三重県鈴鹿市で9日、救急搬送中の救急車と乗用車が衝突する事故がありました。消防の現場では、救急車のサイレンに気づいてもらえていないのではないかという問題がいま、起きています。

 9日午前10時過ぎ、患者を乗せて緊急走行していた救急車が、交差点で乗用車と衝突し、患者を含む5人がけがをして搬送されました。

 別の事故の映像では、交差点に差し掛かる救急車に気が付いた多くの車が停止しますが、奥からきた黒い乗用車が衝突。救急車はバランスを崩して横転しました。

【動画で見る】大きな音でも衝突事故も…救急の現場が実感「救急車のサイレンに気付かれない」車の快適性やクレームも関係か

 現場にはサイレンの音が鳴り響いていましたが、救急の現場では消防士も「救急車を運転していて、気付いてもらえない」と感じることがあるといいます。

 サイレンに気付いてもらえない事態はなぜ起きるのでしょうか。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんは「快適な車」が関係していると指摘します。

自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さん:
「車の性能が上がって、遮音性、外の音が聞き取りにくい状況にある。ほとんどの車がエアコンを使っていますから、みんな窓を閉めて走っているわけですよね」

 サイレンの聞こえにくさを検証した動画があります。車内が静かな状況では、画面中央のあたりに救急車が見え始めると、サイレンの音が聞こえます。

 しかし車内で音楽をかけていると、すれちがう寸前までサイレンの音は聞こえてきません。音で救急車を認識できる距離に、大きな違いが見られました。

 このサイレンについて、愛知県の岡崎消防では、2つを使い分けています。よく耳にする「ピーポー」という音、そしてもう一つが「モーターサイレン」と呼ばれる汽笛のような大きな音で、交差点の進入を知らせます。

 ただ、患者の対応に人手がいる救急車では、運転手1人でこの操作をしなければならず、運転にサイレン、そして声による呼びかけの1人3役をこなしています。

 さらに今、サイレンを巡って問題が起きているといいます。

自動車生活ジャーナリストの加藤さん:
「すごいクレームがくるそうなんですね、『音がうるさい!』と言って。そういった所に入っていく時に音を消したりとか、文句を言われそうな所では音を落としたりとか、そういうことをやっているんですね」

 実際、東京消防庁によると、緊急車両のサイレンに寄せられた苦情件数は、近年急増しています。

 そこで岡崎消防など多くの消防では2023年、「コンフォートサイレン」という、これまでに比べて不快感を軽減したサイレンを導入しました。

 苦情や聞こえにくい問題はありながらも、現場の試行錯誤は続いています。

岡崎市中消防署の田邊徹署長:
「事故を起こしてしまうと、その段階でその救急車の運行は止まってしまいますので、かえって患者さんを早く医療機関に運ぶことができなくなりますので、事故だけは絶対に起こさないように細心の注意を払っております」