パリオリンピック出場の最後の1枠が内定する、名古屋ウィメンズマラソンが10日、行われます。最も注目されているのが愛知県豊橋市出身、名古屋大学卒の鈴木亜由子選手です。

 出場の条件は、2時間18分59秒の日本記録更新という高い壁です。そして、もう一つ乗り越えなくてはならなかったのは、自分の心の中にあった壁でした。

■力出せなかったMGC…最後の1枠はさらに厳しい「日本記録更新」が条件

鈴木亜由子選手:
「やるしかないんで。冷静に考えたらそりゃ無理というか、大変でしょうけど、やるだけなんで」

 3大会連続のオリンピック出場を目指す鈴木亜由子選手。パリオリンピックのマラソン女子日本代表の座を掴むため、標高1600mの地で高地トレーニングを行っていました。

鈴木選手:
「身体は日々ギリギリなんですけど、でもギリギリを攻めないとやっぱり結果もついてこないですし」

 ここまで追い込んで走り続けるのには、あまりにも高いパリオリンピック出場の条件があったからです。

 2023年10月に行われたマラソングランドチャンピオンシップ=MGCでは、上位2名にパリオリンピックの出場権が与えられますが、鈴木選手は激しい雨の中行われたレースで本来の姿とは程遠く、結果は12位。パリへの切符を掴みとることができませんでした。

鈴木選手:
「ああいう厳しい状況の中でも積極的にレースを進めていくという、精神面での強さも足りなかったなと。フィジカル面でもそうですし、気持ちの面でも1位2位の選手は強かったなと思います」

 パリへの切符は残り1枚。しかし1月、出場の条件はさらに厳しさを増しました。大阪国際女子マラソンで、前田穂南選手が野口みずきさんの持つ日本記録を19年ぶりに更新。

 名古屋がパリへの切符を掴むラストチャンス。そしてオリンピックへ立ちはだかる日本記録への壁。

 鈴木選手の自己ベストは、2023年の名古屋で記録した2時間21分52秒です。

 前田選手の日本記録との差は約3分。その差を縮めることは並大抵のことではありません。

■辛いケガの記憶がブレーキに…今回は「故障しても悔いはない」

 かつて名将・小出義雄監督の下でコーチを務め、鈴木選手を入社以来指導し続ける高橋昌彦監督は…。

JP日本郵政Gの高橋昌彦監督:
「もしかすると故障するかもしれない、故障してスタートラインに立てないかもしれないし。それくらいの覚悟を持ってやっていこうかという話は本人にもしました」

鈴木選手:
「とにかく攻めるしかないなと。それで故障しても悔いはないですし、そういった覚悟でやらないと(パリへの切符は)勝ち取れないと思っています」

 故障しても後悔しない。そう言えるのには、過去の辛い記憶があったからです。

 鈴木選手は早くから注目され、中学2年生の時には全国中学陸上選手権で800m・1500mの2冠、大会史上初の快挙を成し遂げました。

 しかし、陸上を始めてから足のケガが、鈴木選手をずっと悩ませ続けていました。スピードを追い求める代償はあまりにも大きく、高校時代には2度の大きな手術を行いました。

 それでも2016年にはリオで5000mに出場、2021年には東京でマラソン日本代表に。しかし、2度のオリンピックの舞台で思うような結果が出ませんでした。

 レース中、鈴木選手が思い出してしまうのはケガの記憶です。いつも頭をよぎり、どこかで自分にセーブをかけてしまうことがありました。

鈴木選手:
「よく話に聞くのは、高橋尚子さんとか野口みずきさんとかって、メダルをとるかケガをするか、どっちをとるかみたいな判断の時に、間違いなくケガをしてもいいからメダルをとりにいく、そういう気持ちでやっていたという話を聞くんですけど。(私には)そこまでの強い気持ちが、足がぶっ壊れてもいいからとりに行くんだというのはなかったのかなと」

■「競技人生の集大成」日本記録更新には1km4秒の短縮

 名古屋ウィメンズでの日本記録更新へ、2月4日、調整として丸亀ハーフマラソンに出場しました。想定よりも速いタイムを出すなど、順調な仕上がりを見せた鈴木選手の元にレース後、訪れたのは4大会連続でオリンピックに出場した福士加代子さんです。

鈴木選手:
「なんかないですか?一言」

福士加代子さん:
「ないよ!やるしかないじゃん!やるしかないから、もう。今日のペースをちょっと遅くして、バーンっていけばいい!」

鈴木選手:
「ちょっと遅くして、あと2倍」

福士加代子さん:
「私は走れなかった人だから、お前は走りなさいよ!」

福士加代子さん:
「なんか緊張度はありましたよね。今日の走りを次にまた生かそうというような。自分の可能性を信じて、またチャレンジするんだろうなという意気込みは感じましたね。結構目標はしっかりしたんじゃないかなと思うんで」

 名古屋ウィメンズでの目標は明瞭、日本記録更新へのメニューをこなしていきます。

 高橋監督が作成した日本記録更新のためのノート。

 鈴木選手の自己ベストの1km平均タイムは3分21秒73、前田選手が日本記録更新をした時の1km平均タイムは3分17秒63です。鈴木選手は1kmで4秒縮めないと日本記録更新とはなりません。

 そのためには、いかにエネルギーロスをなくしスピードを維持できるか。今まで経験したことのない設定タイムで走りこんでいきます。

鈴木選手:
「これまでよりも攻めた練習ができていると思うので、本当に恐れずにチャレンジの気持ちで、また違う景色を見てみたいなという強い思いはあります」

 パリへのラストチャンス。鈴木選手が名古屋で日本記録更新へ挑みます。

鈴木選手:
「もう一度オリンピックの舞台で走りたいですし、本当にこれまでの競技人生の集大成となると思いますので。すごい高い目標があって、それに挑めるってこの先一生ないので、しかもそれが地元ということで。頑張ります」