高齢化が進み、日本は「多死社会」を迎えようとしている。“さまよう遺骨や遺体”が増えたり、火葬場のひっ迫で「遺体ホテル」と呼ばれる施設も作られ、注目されている。今、何が起きているのか。

■廃業した元葬儀場から見つかった2人は“身寄りのない遺体”

 愛知県岡崎市の元葬儀場で2023年11月、棺に入った2人の男性の遺体が見つかった。

【動画で見る】火葬待つ安置施設“遺体ホテル”まで登場…増え続ける『身寄りのない遺体や遺骨』高齢化社会から多死社会へ

当時、内部を取材すると、祭壇や冷却器とみられる機材のほか、防虫剤も見つかった。

遺体はそれぞれ死後、半月と4カ月が経っていた。警察が出動する騒ぎとなったが、その後、事件性はないと判明した。遺体は県内2つの自治体から依頼を受けた業者が保管していたというが、2人に共通したのは「身寄りのない遺体」ということだった。

なぜ火葬もされず、置かれていたのか。

■約3年前に死亡した男性は今も“冷凍庫”に…作業時間が膨大にかかる“身寄りのない遺体”

「身寄りのない遺体」の問題は名古屋市でも起きていた。名古屋市の西区役所の総務課ではこの日、2人の職員が調査に追われていた。

西区役所の担当者:
「相続人にこの方々に、この方が亡くなられたので、引き取りの意思の確認の文書を送る段階」

亡くなったのは独り暮らしだった70代の男性で2021年夏ごろに自宅で死亡し、2024年4月に見つかった。「墓地埋葬法」では遺体を埋葬、火葬する人がいない場合は、死亡地の市町村長が行うと定めている。

自治体は戸籍を取り寄せ、関係者に遺体や遺骨を引き取るかどうかの意思確認などをしなくてはならない。この男性の場合、亡くなった妻との間に娘がいることが判明し、8人きょうだいで、3人が生存していた。「きょうだい」が亡くなっている場合、「めい」や「おい」もたどらなくてはならない。

この男性は、まだ葬儀会社の冷凍庫の中で保管されているままだ。

西区役所の担当者:
「やっぱり時間はどうしても膨大にかかってしまうところではあります。別の担当業務をやりながら、その一方で亡くなった方の火葬はできるだけ迅速に行わないといけないという、なかなか負担感は拭えない」

ここ数年、作業はさらに困難になっている。名古屋市の「引き取り手のない遺体」は2014年度は58件だったが、2023年度は300件と5倍以上になった。

名古屋市では2022年、必要な手続きを行わず、身寄りのない遺体を火葬しないまま事実上、放置していた事案が発覚し、3年以上火葬されていなかった遺体もあった。

背景について名古屋市区政課の担当者は「当時、新型コロナウイルスが流行っていて、その関係事務を総務課で請け負っていたということもあって、どうしても親族がいない方っていうのは、誰からも急かされることがない事務なのでなかなか意識を高く持てなかったということが原因にはなっている」と話す。

身寄りがない遺体が増えていることについては「親族関係が希薄化していることだったりとか、1人で暮らしている人が増えたりといった面が背景にあるのではないか」としている。

問題発覚後、市は手続きを短縮し、配偶者、子に確認できれば火葬できると改めた。しかし、遺骨は「きょうだい」や、亡くなっていれば「おい」「めい」まで確認しなければならず、負担感は減っていない。

また、職員の心にのしかかるのは「引き取り手」の少なさで、2024年度は西区が作業を進める9件のうち、引き取られたのは1件のみ(6月時点)となっている。

西区役所の担当者:
「自分の家族が亡くなったりしたら、身内がやるのが当たり前の感覚で、そうではない家庭ももちろんあるんだなとなるまでは、理解に苦しむ部分もありました。ごくまれになんですけれど、ずっとご兄弟、亡くなられた方を『捜していましたよ』というご兄弟さんもいたりするんですよ。その人に伝えるすべとして、いわゆる行政が最後の場所なので」

引き取り手がない遺骨は名古屋市天白区の八事霊園の一角に、遺骨を納める施設がある。

施設に新たに収められる引き取り手のない遺骨は年々増加し、8400以上に上っている。

■「遺体ホテル」の登場も…身寄りあっても火葬が滞り生まれた事業

 身寄りがあっても火葬が滞る現状もある。

火葬までの間、安置する「遺体ホテル」が横浜市にある。新横浜駅からほど近いオフィス街に立つ「ラステル新横浜」は『ラストホテル』を略して名付けられた。

24時間、遺体との面会ができ、20体を収容できる霊安室から自動で運ばれる仕組みだ。

別のフロアには家族専用の面会室も7室用意されていて、祭壇には花や思い出の品、写真も飾ることができる。

「遺体ホテル」の事業は、時代の要請だったという。

「ラステル新横浜」を運営する「ニチリョク」の担当者:
「(火葬までは)亡くなられてから4~6日後が平均になっています。なかなか自宅での安置が難しい状況が10年前から出てきておりまして。そういったお困りの声が多かった」

この施設では27体の遺体を安置することができるが、時期によっては全て埋まることもあるという。この会社では事業の拡大を視野に入れている。

「ニチリョク」の担当者:
「お客様からも例えば『東京にないの』とか、いろんなお声もありますので、こういった形で少しずつ展開できればという思いもありますし、お客様がお見送りされるときですね、お客様が安心して臨める施設をこれからも作っていきたい」

■住宅街の「遺体ホテル」は過去に住民とトラブルも

「時代の要請」とはいえ、住民とトラブルになるケースもある。東京都に隣接する神奈川県川崎市では2014年、住宅街に突如、ある業者による遺体保管施設の進出計画が持ち上がった。

当時、自治会長を務めた黒田守正さん(88)ら住民たちは反対運動を起こした。

黒田守正さん:
「居ても立っても…そういうものが隣にあって置かれたんじゃね、たまらないから」

説明会も行われたが、業者と住民側の主張は平行線をたどった。

業者:
「エアコン、換気、全て屋上に室外機を設置させていただきます」

住民:
「そこに車が来て、止まった。あ、死体が来たんだ。それが不安だということ」

業者:
「申し訳ございません、24時間営業というのは変更する予定はございません」

住民:
「重い責任をね、負うってことだけは自覚してくださいよ」

施設は建築基準法上の「倉庫」として届けられ、営業が始まったが、その後、事業は行き詰まり、撤退を余儀なくされた。  

黒田さん:
「ただとにかく私らにしてみると、遺体置き場がなくなったことで安堵。そんなところですけどね」

地域を巻き込んだ騒動になったことを受け、川崎市は「葬祭場等の設置等に関する要綱」を定めた。罰則はないが、遺体保管所などを設ける際、事業者と住民の対話や住環境の保全を求めたほか、市長は必要な措置を講ずるよう事業者に「勧告」することもできるという。

川崎市まちづくり調整課の担当者:
「要綱は基本的に施設等を規制するものではございませんので。今後、そういう亡くなられた方が多くなった時に、民間がやる、とりあえず遺体保管する場所を規制する形になれば、あくまで国の方が考えるような内容になってくるんだろう」

さまよう遺体や遺骨、火葬をとりまく現実は、改めて「多死社会」との向き合い方を私たちに問いかけている。

2024年6月26日放送