5時間営業で“年間10億円”…三重の『ローカルスーパー』がネット販売で異例の成功 その徹底したコスト管理
成功するのが難しいといわれる「ネットスーパー」で、三重県の『ローカルスーパー』が大成功している。配送のコストを徹底したうえ、自社アプリを開発するなどして成功したその先には、今後スーパーが生き残っていくための戦略があった。
■収益化難しい「ネットスーパー」 大手は積極参加も『ローカルスーパー』では収支合わず
三重県菰野町(こものちょう)に住む共働きの山岡慈美(やまおか・よしみ 35)さんが、帰宅してすぐに確認するのは、“ネットスーパー”で購入して届けられた食材や日用品だ。
山岡慈美さん:
「たっぷりです。今日は特に多いですね。お肉とか、牛乳、卵。子どもが注文したアイス」
山岡さん:
「今はもうこれがない生活が考えられないです」
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便利な「ネットスーパー」は、民間の調査会社「富士経済」のデータで、市場規模は3128億円を見込み拡大傾向だ。2023年は前年より13%近く増えている。地方の過疎化や公共交通の廃止などによる高齢者の“買い物難民”問題や、共働き世帯の増加やスマートフォンの普及といった“ライフスタイルの変化”で「ネット・宅配スーパー」の利用が加速している。
大手の「イオン」は2023年7月、千葉市内でネットスーパーの新しい物流拠点となる巨大な倉庫を整備し、稼働を始めた。小売り各社も積極的に設備投資を進め、今や見逃すことのできない市場だ。
しかし、いわゆる『ローカルスーパー』では事情が異なる。東海3県で21店舗を展開するスーパー「タチヤ」は、大量の仕入れと企業努力を重ね、生鮮食品をお値打ちに販売する人気店だが、ネットスーパーについては“非効率だ”と話す。
タチヤみなと店 吉田有輝店長:
「うちのやり方ではちょっと非効率的になってしまうのかなと思って。配送に関するコストもそうですし、ピッキングしないといけなくなってくるコストも」
スーパー業界は、価格競争で利益が出にくい。商品の「箱詰め」や「宅配」に追加コストがかかるネットスーパーは収益化が難しいのが現状で、人もお金も限りあるローカルスーパーでは、なおさらだ。
■「私の知る限り日本一の売り上げ」 三重のローカルスーパーが徹底した“コスト管理”で急成長
その難しい分野で成功しているのが、三重県四日市市にある「スーパーサンシ」だ。三重県の北勢地域で13店舗を展開していて、従業員数はパートも含め2500 人ほどの中堅スーパーだ。
スーパーサンシ 高倉照和専務:
「2022年実績でネットスーパーで10億円。店舗出荷型では、私の知る限り日本一の売り上げを誇っている」
サンシでは、自社が開発に関わったスマホアプリからネット注文ができる。
目玉商品は広告チラシのようなデザインのページでわかりやすくまとめるなど、幅広い年齢層を意識してレイアウトされている。
8店舗で行っている宅配の売り上げ額と件数は、この10年で倍近くも増加した。サンシによると、売り上げもさることながら、16年連続で黒字をキープし続けている。
その秘密は、店舗の「バックヤード」にあった。
バックヤードには大きな冷蔵ケースがあり、肉や刺し身などの生鮮食品に、惣菜や寿司なども並べられていて、スーパーがもう1店舗あるかのようだ。パートの従業員が、次々に箱詰めをしていく。
高倉専務:
「非常に生鮮比率が高い。刺身、お肉、お寿司、惣菜関係、非常に多く売れております。今日で店の35%くらいがネットで売れています。毎日が年末みたいな感じですね」
その日の配送分は午前中で締め切り、トータル5時間以内で1日の作業を完了するという。
高倉専務:
「(他の)ネットスーパーですと、1日中ずっとやってたりするんですね。そういうことをやると(採算)合わないかと思います。朝1発で締めて、こういう感じでラインで流す。工場みたいに。そうすることで1件当たりのコストが非常に安く抑えられるんですね。5時間営業で(年間)10億円売るのは、リアルのスーパーでもなかなかないと思いますね」
「黒字」のカギは、徹底した『コストコントロール』だ。
サンシでは、自社のトラックとドライバーを用意している。ネットスーパーにとって高いのは“配送コスト”だからだ。
さらに、原則、自社で設置した宅配ロッカーに「置き配」することで、1件あたり3分ほどで配達でき、再配達による時間のロスを徹底的に排除した。配送料は月額525円(税込)からの「サブスク」だ。
高倉専務:
「日中の5時間なのでドライバーも5時間なんですね。なので(ドライバーは)主婦の方が非常に多い。日中の時間を活用していただいています」
ドライバーはほとんどが自社のパート従業員で、宅配にかける時間も1日あたり5時間と決めているため、輸送量の減少が懸念される「物流業界の2024年問題」の影響も受けない。
高倉専務:
「スーパーって非常に粗利が低いわけですよね。物流会社に委託してやってしまうと絶対に黒字化しないんですね。再配達をしてしまったら絶対(採算が)合わないんですね。生鮮食品もネット主体で買う時代が近く来るんですよ。これは間違いないですね」
ネット注文を締め切る午前中で、その日の売り上げが確定するため、廃棄や賞味期限間際の値下げのロスも回避している。この仕組みで、儲からないといわれているネットスーパーで黒字を出し続けている。
■目指すは『最強のプラットフォーム』 全国のスーパーを救うための挑戦
ローカルスーパーの「サンシ」は、2019年から、他社に対するネットスーパーの『コンサルティング業務』を開始した。全国各地のスーパー23社を助け、そこで得た利益は、日々進化するアプリの開発費に充てているという。
高倉専務:
「一緒になって開発費という名目でロイヤリティを頂きながらですね。最強の共通のプラットフォームをみんなで使いましょうという意味で今進めています。地元では、イオンさんがすでにいい場所は全部抑えているわけですよ。宅配だったら、今度は立地は関係ない。『ネットスーパー売れるんだ、黒字になるんだ』というのがわかればまた業界も変わってくると思います」
■子供に頼む“おつかい”もネットで…スーパーの生き残りのカギは「ネット」に
サンシのネットスーパーを愛用している、三重県菰野町の山岡さんは、買い物にかける時間が減り、フルタイムで働けるようになったという。
山岡さん:
「これはきょう買ったトマトと…ブロッコリースプラウトです。きれいな野菜を届けてくれるので。(以前は)買い物する時間も考えて、パートタイムで早く帰らせてもらっていたりとか」
子供たちに頼んでいた“おつかい”も、今ではネットスーパーで注文するようになった。
山岡さんの長女:
「アイス。アプリでやるほうがやりやすい」
山岡慈美さん:
「私のほうから(子供に)あれ買っといてって頼んだりとか…洗い物してて、洗剤がその場でなくなって、こっちでくつろいでる娘に洗剤なくなったから買っといてと言って。娘がこっちで注文するみたいな」
2023年発表の内閣府の調査によると、いまや日本の夫婦の7割以上が共働きだ。ネットスーパーは、その救世主になるかもしれない。
高倉専務:
「私どものミッションとしては、生鮮食品の日々の買い物をもっと楽に。そのさきの地方のローカルスーパーさんが、しっかりと先におさえて、総取りを実現していくってことが非常に大事だと思います。ここを取らずにどこ取るのということでしょうね」
“ローカルスーパーの生き残り”と“地域の生活支援”のカギは、「持続可能なネットスーパー」にあるようだ。
2023年12月8日放送