不登校児も笑顔で通う…学校に行かない子供の新たな選択肢「オルタナティブスクール」課題は費用と卒業資格
全国で「不登校」などの子供が増え続けていて「オルタナティブスクール」という新しい形の学校が注目されている。“もう一つの選択肢“という意味の、オルタナティブスクールを取材すると、その必要性と大きな課題が見えてきた。
■独自の教育理念や方針で運営される「オルタナティブスクール」
名古屋市緑区にある学校「あいち惟の森(ゆいのもり)」。
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民家だった建物を利用した学校で、愛知県内の小学1年生から中学2年生まで27人が通っている。
青野桐子・あいち惟の森校長:
「『もう1つの学校』っていうふうに言われています。オルタナティブスクールは、スクールが抱える教育理念みたいなのがあって、その実現を目指している」
オルタナティブスクールとは、直訳すると「もう一つの選択肢の学校」だ。はっきりとした定義はないが、現在の公教育とは異なる独自の教育理念や方針で運営される学校の総称で、フリースクールなども含まれる。
学校の特徴を児童に聞いた。
児童:
「1週間の何を勉強するかっていう計画。例えば月曜日の1コマ目は漢字のプリント3ページやって、2コマ目には“算数ラボ”っていうドリルの1ページくらい出来たらいいなって。自分で決められる」
子供たちが取り組んでいたのは、1週間の“自分の計画”づくりだ。
公立の学校のように決められた時間割や学習カリキュラムはなく、何に取り組むかを子供たちが自分で決めている。
青野校長:
「来週何しようかなっていうのをそれぞれ考えて、自分は今ここまで進んだから、次はここやりたいとか。自分で計画を立てて、学んでいくっていうスタイル。自分で決めるからやり切るというか、人からやれって言われるよりは、自分で学ぶっていうところが全然違う」
授業中の様子を覗かせてもらうと、勉強を教え合う子供たちもいれば、ひとりで黙々と勉強する子もいた。
漫画を読んでいる子や…。
早弁する子もいるが、先生に注意されることはない。
青野校長:
「ルールは子供たちが決めているので、一般で言う学則とか校則とかそういうのではなくて、一緒にいる1人1人が当事者なので、他の人の問題も自分事として一緒に考えていく」
そして、朝登校した後の取り組みにも特徴があった。
青野校長:
「朝の『サークルタイム』っていう時間なんですけども、子供たちが朝、色んな気持ちで登校してくるので、ここの15分の時間を使って、ちょっと気持ちの切り替えをしたりということを大事にしたりしています」
ここに通う子供たちは、新しい教育の形に共感して入学しているが、その半数近くが「不登校」だ。様々な特徴がある子供たちが、自分の気持ちの整理をできるように毎朝取り組んでいる。
青野校長:
「人は多様なのに、1つの学び方でやっている“公教育”のあり方がちょっと窮屈だったり、そこの学び方に合わないっていう子たちが増えてきていて、その子たちが自分の学ぶ場を探す」
まさに、子供たちが「もう一つの選択肢」を探す「オルタナティブスクール」だ。
■小3女児が通う母親「学校に『行く』『行かない』以外の選択肢を」
小学3年生の金子陽ちゃん(8)も、ここに通うことになったきっかけは「不登校」だった。
両親と小学4年の姉・樹ちゃん(9)、ペットの元(げん)くんと暮らしている。
陽ちゃんは地元の公立の小学校に入学したが、そこに馴染むことができなかった。
母・金子知世さん:
「まず朝、学校に行ってくれないので、一緒に学校について行っていたんですよ。教室まで送って、そこで先生に渡してバイバイするんですけど、廊下でのたうち回って泣きわめいたり、私の服を引っ張って嫌がったりとかっていうのが半年ぐらいありましたかね」
陽ちゃんは布を集めていて、時間があるときにお手玉や髪留めを作るのが好きだという。
知世さん:
「元々、行動力の源が『やりたい』とか『興味』とか『関心』だったりするので。例えば図工ひとつにしても、描く絵ってお題が決まっているじゃないですか、学校って。『きょうは何の絵を描きましょう』とか。とにかく彼女(陽ちゃん)の場合は、別にいま太陽の絵は書きたくないんだけど、みたいな…。 (学校の)授業内容が悪いとか、先生が悪いとか、そういうのじゃなくて、単に彼女(陽ちゃん)に合わない」
