」
働いているのは耳が聞こえない・聞こえづらいスタッフ7人と、手話通訳の担当スタッフ3人です。
店に入ると、スタッフが手話を交えて迎えてくれます。
スタッフの石原みず季さん(手話を交え):
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
注文は欲しいメニューのスティックを選びます。
そして、ホットかアイスの箱に入れて伝える仕組みです。
手話が出来なくても交流できるように「メモパッド」も用意されています。
スタッフ(メモパッドで筆談):
〈サイレントカフェ、寄って下さってありがとうございます。暑くないでしょうか?〉
客:
「大丈夫です、暑くないです」
オープンから3カ月が過ぎましたが、既に常連客が増えてきています。
常連の女性(62):
「居心地がいいですよ。他の喫茶店にも行っていたんですけど、ここを知ってからは、ほぼ毎日。(耳が遠くなってきて)何回聞いても怒られないし、嫌な顔されないし。知らない人でも、すぐお友達になれる」
3歳の時に突然耳が聞こえなくなったという鈴木さん(74)も常連客の1人です。
食事をした後、お客さんのテーブルを回ります。
鈴木さんの手話を、スタッフが通訳してくれます。
スタッフ:
「(通訳して)『年は?』って聞いています、女性に」
年を聞かれた女性は唇の前に人差し指を立て、ジェスチャーで返事。
スタッフ:
「(手話を交えて鈴木さんに)内緒。聞いちゃダメ」
鈴木さん(筆談):
〈若い時に空手をやっている〉
話が盛り上がると鈴木さんは「空手」を披露。
カードで自己紹介もしていました。
スタッフ:
「アピール?すご~」
とても静かで、とても賑やかなカフェです。
■小学生も満面の笑み…身振り手振りでも伝える元気印の女性スタッフ
この店一番の元気印は、スタッフの四元美鈴(よつもと・みすず)さんです。
生まれつき耳が聞こえませんが、手話通訳のスタッフを通じてお客さんと積極的に交流します。
四元さん(手話をスタッフが通訳):
「お母さんには本当に小さい時から可愛がってもらったんだけど、いつか社会人になった時にコミュニケーションとれないと困るということで、自立できるように厳しくはたかれることもあった。(お母さんが)『ぱ・ば・は』と発声して、口の形から何を言っているのか、会話を読み取る練習をしてくれた。今ではお母さんに感謝の気持ちでいっぱい」
四元さん(手話):
「『楽しかったよ』『ありがとう』って、帰ってもらえるとうれしい。小さいころからウエイトレスになるのが夢だったから」
お客さんの中に、小学5年生の女の子がいました。
女の子(手話):
「質問いいですか?」
女の子(筆談):
〈生活の中で困ることはなんですか?〉
四元さん(手話):
「冷蔵庫をしっかり閉めたと思ったけれど、実際は開いていて、ドアの警告音がピーピーと鳴るよね。(家族が)ピーピーと音が聞こえるよと、慌てて閉めにいったんだよ」
女の子(筆談):
〈朝起きるとき、どうやって起きる?〉
四元さん(手話):
「振動式の時計がブルブルと」
女の子:
「下校する時に電車の中で、手話で会話している人を見て、手話と表情だけで会話できているのがすごいなと思って。いま私は手話を勉強しているんですけど、美鈴さんは表情が大きいから、手話が何だろうと思っても、表情とか動きとかでよく分かる」
■「こんなに楽しい職場はない」…以前の職場で孤独を感じていた女性スタッフ
サイレントカフェには、三重の天然水で作るふわふわのかき氷があります。
作っているのは22歳で最年少のスタッフ、石原みず季(いしはらみずき)さんです。
石原さん(手話を交え):
「こんなに楽しい職場は他にないと思っているので、一生働きたいと思っています」
石原さんの部屋は、大好きな漫画の本とアイドルのグッズでいっぱいです。
石原さんはろう学校の高等科を卒業後、建設会社、飲食店など、職場を転々としてきました。
石原さん(手話を交え):
「私が入った会社はろう者がいなくて、私1人だけで、コミュニケーションとかちょっと気を使ってしまう。長い話になると、ちょっと理解できなくなって筆談をお願いするけど、時間をとってしまうから、ちょっと申し訳ないなという気持ちもあって」
「ろう」のため、相手の口の動きから会話を理解しますが、うまく読み取ることができなかったりと困ることが多く、孤独を感じていたといいます。
石原さん(手話を交え):
「(サイレントカフェは)すっごい楽しいです。正社員登用をこれから考えているみたいなので、立候補しますと言いました」
■がんと闘いながら店を営むオーナー「何があってもやめるわけにはいかない」
店のオーナー・兵藤元朗(もとお 57)さんは、去年2022年までは会社員でした。
兵藤元朗さん:
「すごくやりがいを感じてくれているようなので、非常にうれしく思います」
この店をオープンしたきっかけは、ベトナム旅行で見つけたろう者が運営するカフェでした。
そこで感じた静けさと居心地のよさに惹かれ、名古屋にもこんな空間を作りたいと、35年務めたエンジニアリング会社を退職しました。
兵藤さん:
「7年前と4年前は膀胱がんをやりました。昨年は舌がん」
過去4回、がんを経験している兵藤さん。2022年には舌がんになり、今は喋りづらい状態です。
店の経営はまだ軌道にのっていないといいますが、始めたことに喜びを感じています。
兵藤さん:
「本当にうれしいかぎりです。最初はそこまで思っていなかったですけど、一緒に働いているうちに、スタッフの思いが伝わってきて、もうこれは何があってもやめるわけにはいかないという気持ちになりました」
■客にもスタッフにも笑顔広がる「静かで賑やかなカフェ」
取材に訪れたこの日は、保育士を目指す大学生のグループが手話を習いたいと、来店しました。講師を務めるのは、お店の常連客です。
講師の男性客:
「手話は初めて?顔を時計と思って12時」
講師の男性客:
「人と人が挨拶で、こんにちは」
講師の男性客:
「(こんにちはの前に)『夜』を入れると、こんばんは」
大学生:
「通じるとうれしい」
別の大学生:
「一体感がある、同じことするから」
講師の男性客:
「若い人たちが手話に興味を持ってくれて、すごくうれしい」
四元さんと会話していた小学生の女の子が、帰ろうとしていました。
四元さん(手話):
「手話お話できて、楽しかったね。絵も上手だね。質問もしてくれて、ありがとう」
女の子(筆談):
「手話で話せてとても楽しかったです」
「サイレントカフェR」はとても静かで、とても賑やかなカフェです。
2023年9月25日放送