やりたいことできる環境増えたら…突出した才能“ギフテッド”少年の苦悩 日本に足りない理解と居場所
IQが高く、突出した才能を発揮する子供は「ギフテッド」と呼ばれています。「ギフテッド」とは「神から授かった人」を意味していますが、日本の教育ではギフテッドに対する誤解や彼らの居場所が全く足りていない現状があります。
■カナダから帰国し…「ギフテッド」が日本の小学校で感じた生きづらさ
青木誠太郎くん(15)は、愛知県みよし市出身の中学3年生(2024年2月放送時)ですが、いまは東京都町田市で暮らしています。
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取材に訪れた日、趣味のプログラミングをしていました。ウェブサイトやゲームの制作もお手の物の誠太郎くんは、いわゆる「ギフテッド」です。
英語で「授かった人」を意味する「ギフテッド」は、一般的な数値が100知能指数=IQが130以上で、特定の分野で突出した才能を発揮する子供がそう呼ばれています。
誠太郎くんは「言語理解」のIQが154で、平均のおよそ1.5倍です。
青木誠太郎くん:
「できて形になってそれが動く。それが一番楽しいのと(プログラムを)書いている時はやりたいことに向かってやればよいだけなので無心でやれる」
誠太郎くんは、年長から小学1年のおよそ半年間をカナダで過ごし、英語も習得していました。しかし、カナダから地元の愛知県みよし市に戻ってきたとき、日本の小学校で「生きづらさ」を感じたといいます。
誠太郎くん:
「そのころは算数が特にやっている内容が簡単で、一番退屈な授業だった。孤独というほどでもないんですけど、私の喋るスピードが速すぎて(周りの人と)会話が成り立たないことが多々あった」
誠太郎くんの母・里絵さん:
「カナダの小学校では国語はみんなでディスカッションする授業だけど、日本に帰ってきたら小学校の授業ではみんなで教科書を読む時間なので、その違いがやっぱり嫌だって言って面白くないと言い始めたのはそこです」
4年生の11月から小学校に行かなくなり、精神科で検査を受けたところ「ギフテッド」であることがわかりました。
■「ギフテッド教育」を取り入れたフリースクールとの出会い
「ギフテッド」というと、世間では「超天才」や「恵まれた人」ととらえられがちですが、特定の分野が突出していることで「生きづらさ」を感じる子供も多く、誠太郎くんもその1人です。
誠太郎くんの場合「言語理解」のIQが154と飛びぬけて高いものの、目で見た情報を書き写すなどの「処理速度」は88で平均より低く、2つの分野で60以上もの差があります。
検査した結果が書かれた紙には「学校の授業は物足りないところがあるけれども、得意なところと苦手なところの差の広さが、彼の生きづらさにつながっている」と書かれていました。
誠太郎くんは、得意な分野に偏りがあることで小学校に行かなくなり、家にいても何もしない時間が多かったといいます。
母の里絵さんは、当時まだ日本ではあまり知られていなかった「ギフテッド」について調べたといいます。
母・里絵さん:
「一番最初に探し始めたときは、たしかまだ日本語の本がそんなに出ていなくて、あの辺の英語の本を読んでみて」
夫の東京転勤を機に誠太郎くんの新しい居場所を探していたところ、出会ったのが誠太郎くんが通う東京都中野区の「翔和(しょうわ)学園」です。
日本でいち早く「ギフテッド教育」を取り入れた、NPO法人が運営するフリースクールで、IQが高い子に限らず、発達障害などの特性がある子供たちが学んでいます。
朝、まず行うのは、「チェックイン」と呼ばれる取り組みです。さまざまな特性がある子供たちが、朝の時点での自分の感情とその原因に向き合い、1日の見通しを立てることから始まります。
誠太郎くんが真剣な表情で作っていたのは「イオン風(ふう)発生装置」。小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたエンジンと同じ原理の装置です。
誠太郎くん:
「海外のYouTuberがイオン風を吹かせる装置を作っていて、これ面白そうだなと思って」
翔和学園では、自分が興味をもったことを子供たちが自ら「マイプロジェクト」に設定して学びを深めていきます。
翔和学園の中村朋彦さん:
「あるレベルまでは担当の教員がサポートしながら、ある一定のレベル以上は教員では教えきれないので、外部の専門家の方に力を借りてサポートしていただいています」
この日は、東京大学の航空宇宙工学科に通う学生が、直接指導をしていました。
東京大学航空宇宙工学科4年の田中康暉さん:
「3カ月くらい前から(誠太郎くんを教えていて)地頭のよさはそのままに、設計するアプリの操作とかノウハウ、プラズマに関する知識ですとか、吸収が早いので教えていてこちらが楽しくなる生徒さんです」
Q田中さんに教えてもらって?
誠太郎くん:
「CAD(製図・設計ソフト)とかも教えてもらわない限り全然できなかったので、感謝していますし、やっていて楽しかった」
■文科省も動き出すも…日本のギフテッド教育の課題は
笑顔を見せながら仲間と一緒に学ぶ誠太郎くんですが、小学5年生で入園した当時は全く違ったといいます。
翔和学園の中村朋彦さん:
「ジョギングの時間に、彼が教室で寝転がって本を読んでいたので『ジョギング行かないの』と声をかけたら『行かねえよ』と。『なんで?』『意味ねえし』『でもジョギングってリズミカルに体動かして、日の光を浴びて健康に大事なんだけど』と言ったら『エビデンスあんの?』っていうんですよね。『まあ俺の人生にとって意味があるっていうエビデンスがないと俺やらないから』と。一回聞けばわかることをなんども説明されたりとか、一回書いたら覚える漢字を何回も書かなきゃいけないことにおそらく疑問に思っていたはずです。それに対して高圧的な指導をうけてしまったりするなかで、世の中みんな敵に見えていたんだと思います」
世の中が「敵」に見える。「ギフテッド」など、子供一人一人の個性を生かすことができていない日本の教育現場の実情を反映しているのかもしれません。
翔和学園の中村朋彦さん:
「ある意味では、この世の中は平均的な人に合わせて作られています。IQでいえば100くらいの人ですよね。IQ100の世界はみんな見えているわけですよ。そうするとIQ80の子に何をしてあげれば100に近づくかは割とイメージしやすい。でもIQ 150の世界の見え方ってほとんど知らない、私だって見たことないです。そうすると、そこにどうアプローチするのかって非常に難しいと思うんですね」
文部科学省は2023年度から、こうした「特異な才能のある子ども」への教育支援を始めましたが、まだ調査や研究をしているだけで支援が必要な子供たちには届いていません。
里絵さん:
「そもそも東京に1個しか見つからなかった時点で、まず誰でもは通えないですよね。それに授業料もやっぱり高くて」
翔和学園のようなフリースクールは無認可のため、行政の補助は一切なく、授業料に頼っているのが現状で、経費などを切り詰めた運営をしていますが、年間の学費は小中学生でおよそ160万円です。子供を通わせるのは簡単ではありません。
里絵さん:
「今どうしても学校から出てしまってフリースクールとか、何か別の形を自分で探さない限り見つけられないので、学校の中にもう少しいろんな選択肢があっても、入口としてはいいのではないかとは思います」
誠太郎くん:
「(翔和学園は)話が合う子が結構いて、普通に話をしていて楽しかったりして。翔和学園とかに通えていなかったら、まだ全然勉強とかもせずに、家にずっといたと思う。私みたいに授業がおもしろくない、みたいな人はいっぱいいると思うので、やりたいことをある程度好きにできる環境がもうちょっと増えたらいいなと思いますね」
2024年2月22日放送