三重県松阪市 に、高校球児だった修理職人が、使えなくなったグローブ を直してくれる修理工房があります。22歳の職人の男性は甲子園を目指す弟に、自分で作ったグローブをプレゼントしようと、初めてグローブ作りに挑戦。野球の普及に貢献したいと勤しむ職人の想いを取材しました。

■ボロボロになったグローブを蘇らせる「再生工場」

 ここは、三重県松阪市の山間にある、グローブの修理工房「やまもとベース」です。

【動画で見る】甲子園目指す弟に“自作”を贈る兄も…野球のグローブを直す“再生工場” 球児たちのために技磨く職人達の想い

紐が切れたり破れたり、長年使わずカタチが崩れてしまったものなど、使えなくなったグローブを修理しています。

代表の山本章太さん(35)は、5年前にこの工房を立ち上げ、昼間はトラックの運転手をしながら夕方から2人のメンバーとともに、工房でグローブ修理をしています。

やまもとベースの代表 山本章太さん:
「肌と一緒でやっぱ乾燥しちゃうので、まず油分を入れてあげて、その後上からワックスでコーティングしてあげるみたいな」

彼らの手にかかれば、ボロボロでカビだらけだったグローブもまるで新品のような輝きを取り戻します。

山本さん:
「始めたきっかけが、スポーツ店で修理するとすごい高いっていう声がちらほらあったので、野球離れが金銭的なこともあるので、僕はグローブの修理っていう一部分ですけど、手助けできればと思います」

小学校から野球を始めた山本さんは高校時代、地元・松阪工業のファーストでレギュラーを務め、2006年の3年生の時には三重大会の決勝まで進みましたが、惜しくも夏の甲子園出場を逃していました。

山本さん:
「自分が下手くそやったんで、野球が。グローブを手入れしたら、野球の神様も助けてくれるっていうあれもあった」

野球からは離れても普及に繋がればと、工房では5年間で1000個以上のグローブを修理してきました。

グローブの一大産地、奈良県の皮革(ひかく)加工会社と手を組み、オリジナルグローブの販売もしています。

■少年も「捕りやすい」と満足…紐が切れ革が破れたグローブを再生

 この日は、小学生のグローブ修理。紐が切れ、革が破れてしまっているようです。

「やれない修理は無い」と謳っているという、山本さんが修理に取り掛かります。

まずは、破れた革を裏側で補強。

そして表からミシンで縫い合わせます。

次に、型崩れを防ぎ、捕球をしやすくするためのグリスを内側に入れます。

最後は革紐を通して完成、作業時間は約2時間です。

山本さん:
「今まで使っていたグローブなので、みんな早く使いたいんですよ、だからこうやって柔らかくしてすぐ使えるようにという。OKですね」

そして、依頼者が受け取りに来ました。

依頼した男の子が、キャッチボールで感触を確かめます。

男の子:
「とりやすい」

男の子の父親:
「グローブって高いので、なかなか買い替えできないのと、使い慣れたやつをもう一回使いたいなっていうことで」

革ひもの交換と破れの修理で、金額は5000円です。

■弟にグローブを作ってプレゼント…グローブ職人の道に飛び込んだ若者の夢

「やまもとベース」のメンバーはみな野球経験者です。

ミシンを担当する芝山冬晟(しばやま・とうせい 22)さんは津市出身で、中学まで野球を続けていました。

芝山冬晟さん:
「(難しいところは)まっすぐ縫うことですかね。あとミシン穴、元の穴に針を通して縫っていくことですかね」

ものづくりが好きだった芝山さんは、2023年に東京で開かれた「グラブ職人スクール」に参加したことをきっかけに、本格的なグローブ職人への道を決意。

昼間は製材業をしながら「やまもとベース」のメンバーに加わりました。

芝山さん:
「お金目的でやっているんじゃないので。技術面の方は結構上がってきているので、そっちの方がありがたいですね。将来的には独立して、自分の店を建ててやっていきたいと思っています」

芝山さんは、休日もグローブ職人に教わるため奈良県まで行くほど熱心で、どうしても叶えたい夢がありました。

芝山さん:
「目標というか夢というか、弟にグローブを作りたいっていうのがあるので。8月28日が誕生日なので、その時に渡したらいいなと思っております」

芝山さんの弟は、2024年の夏の三重大会でベスト4まで進んだ三重高校の2年生で、4番を打つ芝山博翔(はくと)さんです。

芝山さん:
「弟がああやって試合に出ていると、僕ももっと頑張らないとってなりますね。最後の1年は、僕が作ったグローブで頑張ってほしいという思いがあります」

芝山さんは、グローブを作るのは初めてだといいますが、デビュー作は弟への誕生日プレゼントとして、ファーストミットを作ることを約束していました。

グローブ作りに必要なおよそ20種類のパーツを、縫い合わせて作っていきます。

芝山さん:
「弟がピンクの糸がいいって言っていたので、ピンク色で縫製の方やっていきます。今、高校生の中で糸の色がピンクというのが流行っているらしくて」

甲子園を目指す弟への、精一杯のエールの気持ちをミットに込めます。

きれいに縫製も進んでいましたが、作業を始めて7日目、紐を通すための穴まで縫ってしまうミス。

その後も苦難の連続で、先輩の職人も手を貸そうかと声をかけますが、芝山さんは意地でも自分の力で完成させようと意気込みます。

グローブ作りはこの日、深夜にまで及びました。

■弟も満面の笑み…グローブ再生工場のこれからの夢は

 そして8月2日、芝山さんは「やまもとベース」で、弟の博翔さんに手作りのファーストミットをプレゼントしました。

受け取った博翔さんも満面の笑みです。

芝山さんの弟 博翔さん:
「いい感じやね。握った感触が最高です。めちゃめちゃカッコいいです」

弟の甲子園出場への願いを込め、完成させたファーストミット。

芝山さん:
「初めての割りにはいい感じにできたのではないかな。やっぱり喜んでもらえたのが一番うれしいですね」

野球を愛する球児たちのために。工房を立ち上げた山本さんにも夢がありました。

山本さん:
「最終的には地元の(松阪市)飯南町が発祥って言われている、松阪牛の革を使ってグローブ作るっていう夢。地元の革を使って、地元の子が地元の選手のために出したグローブっていう感じでやりたいですね」

いつか三重県産のグローブを作り、故郷の選手に夢を掴んでもらいたい。山本さんたちの想いは、球児たちの夢へとつながります。

2024年8月7日放送