人の生死と向き合う“重み”…女子大学生が見て、聞いて、感じた能登の被災地の今 ただの「怖い」から行動へ
名古屋の女子大学生が、復興の様子や現状を知るために能登半島地震の被災地へ向かった。被災者の気持ちを考えるあまり、聞きたいことが聞けずに葛藤したが、自らの目で見て、耳を傾けて得た経験を元に、新たな目標もうまれた。
■「自分の目で見てみたい」能登の被災地へ
名古屋市守山区の金城学院大学。3年生の9人が学ぶ都築ゼミでは、「社会課題と企画で向き合う」をテーマに、地域の抱える問題を取材する活動などを行っている。
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2024年の春に話し合っていたのは、彼女たちが抱える「悩み」についてだ。自分たちの「悩み」と繋がる社会課題を取材するというのが、この夏の課題となっている。
学生:
「結婚とか将来のこと」
「就活が早まっているから」
「女の子らしくしろって…」
女子大学生ならではの悩みが出るなか…。
加藤千沙さん:
「地震を体験してから変わったこと、当たり前だった日常を聞けたらと思っていて。大きいのが南海トラフで来るといわれている以上、見れば見るほど怖くなっちゃうし。自分の目で今を見てみたいなって」
加藤光稀さん:
「死とか命って、触れるのも難しいようなテーマだから、地震の話を聞くことはニュースでしかなかったから」
「地震」について関心を寄せる2人がいた。加藤千沙(かとう・ちさ 21)さんと加藤光稀(かとう・みつき 20)さんだ。
2人は「地震」について調べるため、能登半島地震の被災地へ向かうことになった。
■被災の現状を目の当たりにして抱えた“課題”と“不安”
地震のことは「ニュースの内容しか知らない」という加藤光稀さんは、不安を感じながら被災地へと向かっていた。
加藤光稀さん:
「(昨日は)寝られなかった。見ることとか全部受け止めきれる自信がまだなくて」
「自分の目で被災地を見たい」という加藤千沙さんは、緊張しながらも、少し“楽しみ”な気持ちもあるようだ。
加藤千沙さん:
「緊張感はあるんですけど、知らないところに行ってみるっていうわくわくと楽しみな気持ちはあります」
最大震度7を観測した石川県の能登半島に入ると、痕跡が至る所に残っていた。
加藤千沙さん:
「やばいね…」
地震で300棟が焼失したとされる「輪島朝市」に到着した。そこには、ニュースで見たのと全く変わらない光景が広がっていた。
加藤千沙さん:
「本当にあったんだなって。自分の目で見て感じました。」
加藤光稀さん:
「驚いています、ただ。風が吹くたびに瓦礫の音とかがして、今まで生きてきた中でそういう音きいたことがないから、怖いし、やっぱり」
2人は、朝市を拠点に、輪島塗りなどの漆器を制作している桐本滉平(きりもと・こうへい 31)さんから話を聞いた。桐本さんの自宅兼工房は、火事で全て焼けて、跡形もなくなってしまった。
桐本滉平さん:
「(地面と橋の間に)この幅があるから、どの車も通れなかったんですよね。これだけ地面が上がったことになる」
火事のことについて話を聞いていく、千沙さん。
加藤千沙さん:
「ここら辺で漏電が始まったんですか?」
桐本滉平さん:
「この辺で火が最初に上がって、あっちに燃えていった」
加藤千沙さん:
「実際に、火事のことが分かった時の心情とかお聞きしてもいいですか?」
桐本滉平さん:
「なかなかそれが現実だっていうのは、受け入れられなくて。大津波警報がずっと発令されていて。生き埋めになっている人がいっぱいいるんじゃないかっていうような状況だったんですよ。だから、皆さん家の中で生き埋めになった状態で火が回ってくるのを結局待つだけ、そのまま焼けてしまったっていう方が20名以上いらっしゃいますね」
桐本さんは、「被災地が復興を遂げるまで注目し続けてほしい」と訴えた。
桐本滉平さん:
「復興が進んでないということを、ニュースですごくご覧になっていると思うんですけど、それで終わったら意味がなくて。ここから誰がどうやって、復興していくのかっていうところには常に注目し続けていただきたい。やっぱり、忘れないでほしいですね」
取材を経験した千沙さんだが、“課題”を抱えていた。
加藤千沙さん:
「まだ現実な感じがしていなくて。変わっていない景色にすごく驚いた」
Q当事者に聞きづらいことはあった?
