1年を通して最も痴漢の被害相談が急増するのが4月です。電車や駅で目を光らせる鉄道警察隊の捜査員に密着取材すると、法の網を抜けて欲望を満たそうという手口もありました。

■4月から痴漢被害などの相談が急増…取り締まる“鉄警隊”

 名古屋駅に拠点を構える愛知県警鉄道警察隊は、スリ、盗撮、それに痴漢といった鉄道で起きる犯罪を取り締まる専門部隊で、通称“鉄警隊(てっけいたい)”と呼ばれています。

【動画で見る】通勤時間帯に駅に30分以上留まる男も…愛知県警「鉄警隊」の捜査に密着 春になると被害相談が急増する女性の被害

捜査の性質上、大半の捜査員がメディアに顔を明かすことはありません。

毎年春になると、鉄道や駅での痴漢被害などの警察への相談が増加します。愛知県警によりますと去年2023年は4月から急増したということです。

2023年は1月から3月は毎月20件程度でしたが、4月になって一気に30件を超えました。

愛知県警鉄道警察隊の村上晴美警部補は「4月になると初めて通勤や通学で鉄道を利用する方もいて、危ないとされるドア付近に立ち止まってしまう若い子が、痴漢のターゲットになってしまう」と注意を呼びかけます。

■通勤時間帯のベンチに長時間居座る男性に捜査員は違和感

 ある平日の午前8時半過ぎ、名古屋市中区の市営地下鉄伏見駅に、鉄警隊の捜査員の姿がありました。

鉄警隊の基本体制は1チーム2人以上。このチームは、地下鉄東山線伏見駅で目を光らせていました。

捜査員の目に留まったのは、ベンチに座っていた男性です。不審な点はないように見えましたが、女性捜査員は「何が目的でここに座っているのかわからない」と違和感があるといいます。

この男性は、確認できただけでも30分以上、顔の前にスマートフォンを持ち、ベンチにとどまっていました。

その後も人が行き交う地下街で、スマホを手に佇む男性。

こうした行為に、鉄警隊が疑うことがあります。

愛知県警鉄道警察隊の村上晴美警部補:
「『全身の容姿撮影』ということで女子高校生やOLの女性を盗撮するやつはちょこちょこ。ホーム上だとか、駅の中。僕らが話を聞いている限りでは『自己満足だ』と」

全身の盗撮は、スマホの普及と共に増加したといいます。去年2023年に施行された“撮影罪”=性的姿態撮影等処罰法の適用範囲ではなく、現時点で即、取り締まることは困難ですが、被害者だけでなく、加害者も撲滅することが鉄警隊の使命です。

村上警部補:
「法律に該当しない場合でも、『盗撮の予備軍』ということで指導はする」

■電車にも乗らず30分以上駅でキョロキョロする不審な男も

 別の捜査員の元に「不審な男性」の情報が入り、名古屋駅から伏見駅へ。

階段を下りて柱の前で立ち止まり、今度は下りたばかりの階段を上る。明らかに行動が不自然な男性がいました。

男性捜査員:
「30分以上同じこの駅のホームで電車にも乗らずに、周りをきょろきょろと見渡してるような状況なので」

この男性は、以前検挙されていて、名古屋駅から乗って来た電車を降り、再び名古屋駅方面の電車に乗り換えました。

そして今度は、一度ホームに降りて同じ電車の別の車両へ。5人の捜査員で囲み、慎重にそして、見失わないように尾行を試みましたが、通勤ラッシュも落ち着いた車内では尾行に気付かれるリスクもあり、この日の追跡は中断。目的はわからぬまま、男性は姿を消しました。

2023年の1年間に寄せられた痴漢被害の相談303件に対し、愛知県警が検挙した駅や電車での痴漢は、23件。連日警戒にあたりながらも、原則、犯行の現認が必要となる痴漢捜査の難しさを物語っています。

■検挙が難しい急増する「触らない痴漢」

 そして、法律では規制しきれない「触らない痴漢」と呼ばれる新たな手口も、近年急増しているといいます。

村上警部補:
「今日は何の目的で?」

男:
「通勤」

村上警部補:
「正直に言ってください。きょうは逮捕とかじゃないけどその前にちょっと指導するということで」

この日、捜査員は60代の男のある行為を目撃していました。

男性捜査員:
「あんなにまだ隙間がある中で、いきなり女性の後ろくっついてね、気持ち悪いですよ」

男:
「はい」

男性捜査員:
「そういう相談もいっぱいあるんですよね」

男は車内には十分なスペースがあったにもかかわらず、優先席付近にいた若い女性のすぐ真後ろに、体をぴったり寄せていました。

そして追及する捜査員に、男が動機を口にしました。

男:
「においとか」

男性捜査員:
「においが好きなの?」

男:
「うん」

「女性の匂いを嗅ぎたかった」。法律では規制しきれない、“触らない痴漢”といわれる行為です。

“触らない痴漢”とは「わざと至近距離に近づいてにおいをかぐ」「首筋や耳などに息を吹きかける」「見知らぬ相手に、スマホのデータ共有機能でわいせつ画像を送り付ける」といった行為で、近年急増している、新たな痴漢の手口です。

痴漢行為を規制する、愛知県の迷惑行為防止条例では、「卑猥な行為」として「体への接触」は明記されているものの、匂いを嗅ぐなどの「触らない痴漢」には明確な記述がありません。

男性捜査員:
「それがエスカレートしていって、手を触っただとかそういう話になってくると、もちろん捜査員が見ていたら、現行犯逮捕します」

男:
「はい」

男性捜査員:
「はっきり言って女性からしたらあんな乗り方してねやったら、気持ち悪いんですわ」

男:
「はい…」

そして男は「触らない痴漢」の先にあった、本心も語りました。

村上警部補:
「きっかけっていうのはどういう?」

男:
「ちょっと性的欲求が出ちゃったかな。体に触れるかもって」

今回は、女性側に触られた認識がなく、「二度と同じようなことをしない」と書面で約束することで、男は逮捕ではなく「警告」となりました。

村上警部補:
「手の甲で揺れに乗じて“当たる”だとか、股間の押し当てですね、これが即犯罪となるかといったらすれすれな状態でそういう行為を繰り返すやつがいます。現行犯逮捕できなくても『先制予防活動』といいまして、先に警察から声掛けして指導する方法もとっています」

手口が多様化する、電車での痴漢や盗撮。被害に遭う女性が1人でもいなくなるように、犯行の芽を摘むことが、鉄道警察=鉄警隊の信念です。

2024年4月5日放送