自分のやりたいことが他の子より明確な陽ちゃんは、小学校の授業に合わせることができず、入学して8カ月後に小学校に行くことをやめた。
その後、長女の樹ちゃんも遅刻や早退を繰り返すようになり、学校に行けなくなった。
知世さん:
「公立(小学校)だと行くか行かないかの、0か100になっているかなって思うことがあって。色んな理由で行かない子は、行かせるように努力するとか、そんな感じ。どうしたら(学校に)来られるかをみんな頑張るとか。そういう行かないとか行けないって意思表示した子に、もっと平等に他の選択肢があるといいなと思います」
もう一つの選択肢を求めていた母・知世さんが見つけたのが、オルタナティブスクールだった。
■高額な授業料や卒業資格が得られない…無認可のオルタナティブスクールの課題
陽ちゃん姉妹が通うあいち惟の森では、学校生活のことも子供たちが意見を出して決めている。
誰かの意見を否定することはなく、必ずみんなで話し合っている。
公立の小学校になじめなかった陽ちゃんも、新しい居場所を見つけていた。
知世さん:
「公立小学校のままだったら味わえない生活をしているので、それはそれでありがたい。(泣きわめいていたのが)懐かしいですよね。今はもう笑い話のように『ああだったね』とか言って」
まさに「もう一つの選択肢」となっている「オルタナティブスクール」だが、そこには大きな課題があった。
知世さん:
「やっぱり皆が通える学校ではないなっていうのは思っていて、やっぱりそれは費用面。お金がすごくかかる」
オルタナティブスクールの多くは無認可のため、行政の補助がない。そのため運営資金の大部分を授業料に頼るしかなく、「あいち惟の森」では入学金なども合わせて1人あたり年間90万円ほどの授業料がかかる(入学金25万円、月々5万円)。
課題は他にもある。
青野校長:
「同じようにここにきて同じ教育を受けているんだけれども、この子は校長先生が認めてくれているから出席扱いね、だけどこの子は校長先生からOKが出ていないで出席扱いにはなりませんよ、ということが実際には起きている」
無認可のため、オルタナティブスクールでは卒業資格を得ることができない。そのため、子供たちは公立の学校に在籍しながら通っているが、「出席扱い」になるかどうかは学校によってバラバラだという。
名古屋市立の小中学校でも、その学校の校長に判断が委ねられていて、国からも具体的な取り組みの指示はないという。
名古屋市教委・新しい学校づくり推進室の平松伯文さん:
「あくまでも子供達の様子や活動の状況を踏まえて、校長先生に判断していただいているというのが状況なんですけど。やはりどうしても(出欠の)差が出てくるところがあるかなと思います。自分を受け入れてくれる場所がある、仲間がいる、そういった環境づくりをしていくことがとても大事なことだなと。(今後は)支援の手立てを拡充していきたいなと思っています」
あいち惟の森に通う小学6年の男子児童:
「なんか遊べる時間が多かったりするし、勉強とかも自分で決められるから楽しい。勝手に相手に決められないから、自分のペースでやれる」
あいち惟の森に通う中学2年の男子生徒:
「子供達が提案したことをちゃんと決められるっていうのが、普通の公立学校では全然ないので、いいと思います」
青野校長:
「(学校に)行けていない状態が人それぞれ違うと思うんですけど、行かないという選択を出来ていることがまずすごくて、自分の意思をちゃんと表現できているということだと思うので、そうなったらやっぱりその子がいいと思える所を探して、その子にとっての学び場を選んでいけるようになるといいなって思います」
文部科学省によると令和3年度(2021年度)、学校を1年に30日以上欠席した「不登校」の小中学生は過去最多の約25万人で、9年連続で増加し続けている。
2017年、不登校の児童生徒が教育の機会を損なわないようにと「教育機会確保法」が施行された。オルタナティブスクールなど無認可の民間教育も教育の場として認めるという法律だが、施行から6年が経った今も、国はオルタナティブスクールに関して調査・研究しかしていない。具体的なプランはなく、事実上、オルタナティブスクールは教育の場として認められていないのが現状だ。
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2023年9月14日放送