「実際、生死にかかわることは聞けなかった、思い出させてしまうんじゃないかとか、記憶を蘇らせてしまうんじゃないかって思うとやめようって思いました」
光稀さんは、“取材を続けられるのか”と、不安にかられていた。
加藤光稀さん:
「(Q聞きたい事は聞けた?)大丈夫です」
加藤光稀さん:
「人が亡くなったり、そのつながりも失われたり、日常が壊れるのを目の当たりにしたから。全部が想像を超えていて、もっと怖くなりました」
■「聞きづらいことにも踏み込めるようになりたい」
国の伝統工芸「輪島塗」も地震により大きな被害を受けていて、半年がたっても再開のめどが立ってない工房が数多く存在する。
2人は、輪島市にある「輪島キリモト」で作業する輪島塗職人・今瀬風韻(いませ・かざね 29)さんの工房を訪ね、話を聞いた。
今度は、光稀さんが取材をすすめていく。
加藤光稀さん:
「輪島塗がこの地震でなくなるっていう心配はありますか?」
今瀬風韻さん:
「職人の数とかやりたくてもできない人はたくさんいるので、今はまだ輪島のことを意識してもらってますけど、この先1、2年たったら輪島が忘れ去られてしまうんではないかという思いがあるので、とにかく覚えていて欲しい」
加藤光稀さん:
「地震の前と後で感じるものは違いますか?」
今瀬風韻さん:
「この仕事をできることが、当たり前のことじゃないと感じるので、もっとこの技術をどんどん後進に繋げていかなきゃいけないなって責任感をすごく感じています」
光稀さんは、インタビューを終えて外に出ると、泣き出してしまった。
加藤光稀さん:
「会話が何回も止まっちゃって。コミュニケーション取れる状態で、聞きづらいことにも踏み込めるようになりたいです」
変わっていない被災地への戸惑いと、聞かなければいけないことが聞けないもどかしさに、心は揺れていた。
■自分たちの目で見て、聞いたからこそ、感じたこと
石川県珠洲市の緑丘中学校の体育館では、地震から半年が経っても、30人が避難所生活を続けている。
「生死に関わることが聞けなかった」と話していた千沙さんは、被災者に気を遣いながらも、質問を重ねていく。
加藤千沙さん:
「いつからここに来られましたか?」
被災者の女性:
「1月1日からです。みんな逃げて逃げてって。津波で亡くなった人もいる」
被災者の男性:
「命さえあれば後で何とでもなります。挟まってる人をね、どうやって出そうとかね思うんですよ」
「踏み込んで話が聞けなかった」と話していた光稀さんも…。
加藤光稀さん:
「日常が急に変わったと思うんですけど…」
夫婦の2人:
「やっぱり当たり前にできていたことが当たり前にできない」
加藤光稀さん:
「1月1日に戻れたら何かしておいたほうがよかったなって思うことはありますか?」
夫婦の2人:
「地震自体が来てほしくなかったと思うけど、現実は変わらないので、何もできなかったというのが現状かなと思う」
被災地の今を、自分たちの目で見て、聞いたからこそ、感じたことがあった。
加藤千沙さん:
「『大丈夫』って後回しにしてしまうけど、それが積み重なって、後から後悔することになるよっていう話を聞いた時に、日頃の自分にも言えることだなって感じて。当たり前が当たり前じゃないって簡単に言うけど、言葉で聞くだけじゃない重みを感じました」
加藤光稀さん:
「怖いのは、もちろん今も変わらないんですけど。怖いって言って怯えてるばっかじゃなくて、せっかく伝えてくれたことだから、見て感じて実際に思ったことを、私も絶対に伝えたいなって思いました。来てよかったです」
2024年7月1日放送