「愛知ダービー」の歴史に残るような名勝負に
Bリーグ年間王者を決める『日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24』(以下CS)のクォーターファイナルが各地で開催され、3年ぶりにCSの舞台に進んだシーホース三河は、敵地で名古屋ダイヤモンドドルフィンズと対戦。5月11日の第1戦は78-69で、12日の第2戦も84-75で敗れ、三河の今シーズンはここで終了となった。
CS史上初の「愛知ダービー」となったこの試合。第1戦は、前半からクロスゲームで一進一退の攻防が続く。しかし後半開始直後、名古屋Dに9-0のランを作られてしまい、この差が最後まで響くことに。特に名古屋Dの齋藤拓実を止めることができず、齋藤に6本の3Pを含む21得点、7アシスト、2スティールというスタッツを許してしまう。スペシャルな才能に屈した第1戦となった。
第2戦は前日の敗戦を糧に、ライアン・リッチマンHCが策を講じる。ディフェンスの強度が高い西田優大や石井講祐を齋藤にマッチアップさせ、時間帯によってはビッグマンのザック・オーガストが齋藤のディフェンスにつくことも。徹底的にポイントガードの自由を奪うことで、エントリー(戦術的なオフェンスを始めるきっかけとなるプレー)すらさせないような激しいディフェンスを仕掛ける。
リッチマンHCが「三河はディフェンスから入るチーム」と話すように、受けるのではなく、この「攻めのディフェンス」で名古屋Dを苦しめ、一時は最大11点のリードを奪う。
後半に入ると、少しずつターンオーバーやディフェンスでのコミュニケーションミスが生まれてしまう。2Qの中盤から終始リードを保っていたが、4Qに逆転されると、そのまま一気に突き放され、残り2分半で73-62と11点のビハインドに。残り58秒で1点差に詰め寄るも、名古屋Dをとらえるまでにはいたらなかった。終わってみれば、この日も齋藤に5本の3Pを含む23得点、8アシスト、5スティールという圧巻のパフォーマンスを見せられる結果となった。こればかりは相手を褒めるしかない。
試合後、西田は「きのう(第1戦)負けて、バウンスバックしようということで、前半は本当にいいエナジーで自分たちのバスケができていたと思います」と振り返り、あと一歩で勝てるゲームだったからこそ「リードしていただけにもったいなかった。CSは甘くないな、で終わらせたらダメだと思うんですけど…悔しいです」と逆転負けを悔やんだ。
「古豪復活」を予感させたリッチマン新体制
リッチマン体制1年目はこれで終わりとなったが、来季も続投が決まっている。今シーズンについて、リッチマンHCは「自分たちの目指す土台を作ることができた」と振り返り、「成長の余地も感じることができました。この土台から上積みできる」と話した。
NBAと異なるFIBAルールに慣れること、異国でチャレンジすること、チームビルディングに取り組むこと…。決して簡単なことではなかったはずだが、そんなシーズンを「アメイジングタイム」と表現し、「楽しかったし、チームも自分自身も成長できた」と話すリッチマンHC。
来季も三河でプレーすることが決まっている西田も「最初のバイウィークに入るまでは勝ったり負けたりの状況が続く中、少しずつ勝ち星が先行するようになって、ライアンのもとでやっていることは間違いじゃないと感じた」と新体制で挑んだシーズンを振り返り、「来季は自分たちのバスケを積み上げていきたい」と誓った。
今シーズンのチームについて、西田は「オフコートからみんな仲がよく、ザックとかが、ご飯行こうぜ、と誘ってくるような感じで。そこには亮伍さんやアヴィとかうまくつないでくれる仲間もいて」と話す。「オンコートだけでなくオフコートも濃いチームでした」という言葉からは、このメンバーで1試合でも多く続けたかったという気持ちが伝わってきた。
側から見ても、チームの雰囲気の良さは十分に感じられるシーズンだった。28年にわたってチームを率いてきた鈴木貴美一HCが退任となり、33歳の若い外国人HCを招聘した三河。前任者が築いた過去の栄光を知るファンは、大きな期待よりも、大きな不安を抱いたかもしれない。蓋を開けてみれば、オフェンスやディフェンスのシステムはもちろん、練習時間をはじめとした日々のルーティン、さらにクラブとしての情報発信等のスタンスまで、ありとあらゆるものが変わった。勝利や敗戦から「カイゼン」を積み重ね、リーグにサプライズを与えるチームに成長した。
実りある1年を終えた今、「来季は優勝を目指す」と宣言しても、笑うライバルはどこにもいないだろう。三河のチャレンジはここまでとなってしまったが、長い目で見れば旅の途中に過ぎない。この先、どんな素晴らしいチームが生まれ、どんなサプライズを与えてくれるのか。期待と不安から始まった1年目。リッチマン体制2年目は、今はもう大きな希望しか残っていない。