一審「社会通念」二審「社会的な意識」でそれぞれ棄却…同性パートナーも『遺族』最高裁で破られた社会の壁
同性パートナーを殺害された男性が、配偶者として『犯罪被害者給付金』を受給できるかが争われた裁判で、最高裁は2024年3月、「受給対象になりうる」とする判断を示した。訴えを起こしてから6年がかかったこの裁判で、立ちはだかったのは“同性を認めない”という社会の壁だった。
■20年寄り添ったパートナーが殺害されるも遺族給付金は“不支給”
2024年3月26日、東京の最高裁判所に姿を見せた愛知県に住む内山靖英(やすひで 49)さんは、ある事件のショックで、声を失ったという。
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2014年、名古屋駅西口にある古くからの住宅密集地で、当時52歳の男性が包丁で胸を刺され殺害された。きっかけは「三角関係のもつれ」だった。
内山靖英さんのノート:
「長年付き合っていたパートナーが殺害されて、かなりショックでした。罪が軽いことが許せない。ずっと償ってほしい。絶対に許せない。」
内山さんと同居していた男性は家事や身の回りの世話に加え、内山さんの母の介護もしていた。
20年寄り添った最愛のパートナーが殺害されたショックで、声を出せなくなってしまったという内山さんは、仕事を続けることが難しくなった。
内山さんが助けを求めたのが『犯罪被害者給付金(遺族給付金)』で、殺人などにより不慮の死を遂げた犯罪被害者の遺族に、再び平穏な生活が営めるよう支援する国の制度だ。
堀江哲史弁護士:
「法律上結婚している配偶者だけじゃなくて、事実婚・内縁関係の事実婚の方にも払われる制度になっている。異性に限るとか、同性はダメとかそういう話は書かれていないです」
しかし、愛知県公安委員会の裁定は『不支給』だった。
■「これを差別というのではないか」司法に訴えるも立ちはだかった“壁”
内山さんは2020年、裁定の取り消しを求め名古屋地裁に訴えを起こしたが、一審では「社会通念」を理由に棄却された。
内山さんのコメント:
「“同性パートナーが、男女間の婚姻と同視できるほどの社会通念が形成されていなかったことが理由”と聞きました」
さらに二審でも、「社会的な意識」は形成されていなかったとして、訴えは退けられた。
内山さんのコメント:
「パートナーが殺された悲しみが同じでも、“社会的な意識”が足りないからダメと言うなら、これを差別というのではないですか」
“社会通念”に“社会的な意識”。内山さんに立ちはだかったのは「社会の壁」だった。
堀江弁護士:
「なぜ同性間において事実婚が成立する余地すら認められないのかは、説明されていません。一切の適用の余地を否定しており、端的に差別的です」
そして提訴から6年が経った2024年3月26日、最高裁は名古屋高裁の判決を“破棄”した。
判決では、今回の法律の目的・趣旨を「遺族らの精神的、経済的打撃を軽減すること」とし、「制度の目的に照らせば、同性パートナーも支給の対象」との初の判断を示し、名古屋高裁での審理のやり直しを命じた。ついに破れた、社会の壁。
堀江弁護士:
「一般論として認められたということは大きな一歩だと思っています。“事実上婚姻関係と同様の事情にあったもの”という法律の解釈にあたっては、同性の者もその中に含めるということを、はっきりと最高裁に明言してもらいました」
事件から10年、苦痛の表情ばかりを浮かべていた内山さんも、笑顔になった。
内山さんのコメント:
「今の気持ちは、一言で言えば『ホッとしました』になります。パートナーを殺害された苦しみは、同性パートナーでも、異性パートナーでも変わらないのに、違う扱いをされることはおかしいと思っていました。僕の裁判を応援してくれた人たちも喜んでくれていたら嬉しいです」
■内山さんの裁判は『希望』に… それでも不安抱える同性カップル
内山さんの裁判に注目していた人がいる。岐阜県関市で共に暮らす中村文亮(ふみあき 36)さんと、谷村祐樹(ゆうき 36)さんだ。
2人は2023年9月1日、岐阜県の「宣誓制度」で第1号として認定されたパートナー。生活を共にして約6年が経ち、互いの存在が生活の中で日々大きくなるなか、内山さんの判決を、自分のこととして注目していた。
中村文亮さん:
「法律でこうなっているからといわれてしまうと、できないことってまだまだあるんだなとすごく突きつけられてくるというか。自分たちもそういう判断をされるんだろうなという風に思いましたね。最高裁で判断していただけたことで、本当に希望を持てるようになった」
谷村祐樹さん:
「やっと男女であっても同性間であっても、パートナーとして、家族として暮らしていた事実が認められていく社会になっていく。それを最高裁がしてくれたんじゃないかなと感じました」
「パートナーシップ宣誓制度」で認定されたことで、自分たちの関係を「家族」だと自信を持つことができたと話すが、もしパートナーが不慮の死を遂げた場合を考えると、不安が尽きないという。
谷村さん:
「パートナーに万が一のことがあったときとかに病院、入院生活だったり手術だったりとか、亡くなってしまうようなことがあったら、自分がどういう風に家族として関わっていくことができるのかという保証が全然されていない状態で生活をしているので、そこはすごく不安」
中村さん:
「不安というか、どんどん出てくるだろうなとは思いますね」
■事件から10年の節目にもたらされた「希望」
世の中や司法の判断が少しずつ変わっても、同性パートナーの関係は法律から疎外されてきた。
最高裁判決の日、明るい笑顔を見せた内山さん。大切なパートナーを失ってから10年という節目に贈られたのは、『同性パートナーも遺族』という、2人の関係を公に認める判断だった。
矢崎暁子弁護士:
「今回、全国で初めて犯給法の事実婚該当性を争った訴訟で、たったひとりで戦ってこられた内山さん。内山さんには本当にお疲れさまでしたと言いたいです」
内山さんのコメント:
「期待しては裏切られてきたので、希望は持たないようにしていました。今回、最高裁判所の裁判官が、同性パートナーも異性パートナーも同じだよと認めてくれて、ようやく安心できました。」
誰もが大切な人と“家族”に。そんな当たり前の日を、今も待ちわびている人がいる。
2024年4月1日放送