“やむなく”から“欠かせない存在”に…介護の現場で増える『外国人スタッフ』職場のリーダーを担う人材も
介護の業界では人材不足が深刻ですが、今後はますます介護を必要とする人は増えると予想されていて「2025年問題」ともいわれています。
外国人スタッフを積極的に採用している施設では、当初は心配もありましたが、今では日本人スタッフも大きな信頼を寄せ、彼らがなくてはならない戦力になっています。
■介護業界の「2025年問題」 自前で外国人スタッフ育成する施設も
名古屋市港区の「老人保健施設かいこう」。お年寄りの共有のスペースから明るく「たなばたさま」を歌う声が聞こえてきます。
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ヒシャブ姿でお年寄りたちと一緒に童謡を歌うのは、インドネシアからやってきた介護スタッフです。
お年寄りを支えながら車いすに座らせたり、言葉をかけながら食事を補助したり。
この施設ではおよそ70人いる介護スタッフのうち、14人が外国の出身で、施設の欠かせない「戦力」となっています。
施設利用者の女性:
「良い方ばかりですよ。優しくてね、日本語が上手ですごいです」
日本人の同僚も信頼を寄せています。
日本人の同僚:
「外国人の職員には、すごい支えられているなというのはすごく感じます。フロアでも1日の人員のほとんどが外国人という時も、もちろんあるんですけど、安心して任せられる職員ばかり」
この施設のほか、東海地方を中心に病院などを展開する「偕行会(かいこうかい)」ではグループ全体でおよそ100人の外国人を受け入れています。
偕行会の理事 阿部一也さん:
「求人を出してもまず応募が来ない。日本人が来るのを待っていたんじゃ、施設の運営にかなり支障をきたしていきますので」
2025年は「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になり、介護を必要とする人はますます増えます。「2025年問題」ともいわれ、介護人材不足がさらに深刻になると予想されています。
偕行会はこの問題にいち早く手を打とうと、2014年から外国人の採用を本格的に始め、インドネシア中部の市と協定を結ぶなど、全国的にも珍しい取り組みを進めてきました。
偕行会が現地につくったトレーニング施設で撮影された動画には、ひらがなの書き方を習う様子が映っていました。
看護師や助産師の資格を持つ若者が、無料で日本語や介護技術の教育を受けられるようにし、自前で優秀な人材を確保しています。
偕行会の理事 阿部さん:
「インドネシアにある市が就職先として、日本を紹介してもらえているような状況なので。参加者の安心感が違うっていうことですね」
■外国人スタッフの熱意で変わった日本人スタッフの意識
外国人の介護スタッフの受け入れは、各地で広がりつつあります。日進市の「愛泉館」には2024年の春、ハビネス・クリスティーン・カサスさん(24)ら、初めて2人のフィリピン人女性がやってきました。
愛泉館の事務次長 浅井真希さん:
「やはり、正直最初からあまりいい印象はなかったと思います。でもまずは私たち管理者が外国人とともに働くことに対して、ポジティブな気持ちになって、それを働く一人ひとりに伝えていった」
当初、人手不足の問題のために、やむなく外国人を受け入れるという感覚があったといいますが、実際にやってきた2人の熱意に、イメージは変わったといいます。
スタッフの外国人女性:
「日本の料理は、おすすめはなんですか」
利用者の女性:
「やっぱりすき焼きとか」
話の最中、ベテランの日本人スタッフがアドバイスにやってきました。
車いすからベッドに移す介助のやり方を見守り、お年寄りを気遣いながら、優しく教えます。
ハビネス・クリスティーン・カサスさん:
「先輩たちとか、職員とか、リハビリスタッフに教えてもらいましたから大丈夫。困ったことがある時は、いつも聞きました(質問しました)から」
日本人スタッフ:
「最初に比べると、本当に体の使い方もゲストの体の動かし方もわかってきたかなというふうに思っています」
ハビネス・クリスティーン・カサスさん:
「いつか介護福祉士になりたいです。日本語のレベルをあげて合格したいです」
マラリス・アンジェリカ・アプラさん:
「子供の時から日本は私の夢なので、日本で働きたいです」
■外国人スタッフを斡旋する企業「受け入れ先の理解が重要」
彼女たちを紹介した会社が東京にあります。フィリピン、インドネシア、ミャンマー、ラオスに学校を持つ人材あっせん会社「オノデラユーザーラン」です。人材確保に苦しむ全国の施設に、外国人を紹介しています。
オノデラユーザーランの加藤順社長:
「東南アジアにいる若い人材でに対して、無料で教育する機会を与え、働き先を与えるスキームですね。それを日本の社会問題の人手不足と繋げて」
この会社が着目したのが、政府が2019年に導入した新たな在留資格「特定技能」制度です。介護や建設など12の分野で5年間に限り、外国人が働けるように。介護分野では、その間に「介護福祉士」に合格すればそのまま日本で働き続けることもできます。
オノデラユーザーランの加藤社長:
「我々も紹介する人数は、年々どんどん増えていっている状態ですね。これからどうしても人手不足で外国人が必要になってくる。外国人が働くことに対する(受け入れ先の)理解、ここが上がってくることもものすごく大事だと思う」
この会社が紹介した外国人介護スタッフが働く施設は全国で530あまり、スタッフの数はおよそ1600人に上ります。(2024年4月末時点)
■職場のリーダー的存在にも インドネシア人スタッフ「まるで夢みたい」
いち早く海外からの受け入れを始めた名古屋市港区の「老人保健施設かいこう」。
2015年にインドネシアからやってきたメリサ・アドリアニさん(33)は、いまでは日本人も含めた職場のリーダー役に成長し、新しいメンバーの指導係も務めます。
2019年に外国人には難関の「介護福祉士」の資格を取得し、日本で働き続けられるようになりました。
メリサ・アドリアニさん:
「働きながら勉強した。1日5時間から7時間勉強していました。介護福祉士のために」
いまでは後輩を指導し、励ます立場です。
「かいこう」では、今後も海外から人材を受け入れていく方針です。
老人保健施設かいこうの担当者:
「一番モデルになるのがメリサなのかなと。(メリサのように)育ってくれればうれしいと思う」
メリサ・アドリアニさん:
「まるで夢みたいですよね。もっとキャリアをアップしたいと思っていますね。リーダーとして、インドネシア人が安心して働けるようにサポートしていきたい」
介護現場の風景が変わり、超高齢化社会を支える外国人は、なくてはならない存在になっています。
2024年6月10日放送