ロックバンド『JAYWALK』の元ボーカリスト、中村耕一さんは、2010年、覚醒剤取締法違反で逮捕され、有罪判決を受けました。1度は音楽から離れた中村さんですが、ボランティアで訪れた東日本大震災の被災地での交流や、周囲の人に支えられ、再び歌声を届けています。

■覚せい剤取締法違反容疑で逮捕…人気絶頂からの挫折

 ロックバンド『JAYWALK』の元ボーカリスト、中村耕一さん(73)は、1991年に発売された『何も言えなくて…夏』が100万枚近く売れて、紅白歌合戦にも出場。

【動画で見る】覚醒剤事件で転落…中村耕一さん14年ぶり“JAYWALK”でライブ パートナーらに支えられ「充実している」

しかし14年前に罪を犯し、歌うことをやめました。

2010年3月、覚醒剤を所持したとして逮捕され、懲役2年、執行猶予4年の判決を受けました。

JAYWALKの元ボーカル 中村耕一さん:(2010年3月)
「本当に、心から申し訳ない気持ちでいっぱいです、すみません」

中村さん:
「一番切羽詰まった時期ですね。とにかくヒット曲を出さなきゃいけないんだっていう…。甘かったですね、あの頃、本当に。何かに追い詰められてつい薬物に手出してしまった、そんな…。自分の中で、音楽を断ち切ってしまうということが、自分の犯した罪に対する償いの1つにはなると思った」

タレントで中村さんのパートナー、矢野きよ実さんは、名古屋で出演していたテレビやラジオの番組を全て降板しました。

中村さんのパートナー 矢野きよ実さん:(2010年3月)
「本当に覚醒剤のことは知りません。全く分かりませんでした」

矢野さんは弁護士と相談して、中村さんを名古屋に呼び、支えることにしました。

弁護士の高橋直紹さん:
「こういう事態になったらやっぱり、まず一番彼が安心できる場所で、安心できる人たちのところにいるのが、やっぱり立ち直りっていう意味からしても一番いいだろうと思っていたので、彼にとっての安らぎというか落ち着く場所っていうのは、やっぱり名古屋だったんだろうなと思った」

バンドをやめて、音楽と縁を切った中村さん、家事の手伝いが日課となりました。

中村さん:
「日常生活の大切さっていうのを教えてくれたのは矢野、かみさんですね。四季折々の旬のものを覚えたり、香りだったり、空気だったり、そういうものを感じた方がいいよ、ちゃんとした人間なれるからと言われた」

■再び歌い始めた中村さん 東日本大震災で亡くなった夫婦の葬儀で…

 中村さんは函館で生まれ、中学生でビートルズに出会い、50年以上、音楽と生きてきました。

中村さん:
「音楽をやめようって決めてから、さあ自分に何ができるのかなっていう…。結局何もできないですよね。歌うことしか能がないじゃないかということに気づいたというか」

中村さんが再び歌ったのは、およそ1年後の2011年、きっかけは東日本大震災の被災者との交流でした。

香積寺の住職:
「こちら(寺)にボランティアがかなりの数、寝泊りしましたね。ここに中村さんも、初めていらした時もここで雑魚寝です」

東日本大震災で多くの犠牲者を出した宮城県石巻市。中村さんはボランティアとして30回以上、この町を訪ねました。

香積寺の住職:
「檀家さんは18人亡くなられた方がいて、それであるご夫妻の葬儀の時に、中村耕一さんに歌を歌ってもらいました。感動しました、誰一人として涙を流さない人がいない」

津波で流された夫婦のために、中村さんは歌いました。

中村さん:
「被災者の皆さんに歌ってくれって言われて、こんな辛い状況の中でそういうことを言ってくれるってのは、歌わないわけにいかないですよね」

■仲間やパートナーの支えで…14年ぶりに「JAYWALK」でライブ

 それから2年後、中村さんはギタリストの三宅伸治さんに支えられ、もう一度音楽活動をはじめました。今では、年間100本以上のライブをしています。

ギタリストの三宅伸治さん:
「あれだけ素晴らしい、日本最高のボーカリストだと思うし、メロディメーカーだし、歌に対して誠実な感じがするんですよ、横で聞いていても」

そして2024年10月4日、中村さんは14年ぶりにJAYWALKのメンバーと、名古屋でライブをしました。

ベースの中内助六さん:
「十数年ぶりに会っているんですけど、昔より(声が)出ているんですよね。今の方がね。あれがまたすごい」

ドラムの田切純一さん:
「13年経っても何にも変わってなくて、さらにみんな個人でいろいろやったりしているんでスキルアップしている。耕一さんの歌がすごい良かった」

矢野きよ実さん:
「嬉しそうだったよね。みんなが、いろんなこといっぱいあったけど、やっぱり音楽をやりたいっていうことを言われて、本当に1つになれて、本当に諦めないでよかったなと思いますよね」

中村さん:
「とにかくいろんな人たちに、名古屋の人たちに僕は助けられて、名古屋にはもう感謝、感謝という気持ちでいっぱいです」

この日集まったのは550人、およそ2時間で20曲歌いました。

■「セカンドチャンスは難しいけど…」歌い続ける73歳

 ライブ中、キーボードの杉田裕さんが、中村さんが出演した映画の話に触れました。

キーボードの杉田裕さん:
「耕一さんがね、『はじまりの日』映画が公開されるんです」

中村さん:
「ありがとうございます。ありがたいんですけど、今更ながら本当に恥ずかしくてしょうがない」

映画『はじまりの日』は、名古屋を舞台にした音楽ファンタジーです。

中村さんが演じたのは年老いたロックシンガー。若き歌姫と出会い、再び夢がはじまる物語です。

映画では、中村さんの人生をモチーフにした場面も描かれています。

【『はじまりの日』の裁判シーン】
裁判官:
「主文、懲役2年、執行猶予4年を言い渡します。あなたの歌を支持する多くの人は、辛いこと、苦しいことに出会った時、あなたの歌を聞いて癒され、勇気づけられたと思います」

10月5日、名古屋市中村区の映画館「ミッドランドスクエアシネマ」で開かれた舞台挨拶で、中村さんはこんな話をしました。

中村さん:
「なかなかセカンドチャンスっていうのは、難しいという状況。それはしょうがないんですけど、でもあの諦めないというのは、すごい大切だなって思います」

中村耕一、73歳、歌い続けます。

中村さん:
「何て言うんだろうな、一番充実している感じがします。あんまりね、なんか楽しい、楽しいって言っていると誤解もされるんだけど、実際楽しいですよ」

2024年10月22日放送